2012 Fiscal Year Research-status Report
カンキツ変異系統を利用した自然突然変異発生の分子機構解析
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24580061
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
Principal Investigator |
清水 徳朗 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹研究所 カンキツ研究領域, 上席研究員 (90355404)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | カンキツ / ウンシュウミカン / カラタチ / 突然変異 / 枝変わり / ゲノム配列 / 塩基配列多型 / DNAマーカー |
Research Abstract |
1.カンキツ変異系統の多型検出技術の高精度化と系統間の多型検出を目的に、ゲノム中の約44,000個所の多型を一度に検出可能な既往のカンキツゲノムアレイをもとに、ウンシュウミカン等の全ゲノム配列から新たに設計した12万件のプローブを追加した高密度ゲノムアレイを構築した。当初計画ではこの高密度ゲノムアレイを用いてウンシュウミカン変異系統間の多型を検索する予定であったが、高速DNAシーケンサが利用可能となったことから、本年度はウンシュウミカン4系統とヒュウガナツ2系統について全配列を解読した。各系統より約15Gb(計90Gb)、およそ1億5千万リード(計9億リード)のリードペア配列が得られ、80%以上のリードがカンキツゲノム参照配列(クレメンティン半数体)にマップされた。同様に、スィートオレンジ葉緑体配列に対してもマッピングを行った。 2.全ゲノム配列にマップされた結果からウンシュウミカンの変異系統間の多型領域候補を抽出した。本年度の試行では各系統間で数十個所の多型候補領域が見いだされ、全ゲノム配列を対象として変異を生じた領域の迅速な評価方法としての高速DNAシーケンサの有効性が示された。一方で検出された多型にはまだ誤検出されたものが含まれている可能性が残されており、今後は解析条件の調整と検出された領域の塩基配列解析により多型を検証する。 3.カンキツ近縁のカラタチとその変異系統とされているもの3点について遺伝地図の全領域をカバーする約300点のSSRマーカーで遺伝子型を比較した結果、「ヒリュウ」は変異系統と推定され、他のカラタチとの間で多型を示すDNAマーカーを複数見いだした。「ウンリュウ」およびトゲ無しカラタチはカラタチの自植後代個体であると推定され、自植過程で染色体の組換えが起こったと考えられる領域を特定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
予定していた計画のうち、高密度ゲノムアレイについては目標通り約4倍のプローブを搭載したものを開発したが、ゲノムアレイでは高密度化を図っても全ゲノムの3%以下の領域しか評価できないことが研究の高精度化を図る上での従来からの課題であった。一方、高速DNAシーケンサによる全ゲノム解読技術が近年低コスト化し、解析に必要な種々のソフトウェア等の技術も開発されて利用できる環境が整ってきたことから、今年度は全ゲノム配列の解読と変異系統間での多型を検索した結果、変異系統間で全ゲノム領域を対象として多型を検索、評価することが可能となり、研究の飛躍的な効率化と高精度化が可能となった。またゲノムアレイを利用した解析では、見いだされた多型候補はその都度対応するゲノム配列を個別に再解読して比較しなければならず、研究全体のスループットの制限要因となっていたが、全ゲノム配列の解読により塩基配列の変化と対応づけて多型を評価できるようになり、解析全体の効率化が可能になった。全配列の解読によりこれまで注目してきた核ゲノムの情報に加えて葉緑体ゲノムの配列情報も同時に得られ、果樹等の変異系統ではまれに葉緑体などのオルガネラゲノムに変異が生じたものも報告されていることから、その系統間比較から見いだされた多型についても検証を試みている。 枝変わり等で発生した突然変異系統であるかどうかが不明であったカラタチの3系統について多数のDNAマーカーによる遺伝子型を広範なゲノム領域で比較することで一つが変異系統であることが明らかとなり、迅速な評価法として有効であった。 上記の研究の取り組み以外に、珠心胚発生過程をモデルとする変異伝達過程の解析を目的に、計画に従いウンシュウミカン「青島温州」に受粉して種子を獲得した。 以上のように本研究課題では当初計画と同等かそれを上回る成果が得られてきている。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度に解読した全配列情報の解析条件を再検討して変異系統間の多型を抽出する。得られた多型領域の塩基配列を直接解読して検証することで、全配列情報からの多型抽出条件の高精度化を図る。今年度さらに果実特性の異なる数系統について全配列を追加解読して多型を検索し、見いだされた多型については解析可能な複数のウンシュウミカン系統間で配列を比較するとともに、その領域の予測遺伝子、変異系統の由来も参照して発生機構について考察する。カンキツのゲノム配列については遺伝子の機能注釈情報だけでなく、単純反復配列やレトロトランスポゾン領域の推定を完了しており、これら易変異性領域との関わりについても検討する。また、ウンシュウミカンの全ゲノム配列解読も近く完了する見通しであることから、利用可能となった時点で変異系統間での多型検出に利用し、ウンシュウミカン以外の品種を参照配列とした場合の結果と比較する。 ゲノムアレイを利用した解析から多型が示唆された領域について、全ゲノム配列との対応付けを行うとともに塩基配列を系統間で比較する。また、エピジェネティックな変異の可能性についても検証する。 24年度に獲得したウンシュウミカン「青島温州」の種子を播種し、DNAマーカーで選抜された珠心胚実生からDNAを抽出し、もとの「青島温州」に見いだされる多型が珠心胚実生においても見いだされるかどうかを確認し、キメラ性の可能性について検討する。また、24年度に解読した葉緑体配列の多型についても引き続き検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度の研究計画のうち、DNAマイクロアレイを利用した解析から全ゲノム配列の解読に変更した結果、現状では後者が低コスト化したために差額が発生し、25年度に繰り越すこととした。変異系統間での多型解析法としての高速DNAシーケンサの有効性が確認されたので、ウンシュウミカン等の変異系統をさらに追加解読するための経費として当該助成金を使用する。
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[Journal Article] Citrus genomics2012
Author(s)
F. G. Gmitter Jr., C. Chen, M. A. Machado, A. A. de Souza, P. Ollitrault, Y. Froehlicher, T. Shimizu
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Journal Title
Tree Genetics & Genomes
Volume: 8
Pages: 611-626
DOI
Peer Reviewed
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