2013 Fiscal Year Research-status Report
三次元培養によるヒト多能性幹細胞から小脳組織への分化誘導
Project/Area Number |
24570242
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
六車 恵子 独立行政法人理化学研究所, 発生・再生科学総合研究センター, 専門職研究員 (30209978)
|
Keywords | 小脳 / 神経分化 / ヒト多能性幹細胞 / 三次元培養 / 自己組織化 |
Research Abstract |
小脳は緻密な運動の制御に重要な役割を果たすため、小脳神経の変性および脱落によって重篤な運動失調が引き起こされる。しかしながら脊髄小脳変性症に代表される神経変性疾患や小児に多い髄芽腫などは、発症メカニズムが不明な事もあり未だ根治療法がない。創薬や治療法の探索のためにも有用な解析モデルの確立が急がれる。研究代表者はマウスES細胞から小脳神経細胞への効率的な分化誘導法を報告しており、本研究課題において同法をヒトES細胞およびiPS細胞へと応用する事を目指している。本課題では個別の小脳神経細胞の高効率な誘導法にとどまらず、組織構築と細胞間ネットワークを保持した「試験管製の小脳:in vitro cerebellum」をヒト由来の細胞で作製する事によって、疾患の原因究明や創薬研究へとつなげることを目的とする。 分化誘導はマウスES細胞から小脳の発生過程を再現する事のできた三次元浮遊培養法を用いた。無血清培地下でFgf2を添加すると、ヒトES細胞から効率よく小脳神経前駆細胞へと分化した。これは既に報告しているマウスES細胞での系と同様の現象である。すなわち初期の小脳前駆細胞のマーカーであるAtoh1, Barhl1, Kirrel2, Skor2などが発現する。このようにして分化誘導したヒトES細胞由来小脳前駆細胞は、接着条件下で長期培養すると、形態学的・細胞生物学的・電気生理学的にも成熟した小脳神経細胞へと分化する事が確認できた。現時点で組織構造的にも胎生期初期の小脳板を再現できつつある。またヒトiPS細胞への適用も試みており疾患由来iPSでの検討も視野に入りつつある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウスES細胞で樹立した系を、ヒトES細胞にも適用できたという事で最初のステップをクリアできたと考える。実験の遂行に必須であったヒト由来組織に対する抗体の市販品ラインナップが急速に増え、研究結果の詳細な解析が可能になったことは大きな要因である。ヒトの初期発生に関わる論文報告や知見は未だ乏しく手探りの状態が続くが、裏を返せば本研究課題で得られる結果が初めての報告となる事でもあり、基礎研究から応用研究へとつながる橋渡しになりうるとの期待ができる。
|
Strategy for Future Research Activity |
ヒトES細胞で樹立した培養法をヒトiPS細胞へと応用する。神経変性疾患由来のiPS細胞の場合は、小脳神経細胞の中でも特にプルキンエ細胞に注目する。iPS由来プルキンエ細胞が(1)正常な成熟過程を経るのか、(2)神経変性・脱落の現象をin vitroでも再現できるのか、(3)もし再現できるのならどの段階で認められるのか、(4)細胞死の原因と成りうる封入体を形成するか、原因遺伝子とされるイオンチャネルの機能に異常はないのか、などを重点的に解析する。この解析を通じて、創薬ターゲットを探るための網羅的スクリーニング法の確立もめざす。 ヒトES細胞においては構造的に保存された組織ができつつあるので、長期浮遊培養の方法をさらなる改良を行い具現化を目指す。
|