2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24580079
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
上野 高敏 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60294906)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 生物多様性 / 環境保全型農業 / 水田 / 天敵昆虫 / IPM / 指標生物 |
Research Abstract |
本研究課題は、水田において環境保全型とされている各種農法が実際のところどれくらい環境保全、とりわけ生物多様性の保全に役立つかを、(1)農業に有用な天敵生物を通して量的なデータでもって評価し、(2)天敵を指標生物として活用することで環境保全型農業への取り組みを誰でも簡単に評価可能であることを示す、ことを主な目標としている。 平成24年度においては、農家が管理する福岡市と久山町の(普通の)水田を主な調査地として化学農薬の使用量(成分カウント数)と施肥量(SPAD値による評価)が水田の天敵生物(昆虫類とクモ類)の発生量にどう影響するかを主に調査した。 殺虫剤成分カウント数は、クモ類と捕食性ならびに捕食寄生性昆虫の個体数密度と種数に影響し、予想通り負の相関があった。一方、予想外に、施肥量が増加すると捕食寄生者の密度や種数、多様度はむしろ増加した。しかしクモ類では統計上検出されるような影響は認められなかった。つまり、天敵の多様性は無化学肥料栽培の水田よりある程度以上肥料を使っている水田で増加するということになる。 特定の捕食寄生性の天敵がなぜ施肥量の効果を受けるかを明らかにすべく、それらの寄主の発生量、施肥量、捕食寄生者の密度の3者間の関係を分析したところ、施肥量の増加が寄主の増加に繋がり(たとえばコブノメイガ)その結果、天敵寄生蜂などの捕食寄生者が増加する、という介在効果が検出された。 特定の生物種の増減に影響されやすいスペシャリストを多く含む捕食寄生者と様々な生物種を獲物とするものが多い捕食者では、農法がおよぼす影響が大きく異なってくる可能性が示唆されたわけである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まずは、調査に適した水田を確保できたこと。化学農薬や施肥量と天敵の多様性や密度との関係が明らかになってきたことより、当初の予定通りの進展具合であると判断する。またスペシャリストとジェネラリストというような天敵の類別をきっちり行った上での分析まで進むことは出来なかったものの、捕食寄生者と捕食者という分け方でも農法が与える影響が異なっているらしいことが明らかになってきたので、研究の進展具合は順調であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
1年間のデータでは、得られた結果が確かなものであるか十分に判断できないため、今後2年間も前年同様の野外調査を継続する。そして、まずは2年分のデータに基づき、天敵のどの種やグループが農法(化学農薬(殺虫剤、除草剤、殺菌剤)の使用頻度 、施肥、畦畔管理など)と生物多様性(中立種を含む全体の多様性あるいは天敵の多様性)を強く反映するのか を明らかにする。 また2年間で得られた結果に基づき、研究発表(投稿論文)できるものについては、速やかに投稿する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
調査に必要な設備はそろっているため、物品費は採集やサンプルの保管などに使用する消耗品に集中させ、旅費(福岡県外での調査を増やすため)と出版費(成果発表)に予算を主に振り分けたい。また水田の生物多様性と環境保全に焦点を当てているので、共通のバックグランドと課題を持つアジアにおいて学会発表やサンプル収集なども行う。
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