2012 Fiscal Year Research-status Report
人為的な祖先細胞の造成による環境応答の転写制御ネットワークの全容解明
Project/Area Number |
24580101
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
朝井 計 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (70283934)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | シグマ因子 / 転写制御 / ストレス応答 / 枯草菌 |
Research Abstract |
細菌のストレス応答は複数の遺伝子転写制御系のネットワーク構造で構成されている。本研究は、まず目的以外の制御系を削除した単純系株を構築し、個々の制御系の真の支配下遺伝子を個別に明らかにしていき、それらを統合して正確な元の全体像を得ることを目的とした。本解析は従来法と全く逆の方向からのアプローチによる、新たな手法に基づくものであり、枯草菌を材料として主に以下の3つの実験過程に分けて進める予定である。 1)シグマ因子と2成分制御系遺伝子の多重破壊株の作製。2)作製した株の種々の環境応答の変化、増殖への影響といった表現型の解析。3)作製した転写制御系を最小数有する株を用いて、環境応答遺伝子の網羅的転写解析を行い、データーを組み合わせ、転写制御ネットワークの全容を明らかにする。 当該年度において、足跡を残さず、遺伝子内領域を染色体から欠失させるマーカーレス破壊法により、多重シグマ因子破壊株(シグマ因子最少株)の作製を行った。枯草菌の19のシグマ因子のうち14シグマ因子遺伝子を同時に破壊した。残りのシグマ因子のうち4つは発現しないことがわかっているので、実質たった1つのシグマ因子のみで増殖可能であることが判明した。他の細胞に共生や寄生で生きる細菌の中にはシグマ因子を一つしかもたないものもいるが、一般的な培地で独立して増殖可能な複数のシグマ因子を有する細菌としては、本研究において世界で初めて、シグマ因子最少細菌を樹立したことになる。 また、このシグマ因子最少株を基本に、シグマ因子の保有数を1つ、2つと段階的に増した株のシリーズをいくつか作製した。 シグマ因子最少株について、熱ストレス応答を調べた。37℃で培養中の菌を42℃にシフトしたが野生株である親株との顕著な差は見られなかった。シグマ因子一つである程度熱ストレスに適応可能であることが初めて判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は培養や遺伝子破壊・組み換え等が容易な枯草菌を材料とし、一生物のシグマ因子と2成分制御系による環境応答機構の全容解明を目指している。計画当初に次のように3つの実験過程に分けて進める予定とした。 1)シグマ因子と2成分制御系遺伝子の多重破壊株の作製。2)作製した株の種々の環境応答の変化、増殖への影響といった表現型の解析。3)作製した転写制御系を最小数有する株を用いて、環境応答遺伝子の網羅的転写解析を行い、データーを組み合わせ、転写制御ネットワークの全容を明らかにする。 当該年度において、マーカーレス破壊法により、枯草菌の19のシグマ因子のうち14シグマ因子遺伝子を同時に破壊し、4つを不活化し、実質1つのシグマ因子のみで増殖可能である株を樹立した。一方二成分制御系については、40ほどの遺伝子セットの8割は同時破壊を行っており、両者を組み合わせる段階まで来ている。すなわち前述の実験過程1)については、次年度中にも完成させることが可能なところまで来ていると判断した。 また、シグマ因子最少株についてその親株である野生株と比較し、表現型の変化の解析もいくつか行った。もっとも大きな変化は対数増殖後の定常期における生存能力の低下であり、現在解析中である。一方、シグマ因子最少株を基本に、シグマ因子の保有数を1つ、2つと段階的に増した株のシリーズをいくつか作製している。こられについて、環境ストレスのうち、熱ストレス応答について解析したところ、簡便な解析では親株との顕著な感受性の変化は見いだされなかった。今後は他のストレスや条件を検討する必要がある。このように前述の実験過程2)についてもある程度進行している。一方実験過程3)の転写解析については未着手である。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度にて、シグマ因子遺伝子の多重破壊によるシグマ因子最少株の作製は完了した。引き続き作製したシグマ因子最少株を用いて、野生株との転写プロファイルの違いを、主にストレス応答に関して解析する予定であった。しかし、野生株と比較し対数増殖に影響はなく、また、熱ストレス応答を検討したところ、やはり顕著な影響は見られなかった。そのため、ストレス応答に関する転写解析を保留したため、次年度に使用する予定の研究費が生じた。当初予定していた、転写解析に移る前に、これらの問題を解決する必要がある。 シグマ因子最少株は対数増殖は野生株と同等だが、その後の定常期において培養液濁度の顕著な低下がおきる。枯草菌にはゲノム内に複数のプロファージ領域をもち、そのいくつかはDNA傷害等の要因が引き金となって溶菌を引き起こす原因となる。シグマ最少株の濁度低下がプロファージが原因である可能性を検討、あるいはその可能性を取り除くために、新たに、プロファージ領域を欠失させた枯草菌株において、遺伝子多重破壊を行うことを予定している。また前述のように、検討した熱ストレス応答では顕著な影響が見られなかったことから、他のストレスやストレス条件を検討する必要がある。 これらの問題は当初想定していなかったが、本研究課題を遂行するにあたっても、また研究テーマとしても非常に興味深い問題であるので、可能な限り解決に向け解析を行う。また、シグマ因子遺伝子の破壊に加え二成分制御系遺伝子等、新たに転写制御系遺伝子の多重破壊株を作製していく。そのうえで、ストレスを与える細胞と与えない対照細胞の遺伝子発現プロファイルの差を、継時的に網羅的に解析する大規模転写解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度にて、シグマ因子遺伝子の多重破壊によるシグマ因子最少株の作製は比較的滞りなく完了した。引き続き作製したシグマ因子最少株を用いて、野生株との転写プロファイルの違いを、主にストレス応答に関して解析する予定であったが、期待に反して野生株と比較し顕著な表面的は変化が見られなかった。そのため、その後に予定していた、ストレス応答に関する転写解析を保留した。従って次年度には、当初予定していた、転写解析になるべく早く以降するために、これらの問題を早急に解決する必要がある。 シグマ因子最少株は対数増殖は野生株と同等だが、その後の定常期において培養液濁度の顕著な低下がおきる。枯草菌にはゲノム内に複数のプロファージ領域をもち、そのいくつかはDNA傷害等の要因が引き金となって溶菌を引き起こす原因となる。シグマ最少株の濁度低下がプロファージが原因である可能性を検討、あるいはその可能性を取り除くために、新たに、プロファージ領域を欠失させた枯草菌株において、遺伝子多重破壊を行うことを予定している。また、検討した熱ストレス応答では顕著な影響が見られなかったことから、他のストレスやストレス条件を検討する必要がある。これらの問題点をなるべく迅速に解決するために、研究費を、実験の効率化のためのキット購入や解析の外注、研究員を利用するための謝金等に利用する予定である。 これらの解析が順調に進行していけば、引き続き次年度に予定していた、多重遺伝子破壊株の作製や、作製した変異株を用いた転写解析を行う予定である。
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