2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24580108
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小林 哲夫 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (20170334)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | Sun family / 糸状菌 / 細胞壁 |
Research Abstract |
アミラーゼ高生産変異株として取得されたA. nidulans AHP1102は、セルラーゼ、プロテアーゼなど他の分泌酵素も高生産する。この表現型の原因として、sunA遺伝子プロモーター上での染色体再配置による転写量の低下が示唆されていた。そこで、TAIL PCRを用いてAHP1102のsunAプロモーター領域の塩基配列を決定したところ、翻訳開始点を+1として-3から上流が他のクロモソーム上に存在するAN0430遺伝子の2226 baseから下流と置き換わっており、その結果sunAの転写が激減したと考えられた。 分裂酵母におけるSunAのオルソログは細胞壁に局在し、細胞壁合成・分解への関与が示唆されている。AHP1102(sunA変異株)の顕微鏡観察の結果、菌糸の形状に異常が見られ、頻繁な湾曲やこぶ状の構造が観察された。また、細胞壁のキチン鎖撹乱薬剤であるカルコフルオールホワイト、beta-1,3-グルカン鎖撹乱薬剤であるコンゴーレッドの両者に対して感受性を示した。コンゴーレッド存在化での培養では菌糸伸長の低下と菌糸の肥大化が見られ、高濃度では数珠状の形態が観察された。以上から、sunA変異株では細胞壁に何らかの異常があると考え、細胞壁ヘキソース含量を定量したが増減は認められなかった。 sunAの出芽酵母オルソログSUN4はHog経路の下流にあるという報告がある。また、糸状菌では、fludioxionil, iprodioneなどの薬剤はHog経路を異常に活性化し細胞死を引き起こすが、この時上記と同様な数珠状の構造が観察される。そこでこれら薬剤に対する感受性を検討したところ、sunA変異株はいずれの薬剤に対しても耐性であった。これら薬剤はセンサーヒスチジンキナーゼNikA依存的にHog経路を活性化することが知られているため、SunAとこの情報伝達系との関連が示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
sunA変異株における変異の詳細同定に成功し、また変異が細胞壁構造に影響を与えていることを示す様々な状況証拠を得た。さらに、Hog経路の攪乱により細胞死を引き起こすと考えられる薬剤に対してSunA変異株が抵抗性を示すという極めて興味深い結果を得た。一方、SunAタンパク質の局在部位については、当初の抗体による検出を変更し、野生株と変異株の細胞壁タンパク質組成の比較により同定することを試みている。これは、酵母のオルソログが細胞壁タンパク質として検出可能であるという報告があり、また、RNAシークエンスデータからsunAの発現量が極めて高いことが明らかになったためである。また、sunAの条件特異的発現については一時中断し、破壊株作製を行っている。これは、破壊株における検討が学術論文としての発表に必須と考えられるためである。 以上から、当初の研究計画に含まれていない部分で興味深い発見がある一方で、一部の計画変更に伴う遅れがややある。これらを総合すると全体としてはおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までsunA変異株を用いた解析を行ってきたが、A. fumigatusで破壊株の取得が可能であることが示されたため、今後は破壊株を用いた解析を試みる。具体的にはA. oryzaeのタカアミラーゼ遺伝子が導入された株を用い、sunA遺伝子、またそのパラログであるsunB遺伝子を破壊し、アミラーゼの生産性に与える影響を解析する。また、sunA破壊により生じると考えられる細胞壁異常がグルカン合成分解に関与する遺伝子の発現に与える影響を調べる。SunAの高発現株についても同様な解析を行う。 一方、A. fumigatusのSunAオルソログが微弱なbeta-グルカン分解活性を示すことが報告された。しかし、その活性があまりに微弱であるため本来の機能と異なる可能性がある。そこで、リコンビナントSunAを調製し、細胞壁に存在するキチン、グルカンなどに対する活性を検討する。活性が検出された場合、保存されたCys残基等に変異を導入しその影響を解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究上予期せぬ問題(例えば必須の機器の故障など)が生じない限り、研究費は消耗品の購入に充てる。
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