2014 Fiscal Year Research-status Report
人為的な祖先細胞の造成による環境応答の転写制御ネットワークの全容解明
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24580101
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
朝井 計 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (70283934)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 転写制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
細菌のストレス応答は複数の遺伝子転写制御系のネットワーク構造で構成されている。本研究は、まず目的以外の制御系を削除した単純系株を構築し、個々の制御系の真の支配下遺伝子を個別に明らかにしていき、それらを統合して正確な元の全体像を得る、従来法と全く逆の方向からのアプローチによる、新たな解析手法に基づくものである。手始めにゲノム改変が容易な枯草菌を材料とし、シグマ因子群からなる転写制御ネットワークの構造と機能・意義に関する解析を行った。 これまで、足跡を残さず、遺伝子内領域を染色体から欠失させるマーカーレス破壊法により、枯草菌の19のシグマ因子のうち18のシグマ因子が機能していない株(シグマ因子最少株)の作製を行い、実質たった1つのシグマ因子のみで増殖可能であることが判明した。 シグマ因子最少株について、熱ストレス等種々の環境ストレスに対する応答を調べた結果、シグマ因子を全て有する野生株との大きな違いは見出せなかったが、シグマ因子最少株は定常期には死滅してしまうというユニークな表現型を呈した。この表現型に関与する責任シグマ因子の同定を行うために、シグマ因子最少株を基本に、シグマ因子の保有数を1つ、2つと段階的に増した株のシリーズを作製した。その結果、定常期死滅はシグマ因子最少株で見られる表現型であることが判った。一方、死滅期の細胞を顕微鏡観察したところ、生きた細胞が残っていたことから、実は死滅していたのではなく、生き残った細胞のコロニー形成能が失われたため、見かけ上生きた細胞が検出できなかったことが考えられた。研究の過程で、当初予想した以上に、これまでの細菌研究では観察されなかった種々の現象・機構が見出された。この細胞死あるいはコロニー形成不能という表現型について重点的に転写制御ネットワークの解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は当初以下の3つの実験過程に分けて進める予定とした。1)シグマ因子と2成分制御系遺伝子の多重破壊株の作製。2)作製した株の環境応答の変化、増殖への影響といった表現型の解析。3)作製した株を用いて、網羅的転写解析を行い、データーを組み合わせ、転写制御ネットワークの全容を明らかにする。 1)シグマ因子最少株等のシグマ因子破壊と組み合わせてはいないが、2成分制御系遺伝子の破壊株は多数作成済みである。シグマ因子最少株だけでも、定常期死滅というユニークな性質が観察されたため、2成分制御系遺伝子破壊を加えずに、シグマ因子最少株についてさらに解析を進めた。2)熱ストレス応答について解析したところ、簡便な解析では親株との顕著な感受性の 変化は見いだされなかったが、全遺伝子転写プロファイル解析を行った結果、シグマ因子最少株固有の転写誘導系の存在が示唆された。従って、以上のように計画1)と2)に関しては順調に進展したと判断した。シグマ因子最少株のもっとも大きな表現型の変化は、対数増殖後の定常期における死滅という現象であった。これはこれまでに解析例のあまりない、ユニークな現象であり、本解析過程において見出されたものであったので、更に解析をすすめた。その結果死滅したのではなく、寒天平板培地でコロニー形成能を失ったため、一見生きた細胞が検出できなかった可能性が考えらえた。計画3)の網羅的転写解析も一部行っている。しかし、シグマ因子最少株の表現型の解析を行うにあたり、その形質に関するサプレッサー株が得られ、その変異部位の同定を行うために、全ゲノムの再シーケンス解析を行ったこともあり、計画3)の達成が部分的であり、従って現在までの達成度の区分を(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
シグマ因子遺伝子の多重破壊によるシグマ因子最少株の作製は完了した。このシグマ因子最少株を基本に、シグマ因子の保有数を1つ、2つと段階的に増した株のシリーズを作製した。その結果、定常期死滅はシグマ因子最少株で見られる表現型であることが判った。死滅期には文字通り細胞が検出されなくなると考え、顕微鏡観察により細胞の状態を観察したところ、生きた細胞が残っていたことから、実は死滅していたのではなく、寒天平板培地でコロニー形成能を失ったため、一見生きた細胞が検出できなかった可能性が見出された。細菌のコロニー形成能に関する知見はこれまでほとんどないため、この表現型の解析を、これに関与する転写制御ネットワークの解明という見地から行う。 シグマ因子最少株の表現型が回復するサプレッサーと考えられる細胞が、比較的容易に得られ、このサプレッサー変異を同定し、関与する遺伝子の解析を行う。すでに全ゲノム再シーケンスを行い、変異部位について解析中である。 一方、当初の計画3)に基づいて、シグマ因子最少株の環境ストレス、特に熱ストレス応答に対して、網羅的転写解析を行った。残った唯一のシグマ因子である必須シグマ因子が関わる既知の転写応答に加え、野生株では隠れていたと思われる、シグマ因子最少株固有の熱ショック転写誘導系の存在が明らかになった。野生株が獲得した、現状の複雑な制御機構に対して、未知の原始祖先的な機構であると考えられるので、複雑系の解析に先駆けて、この機構の詳細な解析を行うことを計画している。 シグマ因子最少株にシグマ因子を順次戻した株も作製済みなので、網羅的転写解析による転写ネットワークの再構築解析も行えるが、当初の予想を上回る結果が得られたため、これらの解析を優先し、成果をまとめることとする。
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Causes of Carryover |
26年度に、それまでに作製したシグマ因子最少株及びその誘導株を用いて、野生株との転写プロファイルの違いを、主にストレス応答に関して解析し、その結果を元にデーターをまとめ、学会や研究会において発表し、投稿論文を作成する予定であった。しかし菌株の作製に時間を要したことと、シグマ因子最少株の熱ショック応答系そのものがユニークであり、またシグマ因子最少株は対数増殖は野生株と同等 だが、その後の定常期において培養液濁度の顕著な低下がおきる等、作出した菌株に予想外の興味深い形質が見られたため、計画を変更し新たな形質の解析も行うこととした。その結果、その後に予定していた、別のストレス応答に関する転写解析を保留したため、網羅的転写解析にかかる費用が軽減された。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
シグマ因子最少株のユニークな熱ショック応答系の解析を行う。また、シグマ因子最少株の定常期溶菌はコロニー形成能の喪失に由来すると考えれられ、この機構を解析する。これらの解析で必要な新たな株の作製のための試薬や消耗品の購入費用に使用する。細胞死の解析を顕微鏡下で行うためには種々の細胞染色試薬が必要であり、多くの有用な試薬が市販されており、この細胞染色蛍光試薬の購入に使用する。また、網羅的転写解析に加え、全ゲノム塩基配列の再シーケンス解析等の費用に使用する。加えて、実験の効率化のための高額キット購入や解析の外注、研究員を利用するための謝金等に利用する予定である。また最終的には、それらの解析結果の学会や研究会における発表と、論文作成を行う費用にあてる。
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Research Products
(7 results)