2012 Fiscal Year Research-status Report
アイスプラントの表皮塩集積細胞の形成と機能を制御する分子メカニズム
Project/Area Number |
24580025
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
東江 栄 香川大学, 農学部, 准教授 (50304879)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アイスプラント / 塩生植物 / 耐塩性 / トライコーム / ブラッダー細胞 |
Research Abstract |
本研究は,塩生植物アイスプラントの体内塩濃度を調節する塩集積細胞(ブラッダー細胞)の形成制御機構を分子レベルで解析し,塩集積機能の分化に関わる分子遺伝学的メカニズムを明らかにしようとするものである.ブラッダー細胞はトライコームの一種と考えられるため,シロイヌナズナのトライコームとワタの繊維の形成に関わる遺伝子と相同性の高いアイスプラントの遺伝子の発現を調べた.その結果,アイスプラント野生株では,シロイヌナズナのトライコームの形成に関わるGL2及びワタの繊維形成に関連するMYB2が高く発現していた.一方,ブラッダー細胞をもたないアイスプラント突然変異体(ブラッダー細胞欠損株)では,シロイヌナズナのトライコームの形成を抑える遺伝子CPC及びTRYが強く発現していた,発現量に差のある遺伝子を単離するサプレッションサブトラクティブハイブリダイゼション(SSH)法で単離した13個の遺伝子のうち,2個(WM10,WM28)が野生株で,5個(MW3,MW11,MW21,MW29,MW31)が変異株で強く発現していた.特にWM28は野生株でのみ発現していた.これらのうち,MW11,MW21,WM10及びWM28については全長cDNAを取得し,他種遺伝子との相同性を調べた結果,MW11,MW21及び WM10は,システインプロテアーゼ,プロテインキナーゼ,及びジャスモン酸誘導タンパク質と相同性が高いことがわかった.WM28は報告されていない新規遺伝子であった.ブラッダー細胞の機能に関わる遺伝子として,カリウムトランスポーター遺伝子,カチオントランスポーター遺伝子,硝酸イオントランスポーター遺伝子,液胞膜プロトンATPase,アクアポリン遺伝子等の発現量を調査したが,変異株と野生株との間に明確な差異は認められなかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,1.ブラッダー細胞の機能及び形成に関与した遺伝子の発現解析、及び2.ブラッダー細胞形成関連遺伝子のプロモーター解析とを行うことを目標とした.1.については,上述したようなほぼ計画どおりの結果が得られた.すなわち,シロイヌナズナの遺伝子は,TG1,CPC,AN,WRM,GL2,TRY,TFCA,CRK等のシロイヌナズナの遺伝子,及びMYB2,ACY,SCP,TUB1,ACT,SUT1,ABP,RAC1,PFN1,EF1A4,RDL,FDH,TUA6,CESA,SUSY,EXP1,MAPK,ACT1,CER6等のワタの遺伝子と相同性の高いアイスプラントの遺伝子について,野生株と変異株とで発現量の異なる遺伝子を明らかにした.また,一部についてはcDNA全長を決定し,機能を推定することができた.さらに,SSH法で単離した遺伝子については,13個の遺伝子を単離し,発現量に違いのみられた遺伝子のcDNA全長を取得し,塩基配列を決定することができた.くわえて,ブラッダーの機能を制御する遺伝子として,カリウムトランスポーターをコードする遺伝子McHAK1, McHAK2, McHAK3, McHAK4, Ktm1,硝酸イオントランスポーターをコードする遺伝子McNRT1,NaClの取り込みに必要なプロトン勾配を生成する液胞膜プロトンATPaseをコードする遺伝子Vmac1,水輸送タンパク質アクアポリンMcMipCをコードする遺伝子の発現量を野生株と変異株とで比較し,上述の結果を得た.一方,2.ブラッダー細胞形成関連遺伝子のプロモーター解析については,1.で野生株と変異株とで発現量に差異のある遺伝子を選定する必要があったため,プロモーター配列を単離するには至らなかった.以上を勘案して,おおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,単離した遺伝子を発現ベクターに組み込み,ブラッダー細胞欠損変異体に導入してブラッダー細胞の回復をみる相補性試験を行う.あるいは,他種植物に導入して,トライコームの形状を観察し,遺伝子の機能を明らかにする.また同時に発現量の異なる遺伝子の発現調節部位を単離しプロモーター解析を行う.それぞれの詳細は以下のとおりである. 1.形質転換体を用いた解析 相補性試験を行うために,単離した遺伝子を高発現する形質転換体を作出する.具体的には,平成24年度に単離した遺伝子のcDNA全長と連結した融合遺伝子を構築し,これをアイスプラントの変異体及びシロイヌナズナに導入する.形質転換体の表皮細胞の微細構造を,実体顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡によって観察し,遺伝子導入による形態の変化から遺伝子の作用を明確にする.アイスプラント形質転換体の作出が難航した場合には,すでに形質転換法の確立しているシロイヌナズナを用いた解析を先行させる. 2.ブラッダー細胞形成関連遺伝子のプロモーターの解析 ブラッダー細胞の形成に関わる遺伝子の発現調節部位を含む領域を単離し,プロモーター解析を行なう.具体的には,単離したプロモーターに,β-グルコロニダーゼ(GUS),ホタルルシフェラーゼ(LUC),及び緑色蛍光タンパク質(GFP)等のレポーター遺伝子を連結した導入ベクターを構築する.これらをアイスプラントあるいはシロイヌナズナに,アグロバクテリウムを介して導入するか,あるいはパーティクルガン法によって導入し,葉身においてレポーター遺伝子の発現する部位を調べる.アイスプラントにおける一過性発現解析の条件設定に時間がかかることが想定されるが,その場合は,すでに形質転換法の確立しているシロイヌナズナを用いて解析を行い,トライコームにおける発現の有無を確認する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費は52万円を計上した.植物栽培用機材の購入に,あるいは核酸の抽出,遺伝子発現解析等に関連した実験を行うための機材及び試薬類の購入に使用する.旅費は10万円計上した.学会等に参加し講演会等で研究成果を発表するのに使用する.具体的には,日本作物学会講演会で発表することを予定している.日本作物学会は,25年度は二度開催され,9月には鹿児島大学で,3月には千葉大学で開催されることになっている.このいずれかに参加する.人件費は5万円を計上した.植物の栽培,核酸の抽出,遺伝子単離・発現解析等の実験補助として雇用した人件費に使用する予定である.その他については,3万円を計上した.遺伝子組換え植物を作出し栽培するために遺伝子実験施設の機器や施設の使用に対し使用料が必要となる.その他の経費はこれらの使用料に充てる.研究課題に係る研究費の使用にあたっては,学術研究倫理に係るガイドラインに述べられた精神に則り,研究活動に係る不正防止に関する規程および当該研究費の使用規則等を遵守して,適正に使用する.
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Research Products
(4 results)