2012 Fiscal Year Research-status Report
酵母の新規イオン輸送体の解析とオルガネラ膜のイオン輸送体測定技術の基盤構築
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24580135
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
浜本 晋 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10533812)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | イオンチャネル / 液胞 / オルガネラ膜 |
Research Abstract |
本研究では、酵母の巨大化法と細胞内小器官パッチクランプ法の併用により、酵母液胞膜に局在するCa2+チャネルYVC1の機能の解明を行う。さらに、yvc1欠損株の液胞膜から見出された新規陰イオン輸送体の解析と遺伝子の同定行う。YVC1は、動物において痛みや熱などの刺激に応答するTRPチャネルのホモログチャネルであり、TRPチャネルの分子メカニズムを解明するための重要な研究対象である。①YVC1のパッチクランプ解析により、還元剤によってYVC1が大きな活性を示すことを見出した。さらに、S-S結合を形成するシステイン残基をセリンに置換した変異チャネルを作成して還元剤の影響を検討した。その結果、C末端領域に存在するシステイン残基を置換した変異チャネルでは還元剤による活性化能が消失していた。以上より、C末端領域のシステイン残基が還元剤による活性化に関与していることを明らかにした。yvc1欠損株の液胞膜を用いたパッチクランプ解析により、硝酸イオンを選択的に透過する輸送体の存在が示唆された。本輸送体の同定のため、候補輸送体遺伝子の欠損株を作成してパッチクランプ解析を行った。その結果、yhl008c欠損株では硝酸イオンの透過活性が消失したことからYHL008cが酵母液胞膜における主要な陰イオン輸送体であることが示唆された。②パッチクランプ実験に用いる巨大化酵母に輸送体タンパク質を高発現させるために、酵母の巨大化操作によって輸送体タンパク質遺伝子の発現が誘導される発現系の構築をめざしている。DNAマイクロアレイ解析により、巨大化操作によって遺伝子発現量が5倍以上に上昇する遺伝子を5つ検出した。これらの候補遺伝子のプロモーター領域をクローニングしたプラスミドベクターを構築する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年の研究により、細胞質のカルシウムによるYVC1の活性化と液胞内のカルシウムによるYVC1の抑制機構を明らかにした。さらに、C末端領域の細胞質に露出した領域が還元剤によるYVC1の活性化に重要な働きを担っていることを明らかにした。また、小胞体(ER)の中に正しくフォールディングされなかった異常タンパク質が蓄積するERストレスの誘導剤であるツニカマイシンとカルシウムキレート剤であるBAPTAを含む培地で野生型酵母とyvc1欠損酵母を培養することにより、YVC1の生理的役割を検討したところ、野生型酵母は正常に生育したが、yvc1欠損酵母の増殖は著しく阻害された。これらより、YVC1が液胞内のカルシウムを細胞質に放出することにより、ERストレスを緩和することが示唆された。 yvc1欠損株を用いた電気生理学的解析により見出された新規陰イオン輸送体の同定のため、4つの候補遺伝子をそれぞれ破壊した変異酵母を作成してパッチクランプ解析を行ったところyhl008c/yvc1二重変異株ではyvc1欠損株で見られた硝酸イオン選択性電流が消失したことからyhl008cが酵母液胞膜における主要な陰イオン輸送体であることが示唆された。植物細胞や動物細胞のオルガネラ膜には多様な陰イオン輸送体が局在しているが、オルガネラ膜が小さいためパッチクランプ解析が行えず、輸送体の分子機構や生理的役割の解明が滞っている。これらの陰イオン輸送体をyhl008c/yvc1二重変異株の液胞膜に導入発現させることにより、これまで機能未知となっていた輸送体の発現解析が可能となる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究により、YVC1は液胞からカルシウムを放出することにより小胞体(ER)ストレスを軽減することを明らかにした。また、他の研究グループによりYVC1が機械刺激受容性チャネル活性を示し、さらに高浸透圧ストレスに晒された際に液胞からカルシウムを放出することが報告されている。しかし、高浸透圧環境では液胞からの脱水により、膜への張力が減少するため機械刺激によるチャネルの開口は起こらないことが推測される。そのため、高浸透圧環境でYVC1チャネルを活性化させる未知の活性化因子の存在が推測される。今後は高浸透圧下でYVC1チャネルを活性化させる因子の同定を行う。本実験のため、既に酵母の遺伝子破壊株コレクションを入手済みであり、速やかにスクリーニング実験を開始する予定である。 酵母の巨大化処理によって誘導される発現系の構築のため、DNAマイクロアレイ解析によって確認された候補遺伝子のプロモーター領域をクローニングした発現ベクターを構築し、リアルタイムPCRを用いた発現解析を行い、巨大化処理誘導性プロモーターを決定する。 酵母液胞膜の新規陰イオン輸送体の同定と遺伝子破壊株の作成により、植物細胞や動物細胞のオルガネラ膜に局在する陰イオン輸送体の発現解析系として使用することが可能になった。平成25年度では、モデル植物であるシロイヌナズナのオルガネラ膜に局在することが知られているが、これまで機能解析が困難であった陰イオン輸送体を導入発現して機能解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成25年度請求額とあわせ、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。 電気生理学実験によるチャネル活性の測定を予定しているため、ガラス器具、プラスチック器具、電子部品を消耗品として購入する。電気生理学的実験に用いる巨大化酵母の調製などに必要な培地、酵素試薬、化学薬品などの消耗品を購入する。巨大化操作誘導性プロモーターの解析のためリアルタイムPCRなどの遺伝子工学実験用の試薬を購入する。成果発表となる国際誌への論文投稿をめざし、英文校正代と論文投稿料を計上した。国内の学会と国際学会に積極的に参加し、本研究の成果を発表するために出張費を計上する。
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Research Products
(9 results)