2014 Fiscal Year Research-status Report
鳥類におけるさえずりの地理的変異と種分化:特に形質置換による生殖隔離について
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24570119
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
濱尾 章二 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (60360707)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | さえずり / 形質転換 / 種認知 / 生殖隔離 |
Outline of Annual Research Achievements |
南西諸島にはシジュウカラ、ヤマガラという近縁の2鳥種が生息するが、島によってはいずれか一方の種しか生息していない場合もある。他方の種が生息するか否かによってある種のさえずりが変化したり、種の認知能力が変化したりするのではないか。これらを調べるために、さえずりの音響学的分析と野外での音声再生実験を行っている。 今年度は、さえずりの地理的変異(方言)について、他方の種が共存するとその音響学的特性から逃れる方向にさえずりが変化するという仮説と、その代替仮説を検討するため、前年度までの調査では不足していたデータをすべての調査地(島)から収集した。すなわち、音の伝わりやすさに関わる植生のデータ、2種の共存の程度を表す相対密度、種内の競争の強さを表す個体群密度を測定した。そして、さえずりの変異をもたらす要因を統計的解析によって探索した。その結果、植生構造(枝葉の茂り具合)と他方の種(ヤマガラ)の存在の有無によって、シジュウカラの音声の変異が生じていることが明らかとなった。ヤマガラでは、検討したどの要因も変異を説明できなかった。このことは、ヤマガラよりも様々な林相の森林に棲むシジュウカラは植生構造に応じて伝わりやすい音声を用いていること、そしてシジュウカラは、体の大きなヤマガラの攻撃等ハラスメントを避けるためにヤマガラに誤認されないよう厳密なさえずりをしていることを示唆する。 また、同種異所個体群のさえずり(よその方言)は同種のものと認知されるかどうかを調べるために音声再生実験を行った。分析の結果、他方の種と共存している個体群では同種異所個体群のさえずりを同所のものと区別したが、共存しない個体群では同所異種個体群のさえずりを同所のものと区別しなかった。このことは、同所的に分布する近縁種が種の認知を厳密なものにさせていることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
南西諸島の主だった島からさえずり録音を収集し音響学的分析を行った。そして、さえずりの地理的変異が何によってもたらされたかに関する複数の仮説を検討するに足るデータをすべての調査地から得て、統計的解析を行った。また、同種異所個体群の音声(方言)を同種のものと認知するかどうかの野外実験をシジュウカラ3個体群、ヤマガラ6個体群で行った。これらは、計画通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
さえずりの似た近縁種が同所的に分布するか否かによって、異種を区別する能力も影響を受けるのではないか(近縁種がいないと、その近縁種さえ同種ととらえてしまう)という可能性を探る音声再生実験を行う。 また、ヤマガラと共存するシジュウカラは、さえずりをヤマガラのものと異なるよう音声を変化させていたが、もしそうしなかった場合どのような不利益が生じるのかを探る音声再生実験を行う。
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Causes of Carryover |
謝金での支出がなかったため。これは、調査のための旅費・レンタカー代が多く必要で残が少なくなり、また有能な人材が得られなかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
公募を行うなど有能な人材の確保に努め、分析補助のための人材を得て、人件費あるいは謝金として支出する予定である。
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