2012 Fiscal Year Research-status Report
栽培きのこ類子実体の発達異常の原因遺伝子同定と検出マーカーの開発
Project/Area Number |
24580007
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
松本 晃幸 鳥取大学, 農学部, 教授 (60132825)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 発生・分化 / 菌類 / 遺伝子 / 育種学 / 担子菌類 / 突然変異 |
Research Abstract |
我が国特用林産物の基幹作物である食用きのこ類の生産現場における原因の特定できない子実体の奇形化は、経済的損失につながる重大な問題である。しかしながら、この現象の遺伝的な背景については明らかでない。このため、本課題では、奇形化現象のひとつと考えられる子実体が発生後、正常に傘と柄の分化を行うことができないウスヒラタケ(Pleurotus pulmonarius)の自然突然変異体を材料として、この原因遺伝子を同定し、奇形化の遺伝的素質を明らかにする。そして、その結果に基づき、きのこ類育種および種菌製造過程における変異検出用DNAマーカーを開発することを目的とする。 平成24年度は、当該変異の遺伝分析によって推定している原因遺伝子座上領域の近傍マーカー(CTTT91, CAAT497, GGTC245:91-497bp)に基づいて、野生型ゲノムのフォスミドライブラリーよりマーカー座乗クローンを分離し、その配列を決定した(約38kb)。この配列データを参照にして同様に変異型ゲノムのフォスミドライブラリーより対応領域クローンを分離した。得られた野生型クローン配列情報から座乗遺伝子を推定した。さらに、近縁種ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)のゲノムプロジェクトデータとのシンテニー解析を行い、本菌野生型ゲノムドラフトシーケンスより上記クローン周辺の配列を探索し、完全ではないが、クローン配列領域を含むおよそ140kbを推定した。得られた140kb領域には50個の遺伝子が推定され、それらの推定遺伝子コード領域について変異型との配列比較を行った。その結果、9個の遺伝子について多型の存在を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書に記載した平成24年度の目標は、「変異遺伝子座位周辺(70kb程度)の塩基配列を決定し、野生型と変異型ゲノム間の多型領域を明らかにする」ことであった。これに対して、準備していた野生型および変異型ゲノムそれぞれのゲノムライブラリー(フォスミドライブラリー)、野生型ゲノムのドラフトシーケンス(次世代シーケンサー解析によるデータ)および近縁種ヒラタケのゲノムプロジェクトデータ(http//genome.jgi-psf.org)を利用することで、連載地図上において原因変異形質と0 cMの位置にあるDNAマーカーCTTT91を含む近傍マーカーの座乗領域を包含するおよそ140kbの配列を推定できた。その結果、当該領域における座乗遺伝子50個を推定することができ、それらについて変異型ゲノム配列との多型を調査し、9個の推定遺伝子における多型の存在を明らかにすることができた。以上のことから、「おおむね順調に進展している」と判定した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に得られた野生型と変異型ゲノム間の多型領域について、cDNAレベルでの多型を確認することと発現解析により原因遺伝子候補をさらに絞り込む。並行して、変異型ゲノムの次世代シーケンサー解析を行い、およそ140kbとした原因遺伝子座乗領域を完全に埋め、候補遺伝子に漏れのないようにする。絞り込み後、遺伝子破壊法/相補試験により原因遺伝子を特定する。具体的な手順は以下の通りである。 1、変異原因遺伝子領域の絞り込み 野生型および変異型子実体よりトータルRNAを調製し、前年度推定した座乗遺伝子のcDNAレベルでの多型(アミノ酸配列への影響)を明らかにする。変異型ゲノムドラフトシーケンスから明らかとなる新規推定遺伝子についても同様の調査を行う。以上の解析により両ゲノム間でアミノ酸レベルでの差異のあった遺伝子/ORF配列(機能未知配列)の発現量をRT-PCRあるいはリアルタイムPCR装置を用いて解析する。得られた結果を野生型と変異型で比較して、発現量に差のある遺伝子・ORFをスクリーニングする。 2、野生型ゲノム配列を用いた破壊/相補試験による変異原因遺伝子の同定 スクリーニングした遺伝子/ORF配列をウスヒラタケ形質転換用ベクター(pTM1)に挿入して、野生型菌株に対する遺伝子破壊/変異型菌株に対する相補試験を行い、変異の原因遺伝子を同定する。破壊/相補試験の2つの手法を併記しているのはきのこ類における遺伝子組み換え実験の効率が極めて低いため、2つを並行して進める必要があると考えてのことである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該助成金が生じた状況:平成24年度は変異原因遺伝子座乗領域のクローニングと配列決定、野生型と変異型の配列比較による多型領域の分離を目標としていたが、この調査に予定していたシーケンス解析費用等が、本課題に向けて準備していたゲノムライブラリー、本菌野生型ゲノムのドラフトシーケンスおよび近縁種ヒラタケのゲノム配列を利用することで効率的にマープベースクローニング、シンテニー解析を行えたため、予定より大幅に少なくて済んだ。以上が当該助成金の生じた主な理由である。 翌年度分と合わせた使用計画:平成25年度研究計画の目標は原因遺伝子の同定であり、本課題の中で最も難しい部分である。とくに発現解析等により絞り込まれた変異原因遺伝子候補(おそらく複数になるものと予想される)の実証試験では遺伝子破壊実験/変異遺伝子相補試験(いずれも遺伝子組み換え実験)を行う。これらは常法であるが、本実験の効率は他の生物種に比べて極めて低いため、ベクター構築も含め、相当の試行錯誤を繰り返すことが必要になる(研究室でのこれまでの実績およびきのこ類における報告例より)。このため、当初申請額より人件費・謝金が大幅に多くなる見込みである。また、変異座乗領域として推定したおよそ140kbは完全なものではなく、ドラフトシーケンスのコンティグ間にまだ相当量の隙間が予想される。このため、野生型ゲノムドラフトシーケンスを指標にして、変異型ゲノム配列の次世代シーケンサー解析を部分的な受託解析により進め、座乗領域の完全な比較を可能にする計画である。このため、次世代シーケンサーの受託解析および解析試薬費用が追加で必要となる。他は申請計画の実験を進める上で当初計画どおり支出する予定である。以上が主な翌年度分と合わせた使用計画である。
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Research Products
(1 results)