2014 Fiscal Year Research-status Report
カンキツ変異系統を利用した自然突然変異発生の分子機構解析
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24580061
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
清水 徳朗 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹研究所 カンキツ研究領域, 上席研究員 (90355404)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | カンキツ / ウンシュウミカン / 突然変異 / 枝変わり / ゲノム配列 / バイオインフォマティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
枝変わり等を利用した突然変異育種は既存品種の一部の形質を部分的に改変する手法として広く利用されてきており、果樹育種では交雑育種を補完する重要な手法として位置づけられている。変異系統間で生じた変異をゲノムレベルで明らかにすることができれば、特定形質の改変や、対象形質の制御機構を分子レベルで解明することができると期待される。本研究は、カンキツを対象に突然変異の発生機構を分子レベルで明らかにすることを目的とするが、当初はゲノムに生じた変異を直接解析することは困難であった。しかしその後の次世代配列解読技術やバイオインフォマティクス解析手法の著しい進展により、非モデル植物でも比較的容易にゲノムの詳細な解析を実施できる環境が整ってきた。そこで研究開始後に計画を一部変更し、最新のゲノム解析手法を積極的に活用した研究を行うこととして、昨年度までに複数のウンシュウミカン等の変異系統の全配列を解読し、それぞれに固有の多型の網羅的な解析を行い遺伝子領域との対応付けなどを進めた。今年度は、次世代配列解読データからの多型の抽出・評価法の有効性の確認と擬陽性データの排除を目的に、複数の多型検出ツールを用いて検出される多型の比較と検証を行った。その結果、複数のツールで共通して検出される多型も多い一方、特定のツールでのみ検出される多型も一定の割合で存在した。さらに突然変異で生じるゲノムレベルの変化には一塩基置換や数塩基程度の挿入・欠失だけでなく、数十塩基程度の比較的大きな挿入・欠失や、さらに大規模なゲノムの再編成が生じている可能性が示唆され、それぞれの検出にはそれに適したツールを使い分けることが重要であることが示された。なお、突然変異発生とレトロトランスポゾンとの関連については、検討した限りにおいては活動型のものは見いだされず、変異発生の主因であることを示唆する結果は得られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
次世代配列解読技術の積極的活用により突然変異で生じたゲノム中の変化を詳細に解析することが可能となり、従来想定されていた以上にさまざまな変化が生じていることが明らかとなってきた。ウンシュウミカンのドラフト配列構築についても成果が得られており、両者を対応づけることでゲノム中の変異を包括的に例示することが可能となった。これらのツールはヒトなどでの利用を想定したものも多く、果樹の解析に利用するためには設定などを今後さらに検討する必要があり、全ゲノム解読から得られるデータには擬陽性のものもあることから、今年度は各ツールでの解析条件を検討するとともに、複数の解析ツールを組み合わせることでより確度の高い多型への絞り込みを行った。以上のように、適切な解析ツールを使い分けていくことで小規模な変異から中規模な変異までを網羅的に検出し、全ゲノム配列や予想遺伝子と対応付けることで表現型への効果が大きな変異をとらえることが可能となり、変異系統解析のための基盤整備が大きく進展した。関連して、ゲノム中に蓄積される変異がどのように表現型の変異を引き起こすのかについては、まずゲノム内の変異発生頻度を正確に把握した上で系統間で比較する必要がある。そのためにはなるべく多くの変異系統についても全配列を解読していくアプローチが有効ではあるものの、高コストである。そこでゲノム内の一部の領域を取り出して網羅的に解読する手法について予備的に検討し、手法としての有効性を確認することが出来た。今後は発生した個別の変異をゲノムレベルで確認する一方で、変異の発生様態を個体ごとに大規模に把握することで、突然変異の発生機構解明に貢献するものと考えている。このように、最新の研究成果を積極的に活用していくことで、当初目標達成に向けた成果が得られてきている。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度に修正した研究計画から大幅な変更はない。突然変異発生とレトロトランスポゾンの関与を示す報告はあるが、積極的に支持する結果はこれまでに得られなかったことから検証は一旦中断とする。かわりに、次世代配列解読技術の積極的活用により研究開始当初の想定を上回る成果が出てきていることから、引き続き次世代配列技術を利用した解析を継続する。突然変異にもとづく多型として当初想定していた1塩基置換や数塩基の挿入・欠失の他に、解析対象に適したツールを使い分けることで比較的規模の大きな変異も解析が可能となってきたことから、まずは一定以上の規模を持つ変異のうちから遺伝子領域に生じたと推定されるものを絞り込み、変異の詳細を検証する。また、多数の変異系統を対象に、一度に多型を評価する手法に関しても26年度に予備的な結果が得られたことから、予定を1年延長して詳細な解析を継続することとし、最終年度ではこれまでに育成してきた材料に加え、なるべく多くの変異系統についても解析を進め、変異発生機構についてさらに検討を行う。
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Causes of Carryover |
本年度は昨年度までに解析したデータの詳細な解析を優先して進めたことと、当初予定したよりも低額で次世代配列解読を実施できることとなったために、予算執行の一部を次年度に繰り越すこととなり、次年度使用額が発生した。本年度行った解析のうち、多数の変異系統の網羅的変異検出では手法の有効性を検証する結果が得られており、前年度に試算した額よりも低コストでより有効なデータを多数の検体から得られる見込みが出てきた。このように、少数の変異系統の解析だけでなく、複数の系統間で変異を網羅的に評価できる手法が実用化しつつあり、予算の範囲内で最適な技術を適切に選択して研究計画に柔軟に活用することで、研究課題の目標達成に活用することとしたい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は配列解読から見いだされた多型を個別に確認する作業と、多数の変異系統を対象にゲノム解読を実施し、各系統固有の変異を検出して変異の発生頻度や傾向等を明らかにする。次年度はそのためのプライマー合成とPCR試薬、消耗品費の購入経費ならびに配列解読の経費として当該助成金を使用する。
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