Research Abstract |
ラン藻Synechocystis sp. PCC 6803は,高塩濃度下をはじめとした環境ストレス下においても生育が可能な光合成微生物である.研究代表者はこれまでに,Synechocystis が塩ストレス条件下でバイオフィルムを形成することを見いだしている.また, 他の微生物において, バイオフィルム形成に際して,細胞内のシグナル因子であるポリアミンやcyclic di-GMP が重要な役割を果たしていることが推察されている. しかしながら,Synechocystis においては, バイオフィルム形成誘導の詳しい機構は明らかにされていない.そこで本年度は,ポリアミン生合成やcyclic di-GMP合成・分解に関連する酵素蛋白質をコードした遺伝子の欠損株を作成し,これらの遺伝子の環境ストレス下におけるバイオフィルム形成への関与を検討した.また,Synechocystisの環境ストレスセンサーであるヒスチジンキナーゼ(Hik)の遺伝子欠損株についても同様に検討した.その結果,Δslr2077株とΔslr0401株でバイオフィルム形成量が減少した.slr0401は細胞外のポリアミンを検知するPotDをコードする遺伝子,slr2077はPotD と結合しcyclic-di-GMP合成を行うMbaAをコードする遺伝子であり,これらがSynechocystis におけるバイオフィルム形成において重要な役割を担っていることが推察された.また,Hikについてもcyclic-di-GMP合成能を示す配列を有するHik17の欠損株でバイオフィルム形成量が減少した.一方で,塩ストレス応答が報告されているHikの欠損株でありながらもバイオフィルム形成量が変化しないものもあった.これらの結果から,塩ストレスを感知するHikの中でも限られたHikがバイオフィルム形成誘導に関与することが示唆された.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、当初計画していたバイオフィルム生合成酵素の探索とバイオフィルム形成を誘導する浸透圧センサー(Hik)の同定を平成25年度も引き続き行うことによって生じたものであり、これらの実験に必要な経費として、平成25年度請求額と合わせて使用する予定である。 【消耗品】 ・バイオフィルム生合成関連遺伝子の遺伝子破壊用プラスミドDNAの作製のため合成オリゴDNA(700円/1合成)・遺伝子工学実験用試薬(Ex-tag DNA polymerase [Takara, 12千円/250U], Prime Star DNA polymerase [Takara, 12千円/250U], DNA ligase [TOYOBO, 円/U], 特級寒天 [9,600円/ 500g], プラスミド抽出キット[20,000円/100サンプル分], BigDye v3.1 [ABI, 600,000円/100回分])・ラン藻の遺伝子破壊株の培養用試薬・電子顕微鏡観察用試薬(グルタルアルデヒド [Nakarai, 7,700円/10 ml])・バイオフィルム検出用試薬(クリスタルバイオレット [和光純薬3.6千円/25 g])・プラスチック器具(200 ulチップ [グライナー, 1,500円/1,000本], 1000 ulチップ [グライナー, 1,700円/1,000本], 1.5 ml サンプルチューブ [グライナー, 3,200円/1,000本])・ガラス器具(IWAKI, 試験管 [42 円/本], 500 ml 三角フラスコ [IWAKI, 3,200円/個] 【旅費・その他】 ・研究成果を積極的に発表するため、国内学会(日本農芸化学会、日本生物工学会)参加費・旅費を計上した。・研究成果を英文誌にて発表するため、英語論文投稿料・英文校閲料を計上した。
|