2013 Fiscal Year Research-status Report
低環境負荷微生物農薬利用への昆虫病原性糸状菌代謝メカニズムのプロテオミクス研究
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24580082
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
荒木 朋洋 東海大学, 農学部, 教授 (20193071)
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Keywords | 昆虫病原性糸状菌 / プロテオーム / スフィンゴシン |
Research Abstract |
糸状菌Nomuraea rileyiは生物農薬としての利用が期待されているが,その利用に不可欠な発芽促進はスフィンゴシンによって誘導されることが明らかとなっている.そこで本研究では N.rileyi 胞子の発芽促進機序の解明をプロテアーゼ解析手法を用いて試みた. まず,スフィンゴシン誘導型発芽胞子と通常発芽胞子の二次元電気泳動像をディファレンシャルディスプレイにより比較した結果,誘導発芽で特異的なタンパク質を21個検出した.そこで,スフィンゴシン誘導型発芽胞子の泳動像に観察された特異的発現スポット 2 個と特異的増加スポット 19 個に対し質量分析を用いタンパク質の同定を試みた.本糸状菌はゲノム未知であるため,通常のプロテオーム解析手法によるタンパク質同定は困難であった. そこで,タンパク質の同定は ESI 質量分析と MALDI 質量分析によるデノボシークエンス手法を用い,特に,MALDI 質量分析行う際には,本研究室で開発した前処理としてグアニジン化とスルホン化を組み合わせた二段階化学修飾を行った.同定されたタンパク質は,大きく分けて機能によって,代謝促進,タンパク質発現,およびタンパク質の保護に分類された.したがって,これらのタンパク質がスフィンゴシン誘導型発芽において複合的に作用し,発芽促進を引き起こしていると考えられた.特に,スフィンゴシン誘導において特異的に発現したPermease はMALDI 質量分析によるデノボシークエンス手法において精度よく同定が確定し,その性質が生体膜において二次能動輸送に関与する膜輸送体であり,スフィンゴシンレセプターからのシグナル伝達に対して,何らかの輸送に関わることで発芽促進と関連していると推測された.本年度同定された他のタンパク質群においても糸状菌の発芽において,促進シグナルの伝達において何らかの関与があると推定される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本菌はゲノム未知の菌種であるため,最初に通常のプロテオーム解析手法であるペプチドマスフィンガープリント法を適用したが,設定した21個のタンパク質スポットで,有意な同定はほとんど不可能であった.したがって,データベースとのパターンマッチングによる手法ではなく,質量分析によるアミノ酸配列を推定できるデノボシークエンス法についてエレクトロスプレー型質量分析器での解析を試みた.この手法はある程度のアミノ酸配列を推定できたが,データベースが存在しない場合は信頼性に欠ける.したがって,本研究室で開発した2段階化学修飾を用いたマトリクス支援レーザー型質量分析機を用いたデノボシークエンス法により,正確なアミノ酸配列を決定し,その配列を元にBLAST検索によるタンパク質の同定を進めた.その結果,配列相同性からタンパク質の特定が可能となったが,その大半は機能未知のタンパク質であった.したがって,スポットに含まれるタンパク質の機能推定は,同定したタンパク質のアミノ酸配列をさらにBLAST検索することで相同性の高い機能タンパク質を検索した.その結果,ほぼすべての特異的スポットについて機能を推定することができ,ほぼ同定は達成できたと考えられる.しかし,予定していた他の昆虫病原性糸状菌とのプロテオーム比較ならびに発芽促進物質に対するレセプタータンパク質の同定は,菌の培養が遅延したため,次年度にタンパク質の抽出を実施し,今後スポットの増減と機能との相関について検証を進める予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までに2次元電気泳動によるスフィンゴシン誘導発芽に特異的なタンパク質の機能推定を行った.これらのタンパク質がスフィンゴシン誘導に関わっていると推察されたが,現時点ではスフィンゴシンからのシグナルと最終的なタンパク質発現の相関が明らかとなっていない. したがって,次年度の予定として,糸状菌の中でNomuraea rileyiのみがスフィンゴシンに対して特異的誘導がかかるため,スフィンゴシン非感受性の病原性糸状菌を用いて,スフィンゴシン存在下および非存在下で同様の培養を行い,発現するタンパク質の2次元電気泳動を行い,ディファレンシャルディスプレイにより特異的タンパク質を検出する.すなわち,非感受性糸状菌でのスフィンゴシン刺激による発現タンパク質が存在すれば,Nomuraea rileyiとの比較によりスフィンゴシン誘導発芽とそれ以外の刺激誘導型タンパク質発現との切り分けが可能になると推察される.これにより,スフィンゴシンによる特異的誘導発芽にのみ関連するタンパク質が特定できると考えられる.また,胞子表面に存在すると考えられるスフィンゴシン受容体の探索を進める.これは胞子表面に存在すると考えられる膜結合型糖脂質などが想定されるが,このような外部シグナルを伝達するレセプター分子を糸状菌で解析した例はほとんどない.したがって,膜結合性シグナル伝達タンパク質分子の調製条件の検討,スフィンゴシンをリガンドとして胞子に存在する受容体の探索などを検討し,さらに細胞内におけるレセプターを介したシグナル伝達に関与すると思われるリン酸化タンパク質を特異的に検出し,「緑きょう病菌」に特異的な経路を特定する.これらの解析のためのタンパク質処理条件の確立,および実際の質量分析機を用いたタンパク質のプロテオーム解析を進める.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
緑きょう病菌Nomuraea rileyi胞子よりC14-Sph に対するレセプターの分離とその同定を別途予定していたが,疎水性タンパク質の抽出が可能であるフェノール法を用いたタンパク質の抽出を行い,タンパク質の同定を進めてきた.本年度までに特異的発現タンパク質の解析がほぼ終了したため,次年度に予定通り非感受性菌とのプロテオーム比較およびレセプタータンパク質の分離・同定を試みる.したがって,研究計画に変更はない. 平成26 年度に予定している他の昆虫病原性糸状菌とのプロテオーム比較に加え,25 年度に予定していた促進物質に対するレセプターの同定を合わせて行う.すでに非感受性菌の予備培養は終了しているので,これらはすぐに着手できる.また,胞子発芽から発芽管伸長へ向けての細胞内シグナルトランスダクション解析は予定通り実施する.
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Research Products
(5 results)