2012 Fiscal Year Research-status Report
不安定な鉄硫黄クラスターの生合成を担う超分子マシナリーの作動機構
Project/Area Number |
24570148
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
高橋 康弘 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (10154874)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 鉄硫黄クラスター / 鉄硫黄タンパク質 / 生合成 / マシナリー / 分子生物学 |
Research Abstract |
鉄硫黄(Fe-S)クラスターは単純な形のコファクターだが、化学的には不安定な物性のため、その生合成には極めて複雑なマシナリーが関与している。近年私たちは、大腸菌のイソプレノイド代謝経路を改変することによってクラスター生合成マシナリーの必須性を回避し、関連遺伝子群を自在に操作できる実験系を開発した。H24年度はこのin vivo実験系を駆使して、マシナリーの中心成分の機能残基/機能領域を洗い出し、さらに、二次的なサプレッサー変異を調べることによって、マシナリー成分の構造と機能、成分間の相互作用を明らかにすることを目的とした。 クラスター生合成系ISCマシナリーの中心成分であるIscUに対して、系統的な変異導入を行い、in vivo機能に必須な7残基を同定した。さらに、IscU のTyr3変異をサプレスする二次的な変異をIscS内に3種類見出した。IscU のTyr3については、IscSとの相互作用(硫黄原子の受け渡し)において、IscSの活性中心ループの構造変化を引き起こす分子スイッチとしての機能が示唆された。 HscAとHscBはISCマシナリーに必須なHsp70型シャペロンとコシャペロンだが、それらの欠損をサプレスする変異をIscUコード域に12種類見出した。これら変異型IscUタンパク質を生化学的に解析すると、立体構造が変性状態に変化していることが判明した。逆に、IscUの立体構造を安定化するよう変異を導入したところ、機能不全となった。したがって、IscUはstructuredとdenaturedの2種類の分子形態をとることが必要であり、その変換にはHscAとHscBが関与すると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. ISCマシナリーの成分に対する系統的な変異導入と、二次的なサプレッサー変異の解析の結果、IscUとIscS間、IscUとHscA/HscB間の相互作用の実体を明らかにすることができた。 2. IscUについてはTyr3以外にも必須残基を6種類(D39, K103など)同定したが、二次的なサプレッサー変異は得られなかった。これらの残基はIscUの活性中心を形成している可能性がある。 3. SUFマシナリーの中心成分SufBに対する系統的な変異導入を行い、16種類の必須残基を同定した。これらのうち8残基の変異は温度感受性を示すことから、立体構造の安定化に関与すると考えられる。残りの8残基について、二次的なサプレッサー変異の解析を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
1. 大腸菌のin vivo実験系を利用して、系統的な変異導入と二次的なサプレッサー変異の解析をさらに進める。ISCマシナリーの成分ではFdx、SUFマシナリーの成分ではSufCとSufEについても解析に着手する。 2. グラム陽性細菌のFe-Sクラスター生合成系は、大腸菌のISCとSUFマシナリーの成分が入り交じったハイブリッド型(sufCDS-iscU-sufBオペロン)である。H25年度は枯草菌のIscUホモログに着目して、その具体的な機能性を明らかにする。この目的のため、枯草菌のイソプレノイド代謝経路を改変してsufCDS-iscU-sufBオペロンの必須性を回避し、遺伝子を自在に操作できる実験系を開発する。 3. Fe-Sクラスター生合成マシナリーの成分間の相互作用、さらにマシナリー成分とクラスターを受け取るアポタンパク質との相互作用は、一過性で微弱なことが予想される。本研究ではこれらの相互作用を補足する目的で、ホルムアルデヒド(膜透過性で官能基に対する特異性の広い架橋試薬)を用いたin vivo架橋反応を検討する。架橋産物は特異抗体を用いたウエスタンブロッティング、ならびに免疫沈降と質量分析により同定する。 4. H24年度明らかにしたIscUとIscS間の相互作用に基づいて、それぞれの変異タンパク質を過剰に発現させ、精製標品の相互作用を生化学的に調べる。野生型のタンパク質と比較することにより、機能残基/機能領域の役割や分子間相互作用の詳細を明らかにする。また、複合体としての精製ならびに結晶化を検討する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H24年度の未使用助成金は、予定していたクロマト用樹脂の購入を見送ったため生じた。H25年に予定している海外出張を考慮して、節約に努めたことも要因の一部である。H25年度は、以下の用途に使用する計画である。 1. 物品費の多くは、クローニングや部位特異的変異の導入、DNAシークエンシングなどの分子生物学実験に用いる試薬類、一般的な生化学実験に用いる試薬類、タンパク質の分離・精製に用いるクロマト用樹脂、結晶化に必要な試薬類などの消耗品である。結晶化用VDXプレート、ディスポーザブルチップ、ピペット、チューブ、シャーレなどのプラスチック器具類、ならびに論文別刷りの購入費用も消耗品費に含む。 2.外国旅費は、2013年5月開催予定の、7th International Conference on Iron-Sulfur Cluster Biogenesis and Regulationでの成果発表を予定している。国内旅費は、連携研究者との共同研究をはじめ、国内学会やシンポジウムなどにおける成果発表を予定している。 3.人件費・謝金等では、研究補助者のアルバイト料、および英語論文原稿の英文校閲を予定している。
|
Research Products
(6 results)