2013 Fiscal Year Research-status Report
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24570140
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Research Institution | Osaka Medical College |
Principal Investigator |
林 秀行 大阪医科大学, 医学部, 教授 (00183913)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村川 武志 大阪医科大学, 医学部, 助教 (90445990)
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Keywords | 酵素反応機構 / 反応特異性 / 補酵素 / ピリドキサールリン酸 / 反応速度論 / 量子化学計算 |
Research Abstract |
ピリドキサールリン酸(PLP)依存性酵素の中で最も複雑な反応機構を有するトレオニン合成酵素(TS)が高度な反応特異性を有する機構の解明を続けている。その中で,主反応であるL-トレオニンの生成と副反応であるα-ケト酪酸(KB)の生成の分岐点となるL-α-アミノクロトン酸-PLPシッフ塩基(AC)から始まる,触媒反応の後半部分についての解析は「速度論的X線結晶解析」を除いて進んできている。しかし,ACに至る触媒反応の前半部分については全く手付かずの状態である。そこで,本年度はこの部分についての解析を開始した。 正常基質O-ホスホホモセリン(OPHS)とTSの反応では反応が最後まで進行するために,解析が複雑になることが予想される.そこで,OPHSのエステル酸素を炭素で置換することにより,リン酸イオンが脱離できないためにエナミン生成のところで反応が停止するような2-アミノ-5-ホスホノペンタン酸(AP5)を合成し,これとTSとの反応を詳細に解析した.その結果,TSからエナミン生成までの過程の詳細な素過程を明らかにすることができた。 理論的な研究が大きく進み, QM/MM計算により,TS触媒反応の後半部分の反応機構のほぼ全容を記述することができた。その結果,生成物支援触媒としてのリン酸イオンの役割は,当初考えた酸塩基触媒ではなく,生成物のβ-ヒドロキシ基との水素結合を通じて,Cαへのプロトン化および生成物のPLPからの遊離のためのイミノ基転移の2つの遷移状態を安定化することによって主反応の進行を促進していることが判明した。また,PLP依存性酵素として初めて,イミノ基転移反応の過程の詳細が明らかになった。すなわち,イミノ基転移の2つのgem-ジアミンの相互転換において,プロトンがPLPのO3'を介して移動することで円滑な反応の進行が起こっていることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
TS触媒反応の後半部分について,特にリン酸イオンによる生成物支援触媒の機構について,実験的および理論的解析により,その全貌が明らかになりつつある。今年度は特に,QM/MM法を中心とした量子化学計算に大きな進展があった。その成果は大きく2つあり,1つは生成物リン酸イオンによる「生成物支援触媒」の機構の詳細が明らかになったこと,もう1つは多くのPLP依存性酵素に共通の「イミノ基転移」の機構が明らかになったことである。前者は当初考えたリン酸イオンの「酸塩基触媒」としての働きとは別の,新たな遷移状態安定化による触媒の機構を示すものであり,また,後者はPLP酵素一般に共通の機構であるために,他のPLP酵素の反応機構研究に重要な情報を与えるものであり,いずれも学問的価値が高い。 触媒反応の前半部分については,いままで研究が立ち遅れていたが,良好な基質アナログである2-アミノ-5-ホスホノペンタン酸を合成することにより,この過程の解析を始めることができ,早速成果を得ている。それはカルボアニオン中間体を明確に捉えたこと,および活性部位の新たな酸触媒の存在とそれによる副反応防止機構の発見である。 これに対して,「速度論的X線結晶解析」については,昨年に引き続き,顕微分光レベルの中間体の確認にとどまっており,現在,解析に耐えうる回折像は得られていない。この点は目標に到達しているとは言えない。構造解析についてはまだ顕著な成果が上がっておらず,構造解析の本研究における重要性に鑑み,総合的に「やや遅れている」との判断とした。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の「現在までの達成度」の自己評価に鑑み,「速度論的X線結晶解析」に力を入れる必要がある。その困難さは生成物のL-トレオニンとTSとの結合力が極めて弱く,中間体のoccupancyが低いことが主要な原因である。従って,昨年度の評価においても可能性の一つとして挙げた,他の基質・基質アナログとTSの反応の速度論的X線結晶解析を行うことを企画したい。この目的に用いるのは基質OPHSと基質アナログAP5である。特に後者は詳細な素過程が明らかになりつつある。カルボアニオン中間体からのケチミン生成過程は比較的遅く,経時的な構造変化の追跡に適していると考えられる。 次に,AP5に加えてOPHSとTSの反応の追跡は種々のpHにおける追跡を行い,活性部位で新たに発見された酸塩基触媒の役割についての明確化を行う。 これと並行して,反応前半部分のQM/MM計算を進行させる。出発構造としては既に得られているTSとAP5との複合体のX線結晶から得られたエナミンを用い,これから逆行的にOPHSの生成に向かう方向で最適経路の探索を行う。 反応後半部分においてリン酸イオンの触媒作用が明らかになったわけであるが,前半部分においてこのリン酸イオンは基質にエステルの状態で結合している。このエステルのリン酸基が同様の触媒作用を持つかどうかに興味が持たれる。そこで,2-アミノ-4-クロロブタン酸やスルホホモセリンを合成し,TSとの反応を追跡して,このリン酸基の役割を探る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
反応解析のために種々の高価な試薬,例えば2-アミノ-5-ホスホノペンタン酸が大量に必要であったが,合成法を検討することにより,2万円程度の原価で3 g程度を合成することができた。これは購入すれば300万円もの価格になるもので,試薬代の大幅な節約を可能にした。その他,海外の学会参加において旅行社を比較検討するなど節約に努めた結果,上記の金額が発生した。 今までの成果をもとに,さらに多種類の基質アナログを使用して,反応解析・速度論的X線解析に供することが,今後の研究の発展のために大きく役立つと考えられる。上記金額はそれら基質アナログの合成のために使用する計画である。
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[Journal Article] A QM/MM Study of the l-Threonine Formation Reaction of Threonine Synthase: Implications into the Mechanism of the Reaction Specificity.2014
Author(s)
Shoji, M., Hanaoka, K., Ujiie, Y., Tanaka, W., Kondo, D., Umeda, H., Kamoshida, Y., Kayanuma, M., Kamiya, K., Shiraishi, K., Machida, Y., Murakawa, T., and Hayashi, H.
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Journal Title
J. Am. Chem. Soc.
Volume: 136
Pages: 4525-4533
DOI
Peer Reviewed
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