2012 Fiscal Year Research-status Report
細胞膜の動態計測から探る深海性好圧性細菌の圧力適応機構の解明
Project/Area Number |
24580122
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
阿部 文快 青山学院大学, 理工学部, 准教授 (30360746)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 圧力適応 / 深海微生物 / 細胞膜ダイナミクス / 時間分解蛍光偏光解消法 |
Research Abstract |
本研究は、我々が開発した高圧時間分解蛍光偏光解消測定システムを基盤とし、海洋の様々な深度から得られたShewanella属の好圧性細菌について、膜の特性と多価不飽和脂肪酸の役割を解明することを目的としている。まず本年度は研究基盤の強化のため、Shewanella属細菌と近縁の大腸菌Escherichia coliにおいて、温度と圧力が細胞膜物性にどのような影響を及ぼすのかを調べることとした。大腸菌は多価不飽和脂肪酸を持たないため、比較対照の1つとして有用である。 37 ℃で培養した大腸菌を蛍光プローブTMA-DPHでラベルし、15 ℃と37 ℃の温度条件、および0.1~100 MPaの圧力条件で高圧時間分解蛍光偏光解消測定を実施した。その結果、0.1 MPa(大気圧下)における膜の秩序因子Sは、37℃で0.78だったのに対し15℃では0.88に上昇した。このことは、低温条件が大腸菌細胞膜を秩序だった構造に変化させることを示している。一方、50~100 MPaの高圧は膜のSをさらに上昇させ、37℃では0.86、15℃では0.95という値を示した。すなわち、低温と高圧は相加的に膜の秩序を増大させると言える。一方、脂質アシル鎖の回転拡散係数Dwの変化はSの変化と鏡像対称的であり、膜秩序が増大するとDwは低下することがわかった。興味深いことに、SやDwの圧力依存性は、人工脂質であるパルミトイルオレイルホスファチジルコリン(POPC)膜が液晶相にあるときと類似していた。大腸菌はホスファチジルコリンを持たないが、とりわけ膜構造変化の圧力依存性という点で人工膜と類似の応答性を示したことは興味深い。以上の研究成果はHigh Pressure Research誌に受理され、現在印刷中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は海洋の様々な深度から得られたShewanella属の好圧性細菌について、膜の特性と多価不飽和脂肪酸の役割を解明することを目的としている。本年度得られた大腸菌Escherichia coliにおける膜物性の温度・圧力依存性は、多価不飽和脂肪酸を含まない比較対照膜として有用な情報をもたらす。さらに、液晶相にある限り人工脂質であるPOPC膜の圧力依存性が大腸菌膜と類似した挙動を示した点は興味深い。すなわち、組成の複雑な生細胞の膜を解析するに当たって、単純な人工膜の実験系で得られた知見がある程度活用できるのである。研究成果は既にHigh Pressure Research誌で論文公表に至っており、また英文総説をBiophysical Chemistry誌に、和文総説も3報掲載予定であるため、本年度はおおむね順当な達成度にあると評価している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は実際に深海底から単離されたShewanella属細菌について、様々な温度と圧力条件下で培養試験を行い至適増殖条件を確定する。次に蛍光プローブTMA-DPHによる細胞膜ラベルが適切に行われることを蛍光顕微鏡下で確認する。そしてまず、Shewanella属細菌を大気圧下で培養し、温度と圧力を変化させ高圧時間分解蛍光偏光解消測定を実施する。これを前年度得られた大腸菌膜の物性と比較することで、多価不飽和脂肪酸の効果が理解される。次にShewanella属細菌を様々な圧力条件で培養し、同様に高圧時間分解蛍光偏光解消測定を実施する。これにより、Shewanella属細菌が培養時の圧力に応答し、いかに膜物性を変化させるのか、すなわち膜のリモデリングに対する示唆が得られるはずである。膜の脂肪酸組成についてはガスクロマトグラフィーによる解析を行い、膜物性とどのような相関を示すのか明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
|
Research Products
(5 results)