2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24570233
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
川上 厚志 東京工業大学, 生命理工学研究科, 准教授 (00221896)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 小型魚類 / 再生 / 細胞系譜 / トランスジェニック / Fgfシグナル / Wntシグナル |
Research Abstract |
組織ホメオスタシスは多細胞体の驚異的な特性である。特に、魚類などの生物では、組織が大きく失われた際でも完全に組織再生できる。魚類鰭をモデルとした研究でFgfおよびWntシグナルが再生に必須であることが示されているが、細胞レベルの詳細はよくわかっていない。本研究では、本年度、以下の研究を行った。 (1)鰭再生過程におけるFgfシグナル作用点: Fgfシグナルを阻害すると尾部鰭の再生が阻害されるが、いつどこで作用するFGFが再生にエッセンシャルなのか明らかでなかった。そこで、24種すべてのFgfリガンドのうち、再生組織で発現するものをRTPCRによって同定し、上皮で早いステージから発現する複数Fgfと、遅れて再生芽で発現するFgfが判明した。中でもFgf20aは上皮で早期から発現が高かったので、トランスジェニック系統を利用して発現の時空間的変化を解析した。この結果、Fgf20aが上皮基底細胞に限局し、再生芽形成に先立って少数の基底層予定細胞で発現することがわかった。 (2)鰭再生過程におけるWntシグナルの作用点:再生初期にWnt結合分子であるdkk1を発現させると再生の不可逆的な阻害が起こる。しかし、阻害のメカニズムは明らかでなかった。dkk1を発現した再生組織のマーカーを用いた解析を行った結果、Wntシグナルは上皮基底層におけるLef1依存経路と再生芽におけるAxin2依存経路の独立した経路があり、Axin2依存経路が再生に重要であることがわかった。 (3)組織再生にはFGF, WNT以外にも多数の近距離、遠距離の因子が関与すると考えられる。私達は、発生直後のゼブラフィッシュ幼生組織の再生をモデルとした系で、cloche変異体が再生芽のアポトーシスを起こすことを発見していたが、細胞自律性の解析などから、造血系細胞が再生芽の生存と増殖に必要であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多細胞体における組織ホメオスタシスのメカニズム解明を目標として、本研究では、魚類組織で顕著に見られる高度の組織再生(大きく失われた際でも完全な組織の再生ができる)に着目して、細胞レベルのシグナルメカニズムの解析を目的として研究を行っている。特に本研究では、近年の分子的な研究から明らかになったFgf, Wntシグナルの再生過程への関与について、私達の開発したプローブやトランスジェニック系統を利用して、細胞レベルの作用機構の解明を目指した。また同時に、私達が発見した再生細胞アポトーシス変異体clocheの解析を進め、再生の新たな制御メカニズムの解明を目指した。 研究実績に記載のように、組織再生におけるFGF, WNTシグナルの作用機構について、〔1〕再生組織で発現するFgfの同定、〔2〕再生に必須のFgf20aが上皮基底細胞に限定して発現することを新たに解明、〔3〕再生過程におけるWntシグナルのうち、再生芽におけるAxin2依存経路が再生に重要な作用を持つこと、〔4〕造血系細胞が再生に必須の作用を持つことなどを明らかにすることができた。これらはぼ1年目として当初に予定していた内容であり、予定の研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の進捗状況に基づき、以下の研究を次年度は進める。 (1) 再生組織における細胞の分化能力と細胞起源: 再生組織における細胞が多分化能を持つのかどうか、また幹細胞またはこれに準ずる細胞芽組織の再生に関与しているかどうかなど、再生における細胞の系譜自体まだよくわかっていない。Cre-loxシステムは、細胞の永続的なラベルと追跡を可能にし、一過的な遺伝子の発現を永続的ラベルに変換できることが様々のモデル生物で示され、ゼブラフィッシュでも最近実用化された。次年度以降では、この方法を採用して、再生組織の細胞がどのような子孫細胞に分化するかなど、細胞の系譜を明らかにすることを目標とする。また、このようにラベルされた分化組織から再び再生を行わせ、再生細胞の起源や細胞サイクルについても明らかにする。再生上皮、再生上皮基底層、先端再生芽細胞、再生芽細胞、再生骨芽細胞に発現する遺伝子について、Creドライバー系統の作製と解析を目指す。これらのドライバーラインは、私達がすでに作製しているレポータートランスジェニックと組み合わせて再生細胞の系譜解析を順次行い、Fgf, Wnt阻害による細胞系譜への影響も解析していく。 (2) 造血系細胞による再生芽生存のサポートメカニズム: 私達はこれまでに、造血系細胞が再生芽細胞の生存、増殖に必要であることを示したが、今後、この活性の実体解明を目指して、①造血系細胞のうち、どの細胞が再生芽生存に必要か、②拡散性の因子であるかどうかなど活性(因子)の性質、③熱安定性などの活性(因子)の生化学的性質のについて解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究では、トランスジェニック系統を利用したイメージング解析を主に行い、FgfリガンドのRTPCR以外では目立った消耗品の使用がなかったため、研究費の大半を繰り越した。次年度では、Creドライバー系統作製のため、多数のBAC組み換えDNAの作業、BAC DNA精製とインジェクションなどを行うため、消耗品の使用が多くなる見込みである。
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