2012 Fiscal Year Research-status Report
アブシシン酸(ABA)シグナル伝達系を介したブドウの着色機構の解明
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24580059
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
Principal Investigator |
児下 佳子 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹研究所栽培・流通利用研究領域, 主任研究員 (70355444)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ブドウ / 着色 / ABA / シグナル伝達 |
Research Abstract |
低温処理がブドウ果実の着色を促進するかどうか調べるために,着色期の「巨峰」および「安芸クイーン」(ともにVitis labruscana)に対して低温処理を行ったところ,これらのアントシアニン含量が増加し、果皮の着色が促進した。 次に「巨峰」および「安芸クイーン」において,低温処理による着色の促進がアブシシン酸(ABA)シグナル伝達系に関与する遺伝子の発現量と関連があるかどうかを定量PCRにより調べるためのプライマーの設計を行った。すなわち,「安芸クイーン」果皮からtotal RNAを抽出し,cDNAを合成し,既に公開されているV. viniferaのABAシグナル伝達に関与する遺伝子の塩基配列をもとにプライマーを設計し,「安芸クイーン」果皮のcDNAを鋳型としてPCRを行い,増幅した部分の塩基配列を決定した。決定した配列からV. labruscanaにおけるABAシグナル伝達系に関与する遺伝子の発現解析のための定量PCR用のプライマーを設計した。 続いて低温処理を行った「巨峰」および「安芸クイーン」について,定量PCRにより,果皮におけるABAシグナル伝達系に関与する遺伝子およびABA生合成のキーエンザイム(9-cis-epoxycarotenoid dioxygenase(NCED))をコードする遺伝子の発現解析を行った。低温処理前後の果皮サンプルからRNAを抽出し,定量PCRによる発現解析を行った。 発現解析の結果,今回調べたABAシグナル伝達系遺伝子については,低温処理による顕著な発現量の上昇は認められないことが明らかとなった。また着色開始後アントシアニン含量は次第に高くなるが,アントシアニン含量の増加に伴うこれらの遺伝子の発現量の増加も認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は「巨峰」および「安芸クイーン」(V. labruscana)を用いてABAシグナル伝達系を介した低温によるブドウの着色促進機構の解明を計画しており,ABAシグナル伝達に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現解析や,ブドウの着色に関連が深いとされるABAの分析を計画していた。。 したがって,本研究を確実に遂行するためには,低温により着色が促進されたサンプルの調整が不可欠であったが,着色期の「巨峰」および「安芸クイーン」に対し,低温処理を行ったところ,果皮の着色が促進し,またアントシアニン含量の増加を伴ったことから計画していたサンプルを得ることができた。 「巨峰」および「安芸クイーン」におけるABAシグナル伝達系に関与する遺伝子発現の定量解析に関しては,これまでにV. labruscanaにおいて当該遺伝子の定量解析がなされていなかったため,定量PCRのためのプライマーの設計が必須となったが,プライマーの設計に関しても計画通り完了した。したがって,これらのプライマーを利用して「巨峰」および「安芸クイーン」果皮におけるシグナル伝達系遺伝子の発現解析を終えることができた。 さらに,ブドウ果皮におけるABAの分析方法については,ABAの精製過程を従来法より効率的な方法に改変することにより,精製に要する時間が大幅に短縮され,より簡便な分析方法を確立することができた。 以上より,本年度予定していた計画をほぼ終えることができたため、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初「巨峰」や「安芸クイーン」の着色や低温処理による着色の促進に伴い,ABAシグナル伝達系に関与する遺伝子の発現量が大幅に変動することを想定していた。しかし,平成24年度の結果では,着色や着色の促進に伴うABAシグナル伝達系遺伝子の発現量の大幅な増加はみられなかった。 したがって,平成24年度の研究内容に関して追試を行いつつ,この現象が「巨峰」や「安芸クイーン」に特有な現象かどうかを検証するとともに,ABAシグナル伝達系を介したブドウの着色機構について解析を進める予定である。 次年度以降は「イタリア」の着色変異体を比較・解析することにより,ABAによるブドウの着色制御過程において特に重要なプロセスを特定する予定である。さらに,ABA生合成阻害剤をブドウ果房に処理し,ABA生合成を制御し,着色をはじめとしたブドウの成熟に対するABAの影響およびABA濃度の増減に対するシグナル伝達系タンパク質の発現量の変化を明らかにする。 これらの解析によりABA濃度の変化が,ブドウの成熟およびシグナル伝達系タンパク質の発現に及ぼす影響が解明する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は着色変異体の比較によるABAによるブドウ着色機構の解明を行うとともに,平成24年度に行ったV. labruscanaにおけるABAシグナル伝達系に関与する遺伝子発現の解析の追試を行う計画である。 具体的には黄緑色ブドウ「イタリア」とその着色変異体の赤色ブドウの果粒のアントシアニン含量,ABA濃度およびABAシグナル伝達系に関与する遺伝子の発現を解析し,着色変異体のABA含量とABAシグナル伝達系タンパク質の発現を比較する。 また,平成24年度の追試に関しては,V. labruscanaに対して低温処理を行い,着色を改変したサンプルについてABAシグナル伝達系に関与する遺伝子の発現量等を解析する予定である。特に昨年度は,これらの遺伝子発現解析のためのプライマーの設計が順調に進んだため,研究費に残額が生じた。しかし昨年度はブドウ果皮における遺伝子発現解析のために用いるリファレンス遺伝子やPCR条件の詳細な検討を行わず,既往の成果を参考に実験条件を設定した上で得た結果であるため,平成24年度の残額はV. labruscana果皮での遺伝子発現解析のためのリファレンス遺伝子やPCR条件の検討に充て,より詳細な解析を行う計画である。 これらの研究を行うために,植物材料の管理,遺伝子発現解析,アントシアニンおよびABA含量の定量が必須である。またブドウに対して温度処理を行い,着色を改変するにあたり,人工気象室等を利用する予定である。 したがって,試薬類や材料管理に要する資材および肥料,光熱費等が必要となるため,次年度の研究費はこれらに充当する計画である。
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Research Products
(1 results)