2013 Fiscal Year Research-status Report
人為的な祖先細胞の造成による環境応答の転写制御ネットワークの全容解明
Project/Area Number |
24580101
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
朝井 計 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (70283934)
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Keywords | 転写制御 |
Research Abstract |
細菌は単に増殖するだけでなく、複数の遺伝子転写制御系による制御ネットワークを構築し、様々な環境ストレスに対して応答・適応し進化・生存している。このネットワーク構造は、長い進化の過程で培われたものであり、階層構造が相互にさらに重複した複雑かつロバストな構造である。現行の解析である階層構造をひとつひとつ解いていく、順方向遺伝学的な解析では、残った階層構造が巧みに変化するロバストな生物の応答により、全体構造を解き明かすことは容易ではない。本研究は、まずこのロバストな構造を一旦破壊し、再構築する過程でその全体像を解き明かすという、従来法と全く逆の方向からのアプローチを行った。すなわち、目的以外の転写制御系を削除した単純系株を構築し、個々の制御系の真の支配下遺伝子を個別に明らかにしていき、それらを統合して正確な元の全体像を得ることを目的とした。解析には、ゲノム改変が容易な枯草菌を材料とした。 これまで、足跡を残さず、遺伝子内領域を染色体から欠失させるマーカーレス破壊法により、枯草菌の19のシグマ因子のうち18のシグマ因子が機能していない株(シグマ因子最少株)の作製を行い、実質たった1つのシグマ因子のみで増殖可能であることが判明した。シグマ因子最少株について、熱ストレス応答を調べた結果、野生株では転写誘導されないが、シグマ因子最少株で特異的に転写誘導される遺伝子が新たに見出された。シグマ因子の関係しない原始的な熱ショック応答転写と考えられる。また、シグマ因子最少株は定常期には死滅してしまうというユニークな表現型を呈する。現在この死滅から逃れる変異株を取得している。 当初想定した通り、これまでの細菌研究では観察されなかった種々の現象・機構が見出されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は当初以下の3つの実験過程に分けて進める予定とした。1)シグマ因子と2成分制御系遺伝子の多重破壊株の作製。2)作製した株の環境応答の変化、増殖への影響といった表現型の解析。3)作製した株を用いて、網羅的転写解析を行い、データーを組み合わせ、転写制御ネットワークの全容を明らかにする。 2成分制御系遺伝子と組み合わせていないが、シグマ因子最少株は得られている。シグマ因子最少株の段階でユニークな性質が観察されたため、本株について以降の解析を進めた。2)熱ストレス応答について解析したところ、簡便な解析では親株との顕著な感受性の変化は見いだされなかったが、シグマ因子最少株固有の転写誘導系の存在が示唆された。3)シグマ因子最少株固有の転写誘導系について解析中であるが、もっとも大きな変化は対数増殖後の定常期における生存能力の低下であり、解析をすすめた。 計画1)と2)に関しては順調に進展している。一方計画3)についても実験を行ったが、一方で研究の過程で見出された、興味深い表現型に関する解析も行っているため、区分は(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
シグマ因子遺伝子の多重破壊によるシグマ因子最少株の作製は完了した。また、熱ショック応答に関して、網羅的な転写解析を行った。その後シグマ因子最少株にシグマ因子を順次戻していき、転写解析を行うことで、転写ネットワークを再構築する、当初の研究を遂行することも可能であった。しかし、予想を上回る結果として、隠れていたシグマ因子最少株固有の熱ショック転写誘導系の存在が明らかになり、この機構の詳細な解析を行うことを計画している。また、シグマ因子最少株は対数増殖は野生株と同等だが、その後の定常期において培養液濁度の顕著な低下・死滅がおきる。これは生存能力の低下と考えられ、シグマ因子最少株固有の表現型であった。しかも、この死滅から回復するサプレッサーと考えられる細胞が、比較的容易に得られたため、このサプレッサー変異の解析を行うこととした。これらの解析はシグマ因子を一つしか有しない、いわば原始的な細胞のもつ根源的な能力と、その後の能力獲得といった進化の過程を解析する、新しい研究課題と考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
作製したシグマ因子最少株及びその誘導株を用いて、野生株との転写プロファイルの違いを、主にストレス応答に関して解析する予定であったが、シグマ因子最少株の熱ショック応答系そのものがユニークであった。また、シグマ因子最少株は対数増殖は野生株と同等だが、その後の定常期において培養液濁度の顕著な低下がおきる。この表現型がユニークであり、またその現象を抑圧するサプレッサー変異が簡単に取得されたため、その解析を優先した。その結果、その後に予定していた、別のストレス応答に関する転写解析を保留したため、網羅的転写解析にかかる費用が軽減された。 シグマ因子最少株の熱ショック応答系の解析も続けるが、次年度はその他のストレス応答に関しても網羅的な転写解析を行う。 また、シグマ因子最少株の定常期溶菌を抑圧するサプレッサー変異の解析のためには、全ゲノム塩基配列の再シーケンスが必要であり、費用を新たにこれにあてる。また、実験の効率化のためのキット購入や解析の外注、研究員を利用するための謝金等に利用する予定である。
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Research Products
(10 results)