2013 Fiscal Year Research-status Report
標識化合物を用いたダニ類由来脂肪族エステルの代謝機構の解明
Project/Area Number |
24580167
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Research Institution | Kyoto Gakuen University |
Principal Investigator |
清水 伸泰 京都学園大学, バイオ環境学部, 准教授 (30434658)
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Keywords | 生合成 / 脂肪族ギ酸エステル / コナダニ / 脂質 / 代謝機構 |
Research Abstract |
本研究では、コナダニ類の分泌成分である炭素数17の脂肪族化合物に注目して、特に天然物としては珍しい2種の脂肪族ギ酸エステルの生合成機構の解明を目指して研究を進めている。フェロモン機能あるいは抗菌活性など生物活性は未解明であるが、これまで脂肪族ギ酸エステルの生合成に関する報告例は無く、生成過程におけるギ酸カルボニル炭素の由来については生合成機構を解明する上で重要な鍵となる。 1.摂食による同位体標識化合物の取り込み実験 ダニに同位体標識[1-13C]-酢酸ナトリウムを一週間給餌した後、分泌化合物のGC-MS分析を行うことで、ラベル体の取り込みを確認した。2種の脂肪族ギ酸エステルを抽出し、カラムクロマトグラフィーでそれぞれを単離した。また取り込み実験を行ったダニから別途、脂質を抽出し、加水分解とエステル化反応を行って脂肪酸エステルに誘導した。そこからオレイン酸メチルとリノール酸メチルを単離した。 2.ラベル化ギ酸エステルの標識炭素の解析 2種の脂肪族ギ酸エステルと同様に、オレイン酸メチルとリノール酸メチルの13C NMRスペクトルをそれぞれ測定し、同位体標識された炭素原子を全て帰属した。これらのデータから、2種のギ酸エステルはリノール酸とオレイン酸が前駆体となっていることが判明した。また、ギ酸カルボニル炭素と対応する脂肪酸のカルボニル炭素が共に標識されていたことから、脂肪酸がアルデヒドに還元された後、減炭反応を伴わず1段階で酸化的にギ酸エステルに誘導されていることが示唆された。この生成機構にはこれまで報告例のないBaeyer Villiger monooxygenaseが関与していると推測できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度に予定していた同位体標識化合物の取り込み実験が順調に実施でき、その結果、2種のギ酸エステルの前駆体はリノール酸とオレイン酸であることがde novo合成の観点から直接的に証明できた。また13C NMRスペクトルの解析により、ギ酸エステルおよび脂肪酸のカルボニル炭素シグナルが全て同位体標識されていたことから、変換反応にはこれまで例のないBaeyer-Villiger酸化が関与していると仮説を立てた。脂肪族アルデヒドからギ酸エステルに誘導する酵素は知られていないため詳細な検証が必要であるが、現時点では微生物のみで報告例のある酵素Baeyer Villiger monooxygenaseとは全く異なる新規タンパク質が本変換反応に関与していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昆虫で報告されている炭化水素の生合成機構は、まず前駆脂肪酸がアルデヒドに誘導され、酸素分子とシトクロムP450が作用し、脱炭酸を伴って起こると報告されている。コナダニ類は特有の炭化水素を分泌する種が多いにもかかわらず生合成研究は行われていないため、昆虫とは異なる生成機構を有する可能性がある。また本研究で注目するギ酸エステルもまたアルデヒドが前駆体と推定している。そこで、炭化水素とギ酸エステルの生合成機構を解明するため、同位体標識したアルデヒドを合成し、まずはダニから調製した粗酵素を用いて変換条件を検討する。変換条件が確立でき次第、それぞれの反応に関わる酵素の精製を進め、同酵素のアミノ酸配列を決定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
購入予定だった各種クロマトグラフィー用カラム(GC-MS、HPLCなど)および比較的高価な分析用試薬類は、所属機関の公費で賄えたため、必要経費を次年度使用額として繰り越した。 次年度の研究費の使用計画としては、国内学会出張費、調査・研究旅費、投稿論文の英文校正費と論文投稿費および印刷費として使用する。残りの経費を消耗品に充てる。試薬消耗品として安定同位体標識試薬を中心に、合成・精製・分析用試薬類など、器具消耗品としてピペット類、フラスコ類、マイクロシリンジ、サンプルチューブ、動物飼育に必要な培地材料や飼育容器などの購入を見込む。
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