2013 Fiscal Year Research-status Report
植物における光シグナルと環境ストレス応答のクロストーク
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24570058
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
坂田 洋一 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (50277240)
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Keywords | 光シグナル / ABAシグナル / ヒメツリガネゴケ / 葉緑体 |
Research Abstract |
1.ヒメツリガネゴケの明暗応答における内生ABAの役割を明らかにするために、内生ABAを欠損するヒメツリガネゴケの作出を試みた。被子植物のABA合成経路において働くzeaxanthinepoxidase (ZEP)遺伝子と高い相同性をもつヒメツリガネゴケ遺伝子 (PpZEP1)を相同組換えにより破壊した形質転換株を作出した。GC-MSを用いて形質転換株の内生ABA量を測定したところ、通常生育および浸透圧ストレス条件いずれにおいても内生ABAは検出限界以下であった。このABA合成欠損株および野生型株を暗処理した後にクロロフィルの定量を行った結果、ABA合成欠損株は野生型株と比較して有意にクロロフィル含量が低下していた。このクロロフィル含量の低下は暗処理期間中のABA投与により回復した。以上の結果から、ヒメツリガネゴケの明暗応答に内生ABAが関与していることが明らかとなった。 2.葉緑体機能におけるABAの役割を明らかにするために、野生型株にABAを投与した後に、共焦点蛍光顕微鏡において観察を行った。その結果、野生型株の細胞当たりの葉緑体数は無処理と比較しておよそ2倍に増加することが明らかとなった。さらに、ABAシグナル伝達が恒常的に起こっているPP2C欠損株では、ABA無処理の状態で細胞当たりの葉緑体数が野生型株のおよそ2倍であった。このことから、ヒメツリガネゴケにおいてABAは葉緑体の分裂制御に関与していることが示唆された。 3.光シグナル応答の上流で働くCOP1は、ヒメツリガネゴケにおいて9遺伝子によりコードされている。これら遺伝子発現の明暗応答を野生型株とPp2C欠損株において、RT-PCR法により解析を行ったが、有意な差は認められなかった。 4.明暗応答制御を受けることが知られているシロイヌナズナCAB1遺伝子プロモーターをレポーター遺伝子GUSに融合したコンストラクトをヒメツリガネゴケの一過的発現系に供したが、プロモーター活性は明暗共に認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
明暗処理におけるABAの関与については、ABAシグナル伝達系変異株のみならず、ABA合成欠損株を新たに作出して、その関与の確認に成功した点は大きな進展である。また、ヒメツリガネゴケにおいてABAが葉緑体の分裂制御に関与していることが明らかになった点は予想外の成果である。以上のことから、ABAはヒメツリガネゴケの葉緑体機能に密接に関与していることが明らかとなった。 一方、明暗応答のどの点にABAおよびそのシグナル伝達系が作用しているのかについては、大きな進展が見られていない。光シグナル伝達の上流に位置するCOP1はシロイヌナズナでは1コピーなのに対して、ヒメツリガネゴケでは9遺伝子存在している。現在の所、これらのヒメツリガネゴケCOP1遺伝子はABAシグナル伝達の影響を受けていないという結果が、半定量的RT-PCR解析により得られていることから、COP1よりも下流でABAが作用していると考えられる。また、光シグナレによる遺伝子発現制御のレポーターとして利用されているシロイヌナズナCAB1遺伝子プロモーターが、ヒメツリガネゴケでは活性をもたないと言う結果も予期しない結果であった。これは、シロイヌナズナとヒメツリガネゴケにおいて光シグナル伝達制御に違いがあるためなのか、単純にプロモーターの問題であるのかは明らかでない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度が本研究課題の最終年度であることから、実施が遅れている明暗応答の網羅的遺伝子発現解析を早急に進める。当初はマイクロアレーを用いる予定であったが、近年の次世代シーケンサーの技術進展から、RNA-seqが簡便に利用できる環境が整いつつある。さらに、本学では文部科学省共同利用施設として認定を受けている生物資源ゲノム解析センターを有していることから、RNA-seqを用いた解析に変更する。 また、シロイヌナズナCAB1プロモーターがヒメツリガネゴケで作用しなかったことから、ヒメツリガネゴケCAB遺伝子プロモーターを用いたコンストラクトの作製を急ぐ。 当研究室が有する様々なABAシグナル欠損体を用いた解析を継続し、ABAシグナル伝達系のどの点で光シグナルとのクロストークが起こっているかを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.予定していたマイクロアレー解析のサンプル数を減らしたため、消耗品にかかる支出が減少した。 2.論文発表用の費用を計上していたが、論文投稿受理にまで至らなかったため。 1.RNA-seqの消耗品に使用 2.本年度論文発表・掲載にかかる費用として使用予定。
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