2012 Fiscal Year Research-status Report
細胞外因子によって作られるBMPシグナル勾配形成機構の解明
Project/Area Number |
24570238
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
福田 公子 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (40285094)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | BMP / モルフォゲン / 領域化 / 内胚葉 / 消化管 / 器官形成 |
Research Abstract |
前腸腹側正中の内胚葉からは前方から肺、胃、肝臓が並んで領域化する.これにはBMPシグナルが関わっている.まず,リン酸化Smad1,5,8に対する抗体を用い、内胚葉細胞のBMPシグナル量を定量した.すると,BMPシグナルは最も後方の肝臓領域で最も高く、胃域では低く、肺領域で少し高く、肺域より前方では低かった.前腸腹側の前方で発現するBMP阻害因子sizzledをノックダウンすると肝臓マーカーHexの発現が前方へ伸長し,胃で発現するSox2が抑えられた.また,sizzledを強制発現すると,Hexの発現がなくなり,Sox2が肝臓まで発現した.このことから,sizzledは胃でBMPシグナルを抑え,肝臓を後方に限局していることが示唆される.sizzledの発現が変化しても肺でのBMPシグナル,マーカー遺伝子の発現は変化しない.BMPやdnBMP受容体を強制発現すると変化があるが,chordinでは変化がないので、予想外の細胞外因子が関わっている可能性が強い, 次に,肝臓でBMPシグナルが高くなる機構を探索した.肝臓内胚葉で発現する脂質代関連因子APOA1を強制発現すると,Hex発現域が前方へ拡大し,APOA1をノックダウンするとHexの発現が低下することから,APOA1はHex発現に必須であると考えられる.さらに,APOA1発現にBMPシグナルが必要であること,またBMPリガンドとAPOA1を同時に強制発現すると、一種類のときに比べ、Hexの誘導効率が高くなり、誘導される場所も広がったことから、APOA1とBMPシグナルの関連が示唆された.Hela細胞やXenopus胚でAPOA1とBMP4を同時導入すると、BMP4のみの時と比べ、BMPレポーターの発現が上昇したことから,APOA1はBMPシグナルへの感受性をあげ、肝臓領域の分化に関わるのではないかという可能性が考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究作業仮説では,前腸腹側正中内胚葉では,BMPシグナルがsizzled, chordin, TolloidというBMPリガンドの細胞外修飾因子によって調節されており,肝臓領域ではBMPs, Chordin, Tolloid の働きでBMP シグナルが強く,胃領域ではBMPs, Chordin, Tolloid およびsizzled が存在するためBMP シグナルは抑えられ,肺領域ではBMPs とsizzled のみでChordin, Tolloid がないため, sizzled はBMP シグナルを抑えることができず,シグナルは強くなると予想した.それゆえ,細胞外修飾因子の局在によって調節されるBMPシグナルの本質を知るためには,これらの細胞外修飾因子のタンパク質の局在およびその発現調節を調べる必要があると思われていた.しかし,本年度の研究により,肝臓領域ではこれらに他にもAPOA1がBMPシグナルを強めている可能性が強く,肺領域ではsizzled, chordinには影響を受けない,新たな機構を考える必要が明らかになった.一見達成度は低く見えるが,前腸腹側正中内胚葉のような非常に狭い場所から正確に違う器官を生み出すために,どのようにしてBMPシグナルを正確に調節しておるのかという機構を明らかにするという大きな目標に対しては,確実にその全貌を明らかにしつつあり,当初の研究と方向性は違うものの,非常にエキサイティングな研究へとなりつつある.また,本年度の研究で, HDL構成タンパク質であるAPOA1がシグナルの調節に関わることがはじめて確実になり,更なる作用機序の解明へとつながる大きな一歩となった.
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Strategy for Future Research Activity |
これからの研究方針は以下の3つになる. 1,肺領域でのBMPシグナルの調節機構の解明:sizzledは肺領域で発現するにもかかわらず,肺領域ではBMPシグナルが胃域よりも高い. sizzled強制発現やノックダウン,Chordinの強制発現ではBMPシグナルの強度も肺マーカーの発現も変わらないが,dnBMP受容体ではどちらも下がる.これらの結果から,肺領域でのBMPシグナルはBMPタンパク質以外のリガンドで起こっている可能性を考えている. TGF-βが共受容体の存在下ではBMPリセプターを活性化しうるという報告があるので,TGF-βがリガンドである可能性を探る. 2,APOA1の作用機序の解析:APOA1はXenopus胚,Hela細胞でもBMP活性と関わることが分かったので,これらの細胞を用いて APOA1によって膜のカベオラが変化し,BMP受容体の局在が変わり,BMPシグナルが強くなったという作業仮説を検証する.まずcaveolin1の抗体で,カベオラの形成がAPOA1の有無で変わったかを調べる.次にBMP受容体抗体を用いて,APOA1の有無で,BMP受容体の細胞内または細胞膜内局在は変化するかどうかを確かめる.APOA1は分泌タンパク質で,成体では血中で働いているが,胚ではパッチ状にノックダウンされた細胞でHex発現が減ることから,成体での作用機序とは全く違うことも考えられる.細胞自立的および非自立的な機能の違いを明らかにできたらと考えている.また,ニワトリ胚内で本当にAPOA1がBMPシグナルを調節しているかどうかを,リン酸化Smad抗体を用いて確かめたい. 3,正中のみでBMPシグナルが高い機構の解明:前腸腹側正中のみで発現する様々なシグナルに関わる膜タンパク質Glypican3の機能を欠損または,強制発現させた時の前腸領域化への影響を調べる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
これからの研究方針にはそれぞれ,以下の支出を見込んでいる. 1,肺領域でのBMPシグナルの調節機構の解明:これまでと同様に種卵,一般的な分子生物学試薬が必要である.作業仮説ではTGF-βが共受容体の存在下でBMP受容体に結合し,BMPシグナルを活性化すると考えているので,リコンビナントTGF-βを加えたとき,Smad2,3ではなく,Smad1,5,8をリン酸化するか,肺マーカー遺伝子が変化するかどうか調べる必要がある.また,TGF-βアンタゴニスト(多くは受容体のインヒビター)では影響が出ないことも調べたい.このような多くの因子を購入する予定である. 2,APOA1の作用機序の解析:本年度の研究では,細胞培養での研究が主となるため,細胞培養試薬を購入する.また,カベオラの形成およびBMP受容体の局在がAPOA1によって変化するかを調べるため,Caveolin1をはじめとするカベオラマーカーの抗体およびBMP受容体の抗体を購入する予定である.さらにニワトリ胚でのAPOA1によるBMPシグナル変化を見るために抗リン酸化smad1,5,8抗体を購入,使用する. 3,正中のみでBMPシグナルが高い機構の解明:ニワトリ胚を用いて,Glypican3のノックダウンおよび強制発現の際の前腸領域マーカーの変化を観察する.ニワトリ種卵,遺伝子導入やRNAi の注入,in situ hybridizationを行うための費用が必要となる. この他に,学会発表のための旅費,および国際専門誌への投稿に関わる費用を計上した設備備品については現有機器のみで本研究を遂行するため必要ない.
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