2012 Fiscal Year Research-status Report
初期分泌経路におけるカルシウム振動シグナル変換機構の解析
Project/Area Number |
24580138
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
柴田 秀樹 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (30314470)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | シグナル伝達 / カルシウム結合タンパク質 / COPII小胞 / 小胞体 / アネキシン |
Research Abstract |
本研究では、高機能な分泌タンパク質の大量発現系の構築を最終目標とし、哺乳類細胞のカルシウム振動シグナルに応答して初期分泌経路に動員されるカルシウム結合タンパク質の生理機能の解明を目指している。研究実施計画に沿い以下の実験を行った。 1) アネキシンA11は、小胞体の輸送小胞COPIIの出芽領域(endoplasmic reticulum exit site, ERES)に動員されるカルシウム依存性リン脂質結合タンパク質であるが、種々のリン脂質に対する結合特異性は不明であった。そこで、大腸菌にて発現、精製した組換体アネキシンA11と各種脂質がブロットされた膜を用いて、カルシウム存在下でアネキシンA11の脂質結合特異性を検討した。その結果、ERESに多く含まれるとの報告があるホスファチジン酸との結合が検出された。 2) Sec31Aは、小胞体からゴルジ体への物質輸送を担う輸送小胞COPIIの外皮を構成するタンパク質であり、カルシウム結合タンパク質ALG-2とカルシウム依存的に結合する。よって、カルシウム振動を感知したALG-2がSec31Aにカルシウム振動シグナルを伝達していることが考えられる。そこで、カルシウム振動刺激後のSec31Aの動態を追跡する目的で、Sec31Aを免疫沈降可能な抗体の取得を試みた。具体的には、Sec31Aのカルボキシル末端領域とglutathione-S-transferase (GST)の融合タンパク質を抗原としてウサギを免疫し抗血清を得、抗原カラムにより精製した。精製抗体は、ウェスタンブロット及び間接蛍光抗体法には使用可能であったが、免疫沈降の効率が低く、免疫沈降されたSec31Aの翻訳後修飾などを定量化するには不向きであった。そこで、タグを融合させたSec31Aを恒常発現する細胞を用いる実験系に切りかえ、カルシウム動員刺激の条件検討をすすめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アネキシンファミリーは、4回(アネキシンA6は、8回)のカルシウム/リン脂質結合領域の繰り返しから成るアネキシンリピートをもつタンパク質であるが、アネキシンA11の特徴はアミノ末端にグリシンやプロリン、チロシンに富む領域を有することである。この領域は大腸菌で使用頻度の低いコドンを多く含むために、大腸菌内で安定なアネキシンA11を大量に発現することは難しいと考えられた。実際に、タンパク質の大量発現に汎用されるBL21(DE3)株では、その発現量は少なく可溶性画分への回収も困難であった。しかしながら、大腸菌で使用頻度の低いコドンのtRNAを補充したRosetta株を導入することで、機能性タンパク質の大量精製が可能となり、順調に実験をすすめることができた。一方で、ウサギを免疫し抗Sec31Aポリクローナル抗体を取得したが、免疫沈降実験には不向きであった。そこで、すでに樹立済みのGFPを融合させたSec31A(Sec31A-GFP)を恒常発現する細胞を用いて解析をすすめた。まず、Sec31A-GFPの発現量を新しく取得した抗Sec31A抗体によるウェスタンブロットで解析したところ、Sec31A-GFPの発現量は内在性と同等であり、また内在性Sec31Aの減少が確認された。この結果は、Sec31Aの細胞内の発現量は一定量に調節されていることを示唆している。この恒常発現細胞を利用することで、内在性Sec31Aの動態に近い解析が可能と考えられる。現在、カルシウム濃度の変動を捉えるために、カルシウム濃度を感知する蛍光タンパク質を共発現させた細胞の取得を試みており、概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
組換体アネキシンA11がERESに比較的多いとされるリン脂質に特異的に結合する知見が得られたため、その生理的意義の解明をすすめる。具体的には、アネキシンA11の発現抑制をした細胞のERESの分布および、ERESに多く存在するリン脂質の分布を検討する。 最近、Sec31Aがカゼインキナーゼ2によってリン酸化され、リン酸化を受けない変異体Sec31AはERESに安定に存在するとの報告がされた。一方で、申請者らは、ALG-2およびアネキシンA11の発現抑制細胞では、Sec31AのERESに安定に存在する割合が減少することを見出している。カルシウムシグナルに応答したこれらカルシウム結合タンパク質のSec31Aへの結合とSec31Aのリン酸化の関連は明らかではないが、カルシウム動員刺激によって、リン酸化状態が変化している可能性が考えられる。そこで、まず、カルシウム濃度変化を検出する蛍光タンパク質を用いてカルシウム動員刺激の条件を検討し、次にカルシウム濃度変化とSec31AのERESにおける存在量の相関を生細胞イメージング技術により計測する。さらに、ERESにおけるSec31Aの存在量の変化とリン酸化の関連についても検討を加える。 また、アネキシンA11がERES膜に動員されることで、ALG-2を介してSec31Aを膜画分に安定化する可能性について、リポソームと組換えタンパク質を用いた試験管内実験系により明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
GFPを融合させたSec31A(Sec31A-GFP)を恒常的に発現する細胞を用いて、カルシウム動員刺激時のSec31A-GFPの動態を生細胞観察したところ、カルシウム動員刺激後にERESにおけるSec31A-GFPの蛍光シグナル強度が変動することを見出した。この現象の分子機構の解明は新たな課題であり、その解析のために細胞培養用試薬、ガラス器具、プラスチック器具および農学部共通設備である共焦点レーザー顕微鏡の使用料に研究費を使用する。 また、様々なリン脂質をブロットした膜を用いた解析から、組換体アネキシンA11が複数の酸性リン脂質を認識する可能性が見出された。より生理的条件下でこれらのリン脂質との結合性を検討するために、複数のリン脂質を生体内に近い様々な割合で混合したリポソームを作製しアネキシンA11との結合を詳細に検討する。そのために、各種リン脂質などの生化学用試薬、微生物培養用試薬、分子生物学用試薬に研究費を使用する。
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