2013 Fiscal Year Research-status Report
樹木のみが獲得した多様な光合成制御の分子機構とその機能解析
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24580228
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
柴田 勝 山口大学, 教育学部, 准教授 (30300560)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野口 航 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80304004)
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Keywords | 色素 / 樹木 / キサントフィルサイクル |
Research Abstract |
樹木は、草本植物にはない多種多様な環境ストレスに対するマルチ分子機構が存在すると考えられているが、その詳細な研究はあまり行われていない。このため、樹木には草本植物とは明らかに異なる光合成の環境適応機構について、樹木特異的な環境応答(4種類の色素サイクルと1種類の光利用効率制御因子)について、個々の機能・生理を明らかにすると共にこれらを相互に関連付けを行いその生理的な機能について調べた。 本年度は、4種の色素サイクルの内、2種の色素サイクル【カロチノイドサイクル】,【緩慢なVioサイクル】について青森ヒバおよびチャノキについてクロロフィル蛍光や葉内代謝産物、色素類を中心に測定を行った。その結果、チャノキの遮光強度に依存したカロチノイド適応があり、カロチノイドサイクルが、針葉樹以外の温暖帯地域の樹木でも存在することが明らかとなった。さらに、【緩慢なVioサイクル】については、Vioサイクルの時間変化をクロロフィル蛍光パラメータNPQ,qEおよび色素変化について調べた。その結果、双方植物のホウレンソウでは、一般的に知られている蛍光のエネルギークエンチングqEに依存した色素の変化が見られたのに対して、チャノキで数分間のqEと色素変化が同時に起こるが、その後、草本植物には見られない暗中でのダイナミックな色素変化があった。その変化は、時間と共に振動しており、暗中での光に依存しない新たな色素変化を示すものであった。 さらに詳しい解析は、詳しい解析は次年度以降に行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
樹木が本来持ち合わせている環境適応機構の解明を行うために、樹木特異的な環境応答である色素変化について注目し、4種の色素サイクルを明らかにすることで樹木が生き残るために備えた特異的な環境適応機構を解き明かすことを目的とした。 本年度は、4種のサイクルのうち2種についてそのサイクルの機構やそれらが光合成のエネルギー利用効率に与える影響について調べた。その中で、クロロフィル蛍光の時間分解や短期・長期の蛍光特性と色素変化から、暗中においても樹木は明るい環境と同程度の色素変化を周期的な振動を示しながら行っていた。この、生理現象が、実際にどの程度、生育環境へのストレス耐性に寄与しているのかはわかっていない。次のステップとなる色素サイクルの応答性などについての結果は来年度行う予定であり、本年度における初期の目的の50%は達成できたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
樹木光合成の多様な制御機構の樹種間分布を調べるために亜寒帯~亜熱帯地域での樹木約100種、草本50種を対象として測定を行う。樹木特異的な色素応答・生育地域・気候・樹種間分布の相関図を作成して解析する。 ゲッケイジュ,モミ,キャラボク等の常緑樹を用いて「4種の特異的色素サイクル+1種の未知制御」5種の樹木特異的環境応答によるストレス耐性の定量化を行う。色素組成を調整した樹木の成熟葉に低温・乾燥ストレスなどを与え、光化学系の阻害および回復過程(光合成活性,光合成タンパク質の回復速度,光合成電子伝達系)を指標としてストレス耐性の評価を行う。スーパーコンプレックス、qL,NPQ,ФPSII,ETR,Fv/Fm, openФPSII,excessを求め、ストレス耐性の定量的評価を行い、解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今回の申請研究課題でターゲットとしている生理反応が、予想以上に複雑で今まで全く報告されていない樹木の応答として暗中での色素バイブレーションがあり、全体計画に影響が出ない様に新たな実験を組み込んだ。そのため、実験の順番が前後し、繰越金が発生したが、来年度に予定の実験を行うことから、その分を使用予定としている。 本年度は、昨年度のデータを基に樹木特異的な生理応答に基づいたストレス耐性能の評価を行うと共に、特異的応答の分子機構について解析した。 このために、試料の調整・調達の旅費および消耗品について経費を使用している。ただし、一部、予想外の結果が出ていることから、初期の予定通り実験の順番を変更し、来年度と本年度を合わせることで、実験を調整した。
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