2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24580081
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
朝野 維起 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (40347266)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / デンマーク / アメリカ |
Research Abstract |
本研究の大きな目的は、昆虫外骨格の硬化反応に必須と考えられているキノンイソメラーゼの精製・アミノ酸配列の解析、そして遺伝子の同定である。まず、キノンイソメラーゼの活性をより高感度かつ容易に測定することが、その目的に不可欠である。キノンイソメラーゼの活性を測定するためには、Nアセチルドーパミン(NADA)などの基質を、一旦ラッカーゼやチロシナーゼなどの酵素を用いて酸化させ、キノンを合成する必要がある。この物質がキノンイソメラーゼの直接の基質になるが、これは非常に不安定な分子であるために、毎回用時調製が必要である。この基質を試料と混ぜた後に、試料中の酵素のはたらきで異性化された生成物をHPLCで定量する。本年度は、NADAの酸化に用いるバッファーを無機系のものに変更し、また用いる酵素も市販のもの(多少の不純物が混入しているものと思われる)から実際に昆虫外骨格から精製したピュアなものを使用するなどしたことにより、HPLCのチャートのパターンが簡素になり、目的酵素の活性をより正確に追えるようになった。また、既存のHPLC機器に新規接続モジュールを加えることで、通常のグラジエントによる溶出を可能にし、さらに紫外・可視吸光検出器を新規に入手・接続した。これによって、既存の機器で可能であったイオンクロマトおよび電気伝導度による分離・検出から、C8またはC18カラムによる逆相クロマトによる分離、そして紫外域の吸収による検出へとシステムが変更され、その結果、より分離の良いパターンが得られている。これらの改善・変更を経て、現在キノンイソメラーゼの精製を進めているところである。具体的には、カイコガの幼虫および蛹からタンパク質を抽出する方法を検討し、より効率的に目的分子が得られる条件等が明らかとなった。また各種クロマトグラフィー用担体に対する挙動なども調べ、実際の精製も進めている所である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目的酵素を検出するための系を見直したことによって、より正確かつ再現性よく酵素の活性が測れるようになった。この系を活用して目的酵素の精製を進めているが、その達成は近いのではないかと考えられる。本来であれば、計画の初年度で精製がより進行し、アミノ酸配列に関する情報が得られていた可能性もあったが、そこには到達出来なかった。しかしながら、24年度に行った、「キノンイソメラーゼの検出に用いる基質合成系の最適化」、加えて「既存機器に新規モジュールを加えるなどして可能になった検出系の変更」によって、より効率の良い、かつ信頼性の高い酵素活性の検出が可能になったといえる。この改良をふまえ、今後、キノンイソメラーゼの精製がより効率的に進むものと期待している。検出系の見直しは、将来的に精製標品得られた後に、酵素学的な性状をより詳細に評価する段階でも必要不可欠なものであると考えられる。そのため、本研究計画の最初の年度に行ったこととしては、根本的かつ妥当であったのではないかと言える。そのような意味に於いて、今年度の達成度としては、キノンイソメラーゼの精製に到達はしていないものの、ほぼ計画に則っているのではないかといえる。また、将来的に外骨格内で生じる化学反応を試験管内で再現するために、基質として大量のNADAを得る必要である。しかしながら、現在この試薬は市販されておらず、新規に合成をメーカーに依頼するとかなりのコストとなる、これまでもNADAは合成していたが、24年度にいくつかの行程を改良したことにより、今までと比べて高い収率で基質が得られるようになった。このことも、今後キノンイソメラーゼその他に関わる研究を進める上で重要だったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度に行った結果を踏まえ、25年度はキノンイソメラーゼの精製を成功させることが重要である。精製標品が得られれば、そこからアミノ酸配列を得て、さらに遺伝子を同定することが可能になるからである。遺伝子の同定ができれば、今後RNA干渉系をもちいた遺伝子発現の抑制実験やノックアウト系統の作成などが可能になる。同時に、遺伝学的な解析に適したショウジョウバエを用いることで、より詳細に生体内での機能解析も行える。さらに、他の昆虫、昆虫以外の節足動物などに存在する、オーソログ遺伝子・相同遺伝子などにコードされるタンパク質との比較によって、昆虫が外骨格を硬くする仕組みを発展させてきた進化のプロセスなどが議論出来るようになる。精製が完了(SDS-PAGEの泳動像でバンドが一本になるまで精製が進行(*単量体もしくはホモ多量体の場合))していなくても、ある程度精製が進んだ段階でマススペクトロメトリーによる解析を行う。これによって得られるキノンイソメラーゼの候補の中から、より重要だと思われるものから発現解析・組み替えタンパク質等の機能解析を進める。ただし、ゲノム情報を用いた実験(プライマー設計など)、またリソースセンターなどを活用してcDNAを得るなど、効率的な実験を進める。キノンイソメラーゼが同定出来た後は、当初の計画通り、発生過程に於ける発現量の変化などを調べる。ここでは、発現量の変化だけではなく、外骨格中の部位の違いで(硬い所・柔らかい所・尖っている所など)、発現量に変化があるのか、などについても着目しながら進める。また、ショウジョウバエゲノム中からオーソログ遺伝子を特定する目的で、種々の変異体やノックダウン系統などを用いた表現系解析を行う。また、可能であれば、強制発現系などの系統化も行いたい。近年は、系統化を請け負う会社もあるので、適宜このようなサービスを利用して効率的な研究を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度、26年度に予定されている研究費はともに130万円(直接経費)である。既に高額な備品・キット類等の購入は予定しておらず、いずれの年度も、実験に用いる消耗品類(試薬・プラスチック類)の割合が高くなることを想定している。25年度の場合、消耗品についてはおよそ100万円の支出を想定している。これには、カイコガなどの昆虫飼育に用いる飼料、NADAなど酵素の基質合成に用いる試薬、分子生物学的な解析に必要なキット類、マイクロピペットのチップやプラスチックチューブ類、分析用HPLCカラム、移動層に用いる有機溶媒、ガラス器具その他が含まれる。また、アミノ酸配列解析の分析依頼も必要といえる(10万円)。その他、学会への参加費や旅費などとして10万円ほど使用する予定である。論文の投稿費や英語校閲について10万円の支出を考えている。ショウジョウバエの強制発現系統作成を依頼する場合には、一系統あたり5万円ほど支出する必要があるが、この場合消耗品の購入にあてている額の中から、使用区分を適宜変更するなどして対応する。26年度も、同様の予算計画を予定しているが、ホームページ作成などに充てる費用なども考えている。
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Research Products
(4 results)