2012 Fiscal Year Research-status Report
マルチスケールシミュレーションによるタンパク質へのリガンド結合過程の研究
Project/Area Number |
24570179
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
寺田 透 東京大学, 農学生命科学研究科, 特任准教授 (40359641)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 分子動力学シミュレーション / タンパク質 / リガンド / 粗視化モデル / MARTINI / マルチスケールシミュレーション |
Research Abstract |
1. タンパク質・リガンドペア分類データベースの作成 生物学的に意味のある低分子化合物を結合したタンパク質の立体構造データベースBinding MOADから非冗長セットをダウンロードし、分子量550未満の化合物を結合した構造を抽出した。次いで、各タンパク質構造について、GHECOMを用いてリガンドの各原子の位置におけるR_inaccess値を求め、これらの調和平均値を結合ポケットの深さの指標とした。更に、リガンドから5 Å以内に位置する残基についてKyte-Doolittle hydropathyの平均値を求め、ポケットの疎水性指標とした。また、リガンドについては、OpenBabelを用いて水素原子を付加し、荷電状態を予測した。更に、ALOGPS 2.1を用いてLogP値を予測し、疎水性の指標とした。これらを用いて、各複合体を、基質ポケットの形状、基質ポケット表面の物理化学的性質、およびリガンドの物理化学的性質に従って分類した。また、各タンパク質について、リガンド非結合型の立体構造の有無を調査した。本研究では、これらの中から、リガンド結合に伴って立体構造が変化するタンパク質・リガンドペアを複数選択した。 2. 粗視化パラメータ計算システムの構築 任意のリガンドモデルについて、粗視化シミュレーションを行い、油相と水相の間の分配係数を求めるシステムを構築した。ここで得られる値を実験値と比較することで、リガンドの粗視化モデルを評価することができる。これをglucoseのモデルに適用し、実験値と近い値が得られることを確認した。実験的に分配係数が得られないリガンドについては、脂質2重膜の両側に水分子を配置した系について、全原子モデル、粗視化モデルを用いたアンブレラサンプリングを行い、potential of mean forceを比較するシステムを構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、粗視化分子動力学シミュレーションを用いて、リガンドのタンパク質の基質ポケットへの結合過程を再現するだけでなく、基質ポケットの形状や表面の物理化学的性質、リガンドの物理化学的性質が異なるタンパク質・リガンドペアに対して粗視化分子動力学シミュレーションを行い、結果を比較することで、リガンドによる基質ポケットの認識機構や、リガンドの基質ポケットへの結合過程を支配する要因を明らかにすることを目的としている。このため、既知のタンパク質・リガンド複合体立体構造について、これらの性質を把握し、多様な性質を持つタンパク質・リガンドペアをシミュレーション対象として選定することが重要である。平成24年度は、この方針に従って、タンパク質・リガンドペア分類データベースの作成を計画し、これを実施した。 本研究で使用する粗視化モデルMARTINIでは、現在、水、脂質、アミノ酸、糖の力場パラメータが公開されているが、一般的なリガンドに対する力場パラメータは決定されていない。このため、こうしたリガンドについては力場パラメータを独自に決定する必要がある。平成24年度は、研究計画に従って、粗視化シミュレーションに基づいて油相と水相の間の分配係数を求めるシステムと、全原子モデル、粗視化モデルそれぞれについてアンブレラサンプリングを行い、potential of mean forceを比較するシステムを構築した。これらによって、今後作成する粗視化リガンドモデルについて、力場パラメータの精度を評価することが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 粗視化分子動力学シミュレーションプログラムの改良とシミュレーションの実施 MARTINIを用いた粗視化シミュレーションでは、elastic networkを用いて立体構造を保持する必要があるが、このままではリガンド結合に伴う立体構造変化を考慮することができない。そこで、multiple-basin modelを用いて、複数の安定な立体構造をとることができるよう、分子動力学シミュレーションソフトウェアGromacsを改良する。次いで、これを用いてタンパク質の周りに水分子とともにリガンド分子をランダムに配置した粗視化シミュレーションを行う。実効時間0.4~1 μs程度のシミュレーションを、初速を変えて10回程度行う。リガンド結合に伴ってタンパク質の立体構造が変化する系では、リガンドの結合と解離が適切に起こるよう、パラメータを調節する。シミュレーションの結果得られたトラジェクトリデータは、並進・回転させてタンパク質の立体構造を重ね合わせた後、系を格子に切り、各格子点における、重心位置の密度と平均速度を求める。ここから、リガンドの分布と、リガンドの密度と速度の積を求め、可視化する。更に、リガンドの存在確率の大きい格子点におけるリガンドの流れのベクトルを結合することで結合パスウェイを構築する。リガンドの流れの方向・分布とタンパク質表面の形状・物理化学的性質の関係に着目して比較を行う。リガンドの物理化学的性質の違いによって、この関係に差異が生じるか検討する。 2. マルチスケールシミュレーションによる精密化 結合パスウェイの特徴が大きく異なるペアを複数選定し、string法を用いて最大確率結合パスウェイを求める。ここでは、粗視化シミュレーションの結果得られた結合パスウェイを初期パスとして利用する。また、得られたパスウェイを反応座標とした自由エネルギー地形を求める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
粗視化シミュレーションの実施に伴って、大量のトラジェクトリデータが発生するため、これを保存する「ファイルサーバ」(94.2万円)を購入する。 研究の進捗状況や成果を発表し、関連する研究分野の動向を調査するために、日本生物物理学会と米国の生物物理学会の年会に参加する予定である。これらに必要な、国内旅費と外国旅費として、それぞれ10万円と20万円を見込んでいる。また、本研究の成果及び関連した研究の成果を海外の学会誌に投稿して公表するために、英語論文の校閲にかかる費用と、学会誌投稿料として、それぞれ7万円を見込んでいる。
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