2013 Fiscal Year Research-status Report
ヤスデ類における体サイズ大型化を伴う多発的な種分化メカニズム
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24570103
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
田邊 力 熊本大学, 教育学部, 教授 (30372220)
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Keywords | 種分化 / 生殖的隔離 |
Research Abstract |
研究実施計画に沿って実績を述べる。 1. 分子系統に基づく体サイズ大型化を伴う多発的な種分化パターンの解明:中国~九州地方のアマビコヤスデ属のサンプルについて、mtDNA COI・COII及び核EF1-αの塩基配列解析を行った。mtDNA COI・COIIに基づく解析からは、上記地域全域に分布する小型種アマビコヤスデから、大型6種の分化が示されるが、核EF1-αに基づく解析からは大型種が3もしくは4へと減少する結果となった。この違いは浸透交雑のためmtDNAに基づく解析では精度の高い系統推定が行えないことによると考えられる。 2. 同所的な小型種と大型種の間の機械的隔離の確認:上記の結果より系統の精度向上が当面の重要課題となった。本作業は精度の高い系統情報に基づかねばできないことから取り組みを保留とした。 3. 体サイズ大型化要因の解明:寄生バエの影響について検討した。ハエの同定を末吉昌宏氏に依頼し、Syngamoptera flavipesと判明した。このハエはヤスデ成体内で蛹になり、蛹の幅はヤスデの体腔幅ちょうどになるため、ハエ成体とヤスデ成体間で体サイズの相関が期待された。解析してみるとハエ雌とヤスデ雄の間に有意な相関があり(n=8)、ハエ雄とヤスデ雄の間に有意な相関はなかった(n=7)。ハエ雌は体サイズ増大により卵数を増やすことで適応度を上げることができると考えられる。よってハエ雌が選択的に大きなヤスデに産卵し、ヤスデの体サイズに影響を与えている可能性がある。ハエの6蛹を追加飼育中である。 4. 追加事項(交尾器形態進化):対象群では体サイズに加えて交尾器形態も種分化に影響すると考えられる(Tanabe & Sota 2008; Sota & Tanabe 2010)。対象群を含むヤスデ類について交尾器形態進化パターンを報告した(Tanabe & Sota 2014)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
作業項目毎に理由を述べる 1. 分子系統に基づく体サイズ大型化を伴う多発的な種分化パターンの解明:浸透交雑によりmtDNAの塩基配列では精度の高い系統推定は難しく、今後、核の複数領域もしくはRADシーケンシング等による解析が必要となった。 2. 同所的な小型種と大型種の間の機械的隔離の確認:この作業は、上記の系統推定の上に成り立つ。系統推定に課題が見つかったことから、本作業は保留とした。 3. 体サイズ大型化要因:寄生バエがヤスデ体サイズに与える影響については、その可能性を示唆する結果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の方策により研究を推進する。 1. 研究対象の幅を広げる:本州、四国、九州のアマビコヤスデ属を主要材料としていたが、想定していたよりも種分化率は低いと考えられることから、近縁で同地域にに産し、多発的な種分化が報告されているババヤスデ属(Sota and Tanabe 2010)を主要材料に加えてることを検討する。 2. 系統の精度向上:核の複数領域の塩基配列もしくはRADシーケンシング等により系統推定の精度を上げる。 3. 体サイズに関する研究のまとめと論文化:(1)寄生バエのデータの蓄積と論文化:寄生バエがヤスデ体サイズに影響していることを示唆する結果が得られている。データを追加し、論文原稿の執筆に入る。(2)体サイズと標高の関係:研究対象の一つであるアマビコヤスデについては、標高と体サイズの関係についてのデータがあることから、これを解析して論文原稿の執筆に入る。 4. 交尾器形態進化に関する研究のまとめと論文化:本研究は体サイズに着目しているが、対象群では交尾器形態も種分化に影響を与えると考えられる(Tanabe & Sota 2008; Sota & Tanabe 2010)。対象群を含むヤスデ類については、主にサイズに関係した交尾器形態進化パターンを報告しているが(Tanabe & Sota 2014)、形状に関係した交尾器データもあることから、それらを解析して論文原稿の執筆に入る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度は野外採集を伴う分子系統解析で予算の多くを執行する予定であったが、年度途中において、用いている遺伝マーカーの一つに問題があること、及び対象群の種分化率が予想よりも低いことがわかった。そのため遺伝マーカーと対象群の範囲についての見直しが必要になった。これらの検討に時間を要したため、分子系統解析を途中で中断し、次年度に予算の一部を回して解析することにした。 分子系統解析(機器、試薬、解析委託費)として50万円、野外採集調査旅費として40万円、学会参加旅費として20万円、その他(消耗品、論文英文校閲料など)として13万円を予定している。
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Research Products
(1 results)