2013 Fiscal Year Research-status Report
外来昆虫の侵入地における急速な適応の過程と遺伝的機構の解明
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24580084
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Research Institution | National Institute for Agro-Environmental Sciences |
Principal Investigator |
田中 幸一 独立行政法人農業環境技術研究所, 生物多様性研究領域, 上席研究員 (00354077)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村田 浩平 東海大学, 農学部, 准教授 (90279381)
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Keywords | 外来昆虫 / 進化 / 気候適応 / 光周性 / 休眠 |
Research Abstract |
本研究は、近年わが国に侵入・定着し、急速に分布を拡大した外来昆虫であるブタクサハムシを材料として、気候や寄主植物のフェノロジーに対する適応と関係の深い特性である光周性に着目し、光周性の経年変化および全国各地における地理的変異を調査して、適応・進化の過程を解明するとともに、量的遺伝解析手法を用いて、急速な適応を可能にした遺伝的機構を解明することを目的とする。 24年度には、全国4地点で採集した本種系統の光周性の地理的変異を実験し、採集地の緯度と同一日長における休眠率に正の相関があることを見出した。25年度は、この傾向が全国的に当てはまるか検証するため、さらに11地点で採集した系統を用いて実験を行い、緯度と休眠率に高い正の相関があることを確認した。あわせて、苫小牧系統は、この直線関係から大きくはずれることを確認した。 急速な適応をもたらす遺伝的機構を解明するため、つくば個体群の3系統(2005年、2006年、2012年系統)を用いて、日長13時間の条件下で休眠および非休眠の両方向に人為淘汰をかける実験を継続した。両方向とも、休眠率は数世代で大きく変化し、5~8世代で100%(休眠淘汰)または0%(非休眠淘汰)に達した。光周反応は、ポリジーン系に支配されていると考えられるため、閾値形質を仮定して、光周性の遺伝率を推定した結果、遺伝率の推定値は0.208~0.856となり、この特性に大きな遺伝変異があることが明らかになった。今後、光周性や休眠に入る時期が、各地の気候や寄主植物のフェノロジーに適応しているか明らかにするために、野外においてそれらのデータを得るための調査を行う必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度の研究実施計画およびその達成状況を記す。 24年度に見出した光周性の地理的変異の傾向が、全国各地に適用できるか確認する計画であった。そのために、新たに全国11地点で本種を採集して光周性の実験を実施し、この傾向が全国各地に適用できること、あわせて苫小牧系統がこの傾向から大きく外れることを確認した。これらの実験は計画通り完了した。 急速な適応をもたらす遺伝的機構を解明するため、人為淘汰実験を継続し、休眠率の変化が平衡に達したら遺伝変異を定量化する計画であった。3系統を用いた人為淘汰実験を継続し、休眠率が5~8世代で、100%または0%に達し、この結果を用いて、遺伝変異の大きさを表す遺伝率を推定し、光周性の遺伝変異が大きいことを明らかにした。これらの実験も計画通り実施し、遺伝変異の大きいことが、短期間に光周性の変化をもたらした遺伝的な機構であるという、重要な結論が得られた。 以上のように、調査・実験はすべて計画通りに実施し、また本研究を進めるうえで重要な結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
光周性の地理的変異については、全国17地点で採集した系統を用いた実験によって全国的な傾向を明らかにした。この中で、全国的傾向から外れた苫小牧個体群については、継続して調査・実験を行い、この違いの原因が、まだ適応途上にあって年々変化してしているのかを確認する。もしそうでないときには、この違いをもたらす原因について、手がかりを得るために、気温など条件を変えて実験を実施する。 また、光周性の地理的変異が各地の気候や寄主植物のフェノロジーに適応したものであるかを検証するために、各地における本種の発生の季節消長や寄主植物のフェノロジー(特に、出芽、開花・結実、枯死時期)を調査する。 急速な適応進化をもたらす遺伝的機構の解明に関しては、光周性と生活史特性との遺伝相関を明らかにするために、人為淘汰のよって確立した休眠・非休眠系統を用いて、発育期間、生存率、生長量、産卵数、成虫寿命など、適応度に関わる生活史特性を調査し、系統間で比較する。25年度に得られた光周性の遺伝変異の結果とあわせて、急速な適応進化をもたらした遺伝的機構および生活史特性と気候や寄主植物のフェノロジーなどの環境条件との関係を考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
26年度は、これまで光周性を実験した系統を採集した全国各地において、野外調査を実施する必要があり、また研究成果を関係学会で発表する計画である。そのための旅費および現地でのレンタカー借料が必要である。 採集したサンプル保存用のバイアル瓶、エチルアルコール、およびシャーレなど昆虫飼育のための用具が必要である。さらに、研究成果を投稿した論文が印刷中であり、別刷代金を支出する必要がある。光周性の実験には、多数の系統の昆虫を飼育する必要があり、そのための餌植物の準備などを行う実験補助員を雇用する。 全国各地における野外調査のため、また日本昆虫学会(広島市で開催)および日本生態学会(鹿児島市で開催)参加のための旅費を使用する。消耗品等の物品費について、バイアル瓶、エチルアルコール、シャーレなど昆虫飼育のための用具購入に使用する。論文別刷代金を支出する。実験補助員を雇用するため、人件費を支出する。
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