2012 Fiscal Year Research-status Report
腸管における架橋酵素を介したシグナル伝達制御と腸内細菌との共生成立の分子機構
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24570164
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
川畑 俊一郎 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90183037)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 自然免疫 / トランスグルタミナーゼ / 腸管免疫 / 常在細菌叢 / 共生 / 架橋酵素 / ショウジョウバエ / シグナル伝達制御 |
Research Abstract |
本研究では腸管免疫におけるトランスグルタミナーゼ(TG)の機能を調べた。TGをRNAiした系統と、コントロール系統の腸管における各種免疫関連因子の産生量をリアルタイムPCR法により定量化した。その結果、主要な免疫経路であるIMD経路の抗菌ペプチドが、RNAi系統において著しく亢進していることが判明した。また、腸管特異的にTGをRNAiした系統では、コントロール系統と比較して生存率が有意に減少した。興味深いことに、RNAi系統を無菌状態にすると、生存率は大幅に回復した。さらに、TGのRNAi系統の腸管抽出物を、無菌化した野生型系統に経口投与すると、TGをRNAiしたときと同様に生存率が低下した。以上より、TGは腸管免疫を負に制御し、腸内細菌叢の維持を行っている可能性が高い。また、TGの合成基質を用いてIMD経路の基質タンパク質を同定した。この基質タンパク質とTGを昆虫細胞により共発現させたところ、基質タンパク質はTGにより高度に架橋された。以上のことから、TGはIMD経路の因子を架橋して不活性化させ、腸管免疫の恒常性維持に寄与していることが判明した。一方で、囲食膜 (PM) はキチンおよびキチン結合タンパク質からなる、無脊椎動物に特有の腸管防御膜である。PMは腸管上皮表面を管のように覆っており、機能的には脊椎動物のムチン層に相当する。これまで、キチン結合モチーフを有するドロソクリスタリン (Dcy) 遺伝子が、PM を介した生体防御に必須であることが報告されていた。そこで、生化学的・分子遺伝学的手法により Dcy の機能解析を行った。その結果、TG依存的な Dcy の高分子化が観察された。また、高致死性の細菌を用いた実験から、Dcy が高分子化することで、細菌の分泌する外毒素プロテアーゼによる腸管上皮細胞傷害を防ぐことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は下記の研究を遂行し、十分なデータを得て現在原著論文を投稿中であり、当初の計画を十分に達成するとともに、さらに腸管のPMのTG基質としてDcyを同定し、その機能解析まで行ったことは、当初の計画以上に進展していると考える。 TGの標的基質の同定とTGによるシグナル伝達制御の分子機構を解明した。1)GAL4/UASシステムを用い、腸管特異的にTGをRNAiによりノックダウンした。腸管からmRNAを回収し、リアルタイムPCR法によって、腸管におけるImd経路、およびToll経路依存的な各種抗菌ペプチド(セクロピン、ドロソマイシン、ジプテリシンなど)の発現量を定量化した。TGをノックダウンしたハエ、さらには過剰発現したハエ系統と野生型の抗菌ペプチドの発現量をそれぞれ比較した。2)TGの合成基質であるペンチルアミン(ビオチン化)と腸管抽出液を混合し、TG活性により抽出液中のタンパク質を特異的にビオチン化し、TGの主要な標的基質が転写因子のRelishであることを同定した。3)同定した標的基質の組換えタンパク質を調製して、TGによる主要な架橋反応を生化学的に解析するとともに、標的基質Relishの架橋部位がN末端領域であることを同定した。さらに、標的基質に対する抗体を作製して、標的基質の腸管上皮における細胞内局在性を調べた。腸内細菌の有無による標的基質の細胞内局在性の変化も調べた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、TG活性により、ビオチン化ペンチルアミンを腸管抽出液のタンパク質に特異的に架橋させた結果、転写因子のRelishを基質として同定した。さらに、TGノックダウンがおよぼす腸内細菌叢への影響の解明においては、腸内細菌叢の同定を行い、ノックダウンする前後での腸管の主要な細菌叢の種を同定した。そこで、今後は、同定した腸内細菌をTG-RNAiした無菌バエ、および野生型の無菌バエに経口感染させ、生存率低下の原因を明らかにするとともに、腸管の恒常性維持の分子機構を解明したい。そのために、同定した腸内細菌の単独培養を行って、無菌ハエに感染させて、ハエの寿命低下の分子機構を解明する。 一方ではTGの過剰発現系を用いた機能解析も可能と考える。これらに必要なハエの系統は国内外のハエのストックセンターや研究機関から分与してもらう。今回、腸管PMのTG基質として、Dcyを同定することができたが、さらなるTGの標的基質は、ハエのタンパク質抽出液のプロテオミクス分析によっても同定可能であろう。すなわち、TGの架橋反応により基質バンドはシフトするため、TGノックダウンハエと野生型ハエの腸管のタンパク質抽出液を二次元SDS-PAGEし、両者で異なるバンドを質量分析で同定する。さらには、ビオチンラベルしたPAMPsを経口摂取させ、腸管抽出液からアビジンビーズを用いてPAMPs-タンパク質複合体を回収し、質量分析により新規のPAMPs受容体を同定したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(9 results)