2013 Fiscal Year Research-status Report
植物ゲノムに存在する非レトロウイルス様配列の挿入メカニズムと病理学的意義
Project/Area Number |
24580064
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
近藤 秀樹 岡山大学, 資源植物科学研究所, 助教 (40263628)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 信弘 岡山大学, 資源植物科学研究所, 教授 (70206514)
|
Keywords | 非レトロRNAウイルス / ゲノム / 感染記録 / ウイルス化石 / 系統進化 / ベニウイルス / モノネガウイルス / ダラースポット病菌 |
Research Abstract |
申請者らは、2011年に植物ゲノム上に「古のウイルス感染記録」(いわゆるウイルス化石配列)と考えられる「非レトロRNAウイルス様配列(NRVS)」をはじめて発見した。本研究では新規NRVSのさらなる探索を進め,それらと現代ウイルスとの関係を理解するとともに共に、これらの配列の「ゲノム挿入メカニズム」や配列の「存在意義」を理解するための基盤整備を行うことを目指している。本年度の主な実績は以下の通り。 1.植物ゲノム上のNRVS検索:ゴボウ斑紋ウイルス(BdMoV、ベニウイルス属の新規ウイルス種)の解析の過程で、ベニウイルス複製酵素の類似配列が植物(ヒヨコマメ)と昆虫(サシガメ)の核ゲノム配列データ中に見出され,その一部はゲノミックPCRで配列断片の存在を確認した.このような核ゲノム上のウイルス様配列の存在はベニウイルス祖先種の植物や昆虫への感染イベントを唆示する。また、これらの配列にはレトロ因子様配列が隣接しており、その挿入メカニズムを考える上で興味深い。 2.菌類モノネガウイルスの探索:昨年度のNRVS検索の過程で、うどんこ病菌(Erysiphe pisi)ゲノムにマイナス鎖RNAウイルス(モノネガウイルス)様配列を発見し、さらにダラースポット病菌(Sclerotinia homoeocarpa)転写物データベース中にほぼ全長のウイルスゲノムが見出されている。本年度は、まずこれまで見出されたモノネガウイルス様配列(MLLS)とモノネガウイルス代表種の複製酵素を用いた分子系統学的な解析を進めた。さらに、マイナス鎖RNAウイルスの存在を証明するため、日本産ダラースポット病菌5株を入手しRT-PCRでモノネガウイルス感染の有無を検討した。その結果、2株よりモノネガウイルス様断片の増幅が確認され、菌類ではじめてモノネガウイルスの存在を実証した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 植物の非レトロRNAウイルス様配列(NRVS)はこれまで、dsRNAウイルス(パルティテウイルス)とマイナス(-)鎖RNAウイルス(バリコサウイルス)の外被蛋白質CPやヌクレオキャプシド蛋白質Nの類似配列が中心で、植物で最もポピュラーなプラス(+)鎖RNAウイルスの配列はキュウリのフレキシウイルス複製酵素様配列1件のみであった。本年度、植物の(+)鎖RNAウイルスでは2例目となるウイルス様配列断片(ベニウイルス感染記録と考えられる)を植物核ゲノム上に発見し、その成果を論文として発表した。ベニウイルスは土壌生息菌類により伝搬されるが、昆虫ゲノムにもその感染記録が見出されたことは、ベニウイルスの進化を考える上で大変興味深く、NRVS探索の有用性を示す成果である。 2. モノネガウイルス(マイナス(-)鎖RNAウイルスの代表格)の感染記録(化石配列)は動・植物に広く存在するが、我々は植物に密接に関わる病原糸状菌でその存在を発見し、現代版菌類ウイルスの存在を示唆した(本成果はVirology 誌にすでに公表されているが、エディターセレクション2013のEssential Collectionに選出された)。本年度は、さらに菌類のモノネガウイルスの感染菌株の探索を行い、二株の感染菌株の取得に成功し、今後の病原学的解析を可能とした。この成果は、エマージェングウイルスを多数包含するモノネガウイルス研究に,動物・植物だけでなく新たに菌類という新しい宿主系を追加できることを意味している。 3. NRVS探索や関連ウイルス配列のゲノム解析の成果を受け、新規ウイルス科、BenyviridaeならびにNyamiviridaeの創設を関連研究者と共同で国際ウイルス分類委員会に提案した。NRVS自体はあくまでウイルスではないので分類学の対象ではないが、本研究の成果がウイルス分類学を進める上でその一助になることを示すことができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初計画の通り「NRVSの推定コード蛋白質の特性評価」ならびに「現代ウイルスの逆転写と染色体への挿入の可能性」に関して研究を推進する予定である。さらに、ウイルス感染記録の探索で菌類におけるモノネガウイルスの存在をはじめて示唆されたことから、研究計画の一部を変更し「菌類モノネガウイルスの感染記録や現代版モノネガウイルスの研究」も課題の一部に追加した。また,昨年度に持続感染時の植物ウイルスの動態解析・配列解析について、一部を次年度に持ち越していることから、本年度は、新たに得た菌類モノネガウイルスのゲノム解析と持続感染タイプの植物ウイルス配列解析を次世代シーケンサーにより一括して進める予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の計画では、持続感染時の植物ウイルスの動態解析・次世代シークエンサーによる配列解析を進める予定であった。詳細は割愛するが、ウイルスの動態解析についてはランえそ斑紋ウイルスの核内封入体(ウイルス工場と推定)の形成メカニズムに関わる論文を発表することができた。しかし、バリコサウイルスの分離、接種実験にやや遅れが生じたこと、さらに新たに発見された植物(+)鎖RNAウイルス類似配列の論文化を優先し関連実験を進めたことなどから、当初計画の配列解析は次年度に他の解析と一括して進めることとした。このため、次年度使用額が生じた。 当該年度において持ち越した予算(506千円)は、配列解析の受託経費として執行する予定である。また、他の経費については、消耗品費(遺伝子実験関試薬、チップ・チューブ類、ガラス器具、培地等)、成果発表のための必要経費(日本植物病理学会大会、国際ウイルス学会、第3回菌類ウイルスシンポジウム参加費)として使用する予定である。
|
-
[Journal Article] Characterazation of burdock mottle virus, a novel member of the genus Benyvirus, and the presence of benyvirus-related sequences in the plant and insect genomes.2013
Author(s)
Kondo, H. , Hirano, S., Chiba, S., Andika, I.B., Hirai, M., Maeda, T. and Tamada, T.
-
Journal Title
Virus Research
Volume: 177
Pages: 75-86
DOI
Peer Reviewed
-
-
-
[Journal Article] Nyamiviridae: Proposal for a new family in the order Mononegavirales2013
Author(s)
Kuhn, J.H., Bekal, S., Caì, Y., Clawson, A.N., Domier, L.L., Herrel, M., Jahrling, P.B., Kondo, H., Lambert, K.N., Mihindukulasuriya, K.A., Nowotny, N., Radoshitzky, S.R., Schneider, U., Staeheli, P., Suzuki, N., Tesh, R.B., Wang, D, Wang, L-F., and Dietzgen, R.G.
-
Journal Title
Archives of Virology
Volume: 158
Pages: 2209-2226
DOI
Peer Reviewed
-
[Journal Article] Orchid fleck virus structural protein, N and P, form intranuclear viroplasm-like structures in the absence of viral infection2013
Author(s)
Kondo, H., Chiba, S., Andika, I.B., Maruyama, K., Tamada T. and Suzuki, N.
-
Journal Title
Journal of Virology
Volume: 87
Pages: 7423-7434
DOI
Peer Reviewed
-
-
-
-
-
-
-