2013 Fiscal Year Research-status Report
低温糊化デンプンを蓄積するイネ胚乳変異の原因特定及び新規デンプン素材としての評価
Project/Area Number |
24580031
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
梅本 貴之 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 北海道農業研究センター寒地作物研究領域, 上席研究員 (90370551)
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Keywords | イネ / デンプン / 変異 / 糊化 / 胚乳 / コメ |
Research Abstract |
a.低温糊化系統の新規デンプン素材としての有用性評価:低温糊化変異系統「HM202」は、デンプン枝付け酵素I遺伝子(Sbe1)と新規糊化易遺伝子(Lgt1)に変異を持つ。HM202とコシヒカリの団子を調整し、経時的な硬さを20℃・72時間、5℃・48時間、さらに-30℃・10日後に測定した。HM202の団子の硬さは、いずれの条件でもコシヒカリ対比60%~75%と柔らかさ保持性に優れた。 b.原因遺伝子の特定と原因変異点に基づいた選抜DNAマーカーの作成:HM202と原品種「旱不知D」の全ゲノムリシーケンシングを行った。Lgt1は第11染色体のマーカーHvSSR11-27と同11-50の間に座乗すると示唆されていた。また、HM202の変異原がアジ化ナトリウムのため、1塩基置換(SNP)をターゲットとした。その結果、HM202に特異的なSNPが2個検出され、ひとつはアミノ酸置換を引き起こす変異、もう一つは遺伝子領域外であった。 c.デンプン生合成における変異原因遺伝子の役割の解明:HM202に「ゆきさやか」を戻し交配したBC2F2からDNAマーカーを用いて、欠損なし、Sbe1欠損、Lgt1欠損、両欠損の個体を選抜した。これらの後代BC2F3種子のアミロペクチン鎖長分布とアミロース含有率を測定した。その結果、アミロペクチン短鎖比率(DP5-11/DP5-24)は、両欠損>Sbe1欠損>Lgt1欠損>欠損なしの順となり、2遺伝子欠損により相加的に短鎖比率が増加する傾向が認められた。一方、アミロース含有率は、欠損なしとSbe1欠損が19.6%、19.5%、Lgt1欠損と両欠損が14.8%、14.7%であった。したがってLgt1欠損のみがアミロース含有率を低下させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
a.低温糊化系統の新規デンプン素材としての有用性評価:米粉の実利用形態のひとつである団子をモデルとして硬化性試験を実施し、低温糊化変異系統HM202が明らかに硬くなりにくいことを示し、当初目的である変異系統の有用性を明確にできた。 b.原因遺伝子の特定と原因変異点に基づいた選抜DNAマーカーの作成:新規変異遺伝子(Lgt1)の座乗領域内に、原因変異の候補となり得る2つのSNPが存在することを明らかにした。マップベースクローニングにより原因変異がいずれかであることが判明すれば、目標である選抜DNAマーカーの作成が完了できる状況にある。現状としてマップベースクローニングの結果が出るのが、順調に行ってもH26年度末となる予定である。 c.デンプン生合成における変異原因遺伝子の役割の解明:アミロペクチン鎖長分布に対しsbe1、lgt1変異は相加的に働く一方、アミロース含有率に対してはlgt1のみが低下させる効果を持つことを明らかにした。このことから本年度の目標であるデンプン生合成におけるSbe1、Lgt1両遺伝子の役割と相互関係に関する知見が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
b.原因遺伝子の特定と原因変異点に基づいた選抜DNAマーカーの作成:新規糊化易遺伝子(Lgt1)の同定に向けて、候補領域内での組換え個体選抜を引き続き行う。選抜した組換え個体の後代固定系統を用いたマップベースクローニングによって、変異遺伝子の同定を図る。 c.デンプン生合成における変異原因遺伝子の役割の解明:新規糊化易遺伝子(Lgt1)がデンプンだけでなく、貯蔵タンパク質の組成にも影響を及ぼす予備試験データが得られている。このためいずれの貯蔵タンパク質が増減するかを明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
マップベースクローニングの実施が遅れているため、試薬代が予定よりかからなかった。 次年度にマップベースクローニングを本格的に行う予定で有り、繰り越し分はその試薬代として主に使用予定である。
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