2012 Fiscal Year Research-status Report
大規模生態群集に見られる多様性のパターンとその創出機構
Project/Area Number |
24570099
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
時田 恵一郎 大阪大学, サイバーメディアセンター, 准教授 (00263195)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 国際研究者交流(英国) / 国際情報交換(英国,台湾) |
Research Abstract |
熱帯雨林や珊瑚礁などの,多種からなる大規模生態群集において普遍的に観測される種個体数分布 および種数面積関係などの「多様性(種の豊富さ)のパターン」が生み出されるメカニズムの解明は,理学的にも環境保全などの応用上も重要な課題である.これに対し,多種群集の数理モデルを構築し,近年発展してきた統計物理学や集団遺伝学における理論的手法を用いた解析を行い,多様性のパターンがさまざまな群集パラメータにどのように依存するかを調べることが本研究の目的である.当該年度においては,現実に観測される多様性のパターンを示す多種群集の数理モデルとして種間相互作用が時間的に変動する適応的・進化的な群集モデルの振舞いを統計力学的な方法を用いて理論的に調べ,種間相互作用の時間変動が確かに群集の安定性や多様性に寄与することを見出した.これは従来シミュレーションによって得られていた描像を厳密な数学的解析によって証明した最初の結果である.さらに,中立性を破る「格子ほぼ中立モデル」の振舞いをGPUシミュレーションによって解析した結果,ある条件下では中立性を仮定しなくても完全な中立モデルと同じ種の豊富さのパターンや多様性を示すことが判明し,それらが種子や幼体が分散する距離に依存して変化することなどを新たに見出した.これらの結果により,本研究課題の目的である多様性のパターンの創出機構として,種間相互作用の適応的・進化的変動や種の分散距離の影響などを理論的に示すことができた.これらの結果について,2件の国際会議招待講演,1件の国際会議口頭発表,5件の国際会議ポスター発表,4件の国内学会口頭発表を行い,査読付き国際論文誌に2件論文を発表した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
レプリケータ方程式系,中立モデルそれぞれについて予定以上の成果,予定通りには進んでいない研究がそれぞれあるが,全体の平均としては概ね予定したレベルの成果が上がっているものと考える.予定以上の成果についてはさらに論文発表や国際会議発表などを通じて国際的な情報発信を続ける.レプリケータ方程式系における非平衡領域の解析については予定通りの成果が上がっていないが,これは研究計画立案時にも予想された状況でもあり,次年度は研究計画にもある通り,スーパーコンピュータやGPUなどを用いた大規模シミュレーション研究を進め,理論的な解析のための情報を収集する予定である.
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度得られた結果であるところの,相互作用が時間変動する多種群集モデルの統計力学的解析に関する論文を執筆・発表する.さらに,英国の共同研究者と集中的に議論する機会を作り,多種群集の数理モデルの統計力学的解析を進め,より現実的な適応的・進化的な多種群集モデルを数学的に厳密に解析する手法を構築し,多様性のパターンと群集パラメータとの関係を明らかにする.「格子ほぼ中立モデル」に関して得られた結果についても,本年度発表した論文の内容の他に,より生態学的にインパクトの高い仮説が得られたので,それを検証し,論文を執筆・発表する.研究計画にも書いた通り,韓国釜山大学 Tae-Soo Chon 教授および Kyung He 大学の Young-Seuk Park 教授のグル ープおよびフランス Paul Sabatier 大学の Sovan Lek 教授のグループらと共同研究を進め、韓国およびフランスの河川底生動物の群集データを用いて、上記の非平衡状態にあるランダム相互作用レプリケーター方程式系や「格子ほぼ中立モデル」が予測する種個体数分布などの多様性のパターンの検証を進める.同時に,国際学会等でも積極的に情報発信を続ける.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品購入額はほぼ予定通りとなったが,円高の影響もあり旅費への支出が予定より少なくなったので,次年度においては為替の動向も注視しながらより一層積極的に国際学会等での発表・情報発信を進めたい.また本年度においては,人件費・謝金も支出されなかったので,さらに知識や技術の供与についても積極的に機会を覗うこととしたい.
|