2013 Fiscal Year Research-status Report
琉球列島に分布する有用樹木の繁殖資源の配分と安定同位体による豊凶メカニズムの解明
Project/Area Number |
24580224
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
谷口 真吾 琉球大学, 農学部, 教授 (80444909)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
諏訪 竜一 琉球大学, 農学部, 准教授 (30560536)
松本 一穂 琉球大学, 農学部, 准教授 (20528707)
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Keywords | 開花結実 / 繁殖資源 / 豊凶周期 / 安定同位体 / 資源配分 / 種子生産 / 繁殖器官 / 琉球島嶼 |
Research Abstract |
結実量の違いに伴う繁殖資源の配分特性を解明するため、リュウキュウコクタンの結実量が豊作であった2010年の果実生産量に比べて果実の乾重量で約4倍少ない並昨であった平成25年(2013年)における繁殖枝(枝直径:3~5cm)の基部に環状剥皮(剥皮と無剥皮)と摘葉(0%、葉数の50%、葉面積の50%、100%)を組み合わせた8水準の操作実験区を4月下旬に設定した。当年葉で同化された光合成産物の果実への転流経路を検証するため、果実の肥大成長がピークとなる7月中旬、無剥皮区と剥皮区の0%摘葉区に安定同位体13CO2を48時間発生させるトレース実験を行い、当年枝+2年枝における繁殖モジュール間での光合成産物の転流を追跡した。さらに、葉、枝、果実の可溶性全糖とデンプンを定量した。 その結果、豊作であった2010年は無剥皮区、剥皮区ともに100%摘葉区の果実に高濃度の13Cが検出されたが、並昨であった2013年における果実の13C濃度は自然同位体とほぼ同値であった。これは、2010年は豊作年で果実のシンク能が高く、無剥皮区、剥皮区ともに13C処理を実施した0%摘葉区から100%摘葉区への光合成産物の転流が認められたが、並作の2013年は果実生産量が少なかったことで果実のシンク能が低く、無剥皮区、剥皮区ともに100%摘葉区への他モジュールからの光合成産物の転流が認められなかったものと推察された。光合成産物の転流が認められなかった2013年の成熟時の果実サイズは2010年と差がなかったが、この原因は100%摘葉区では枝に蓄積された前年の貯蔵デンプンが果実成熟に使われたものと考えられる。つまり、常緑広葉樹の場合、果実のシンク能の高い豊作年では、当年の光合成産物が主に利用されて果実が成熟するが、豊作年より結実量が劣り果実のシンク能が低い並作年では、枝内の可溶性糖やデンプンなど貯蔵性の炭水化物が使われて果実が成熟する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、常緑広葉樹における繁殖資源の配分特性を検証し、琉球列島に分布する有用樹木の果実豊凶の発生メカニズムを解明することを研究の目的としている。 本研究課題の2年目となる平成25年度の主要成果は、研究対象木であるリュウキュウコクタンの豊作年においては、果実の生産量が多いことにより100%摘葉した繁殖モジュールの果実によるシンク能が高くなり、転流の経路を追跡する炭素安定同位体13Cのトレース実験の結果、他の繁殖モジュールで生産された光合成産物の転流が定量的に確認された。このことに加えて、並作年では逆に果実の生産量が少ないことで果実のシンク能が低くなり、100%摘葉した繁殖モジュールには他からの光合成産物の転流が認められず、前年に蓄積された貯蔵性デンプンを果実生産に使用していることが確認された。さらに、環状剥皮+100%摘葉区では無処理区と同等の花生産、果実生産があり、成熟した果実サイズに差異がない現象を確認した。葉のない繁殖モジュールの成熟果実のサイズを葉のある繁殖モジュールでの果実と同様のサイズに成熟させた資源は、葉のない繁殖モジュールに蓄積された貯蔵デンプンによることが実証された。このことは、常緑広葉樹の果実生産の資源と当年葉の光合成産物と前年の貯蔵性炭水化物の利用形態が果実の結実量の違により異なる可能性を示唆する成果であると評価している。 本研究課題の最終年である平成26年度は、リュウキュウコクタンを対象に1年目、2年目と同様の追試験による再現実験を行い、繁殖枝と非繁殖枝の貯蔵デンプン量や光合成産物の転流等、生理的なメカニズムからの繁殖資源の配分特性を把握する。これらの成果は、豊凶現象の発生に対する至近要因ならびに究極要因のこれまでの諸仮説の検証とともに、新たな解釈論議の展開によって、常緑広葉樹の豊凶現象の発生メカニズムを解明する基礎的な理論構築につながると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
樹木の光合成器官(ソース)で得られた光合成産物を花芽や果実などの繁殖器官(シンク)に資源輸送するしくみを解明することは有意義であり、本課題の研究成果は、常緑広葉樹における繁殖資源の配分特性の検証により、果実豊凶の発生メカニズムが説明できるものと考えている。本研究課題の最終年である平成26年度の研究推進方策は、リュウキュウコクタンを供試し、①繁殖枝、対照として非繁殖枝別に光合成同化産物(貯蔵デンプン量)の時期別変動を糖分析によって定量化する。②同時に、当年葉で同化された光合成産物の果実への転流経路を平成24年、25年に実施した安定同位体13C トレース実験で追跡する。その際、同時につぼみ数や花数、幼果実数、成熟果実数と果実の重量を計測する。これらの結果から、開花、結実、果実生産に必要な繁殖資源の配分量を推定し、繁殖資源の配分収支から果実豊凶の発生メカニズムを論考する。本研究課題では、琉球列島に分布する有用樹木のフクギ、テリハボクも研究対象木として供試してきたが、両樹種とも熱帯域起源の外来種であり、熱帯域樹木の繁殖特性である年間に複数回の開花結実があること、他にも環状剥皮処理により繁殖モジュールの樹勢が著しく低下する現象が新たに判明し、研究開始から2年目の段階で本研究課題の供試材料としては繁殖特性上、十分でないと判断した。加えて2樹種に対する操作実験の結果、両種は繁殖モジュール内で生産される光合成産物をモジュール内で優先的に消費する傾向がきわめて強いことも新たに判明し、さらに摘葉あるいは剥皮処理によって正常な結実を著しく阻害している可能性が示唆された。このような理由から、本研究課題の供試木は亜熱帯域が原産であるリュウキュウコクタンのみに絞り、他の2樹種は供試しないことにした。最終年に向けて繁殖資源の配分特性を精度よく検証し、リュウキュウコクタンの果実豊凶の発生メカニズムを解明していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
安定同位体13Cを含む微細粉体のサンプル分析を専門の分析業者に依頼したが、分析単価が当初計画より低かったために、次年度に使用金額が繰り越すことになった。 今年度も安定同位体13Cを含む微細粉体のサンプル分析を予定している。残りは主に実験消耗品の購入に使用する計画である。
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