2012 Fiscal Year Research-status Report
外来昆虫の侵入地における急速な適応の過程と遺伝的機構の解明
Project/Area Number |
24580084
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | National Institute for Agro-Environmental Sciences |
Principal Investigator |
田中 幸一 独立行政法人農業環境技術研究所, 生物多様性研究領域, 上席研究員 (00354077)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村田 浩平 東海大学, 農学部, 准教授 (90279381)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 外来昆虫 / 進化 / 気候適応 / 光周性 / 休眠 |
Research Abstract |
本研究は、近年わが国に侵入・定着し、急速に分布を拡大した外来昆虫であるブタクサハムシを材料として、気候や寄主植物のフェノロジーに対する適応と関係の深い特性である光周性に着目し、光周性の経年変化および全国各地における地理的変異を調査して、適応・進化の過程を解明するとともに、量的遺伝解析手法を用いて、急速な適応を可能にした遺伝的機構を解明することを目的とする。 24年度は、適応過程の解明のために、つくば個体群における光周性の経年変化および全国数地点における光周性の地理的変異を調査・実験した。つくば個体群の2005年~2012年系統を用いて実験を行った。同一日長での休眠率は年次変動があったが、明らかな増減傾向はなく、さらに年次変動は年とともに小さくなる傾向を示した。したがって、つくば個体群の特性は、同地の環境に適応して、平衡に達しつつあると考えられる。 光周性の地理的変異を調べるため、北海道苫小牧市、青森県弘前市、岩手県盛岡市、茨城県つくば市、熊本県合志市、鹿児島県指宿市で採集した系統を用いて実験を行った。苫小牧系統を除く系統では、北の系統ほど同一日長での休眠率が高く、採集地の緯度と休眠率に正の相関があった。この結果は、ブタクサハムシが分布を拡大する過程で、各地域の環境に適応して光周性が変化したことを示している。しかし、苫小牧系統の休眠率は、このような全国的傾向から大きく外れて休眠率が低かった。この理由を明らかにするためには、同地の個体群を継続して調査する必要がある。 急速な適応をもたらす遺伝的機構を解明するため、つくば系統を用いて、日長13時間の条件下で休眠および非休眠の両方向に人為淘汰をかける実験を行った。その結果、両方向とも、休眠率は数世代で大きく変化し、光周性に遺伝変異があることが検出できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度の研究実施計画およびその達成状況を記す。侵入地環境への適応過程の解明のために、つくば個体群について、これまでに採集して飼育中の系統を用いて光周性の実験を行うとともに、2012年に新たに採集する系統についても実験を行う計画であった。これらの実験を計画通りに実施し、特性変化が平衡に達しつつあるという結果が得られた。 つくば個体群における光周性の変化が、同地の環境に適応した結果であるとすると、各地に分布拡大した異なる地域個体群は、各地の環境に適応して、光周性に地理的変異を生じていると予想された。そのため、気候の異なる全国数地点において採集した系統を用いて実験を実施した。その結果、予想通り地理的変異を生じており、休眠率が緯度と相関のあることを見出した。さらに、侵入後の期間が短い苫小牧個体群では、光周性の傾向が異なるという重要な結果を得た。 急速な適応をもたらす遺伝的機構を解明するため、人為淘汰実験によって光周性の遺伝変異を検出する計画であった。これらの実験も計画通り実施し、予想通り人為淘汰によって特性が変化し、大きな遺伝変異があることを確認した。 以上のように、調査・実験はすべて計画通りに実施し、また本研究を進めるうえで重要な結果が得られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
つくば個体群における光周性の経年変化については、2013年および2014年に採集する系統について継続して実験を行い、特性変化が平衡に達したかを確認する。これによって、特性変化の速度を知ることができる。 光周性の地理的変異については、これまでの調査地点が6地点であり、さらに多数の地点で採集を行って、それらの系統を用いて実験を実施する。24年度には、気候が大きく異なる地点を選んだので、25年度には、これらの地点を埋める地点を選んで調査・実験を行う。山形県、福島県、滋賀県、和歌山県、島根県などで調査を行う予定である。また、他の地域個体群と傾向の異なる苫小牧個体群については、継続して調査・実験を行う。これらの調査・実験とあわせて、25~26年度には、光周性の地理的変異が各地の気候や寄主植物のフェノロジーに適応したものであるかを検証するために、各地における本種の発生の季節消長や寄主植物のフェノロジー(特に、出芽、開花・結実、枯死時期)を調査する。 急速な適応をもたらす遺伝的機構の解明に関しては、人為淘汰実験を継続し、特性変化が平衡に達したら、遺伝率を推定して、遺伝変異を定量化する。さらに、26年度には、光周性と生活史特性との遺伝相関を明らかにするために、選抜した休眠・非休眠系統を用いて、発育期間、生存率、生長量、産卵数、成虫寿命など、適応度に関わる生活史特性を調査し、系統間で比較する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度は、全国多数の地点で調査を実施する必要があり、また研究成果を日本昆虫学会(札幌市で開催)および日本生態学会(広島市で開催)で発表する計画である。そのために、旅費を最も多く計上している。また、現地ではレンタカーを用いて調査を行うため、そのための費用も計上している。 消耗品等の物品費については、採集したサンプル保存用のバイアル瓶およびエチルアルコールが必要であり、またシャーレなど昆虫飼育のための用具にも使用する計画である。さらに、研究成果を間もなく投稿する予定であり、年度内に印刷になったら、別刷代金を支出する。 光周性の実験には、多数の系統の昆虫を飼育する必要があり、そのための餌植物の準備などを行う実験補助員を雇用する。
|