2013 Fiscal Year Research-status Report
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24580237
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Research Institution | Forest Economic Research Institute |
Principal Investigator |
大塚 生美 (財)林業経済研究所, その他部局等, 研究員 (00470112)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
餅田 治之 (財)林業経済研究所, その他部局等, 名誉教授 (80282317)
堀 靖人 独立行政法人森林総合研究所, その他部局等, 研究員 (80353845)
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Keywords | 森林経営 / 森林信託 / 森林投資 / 森林法律 / 林業補助金 / 林業税制 / 機関投資家 / 世代間衡平 |
Research Abstract |
近年,我が国では,長期にわたる立木価格の低迷で,所有者の森林経営からの撤退が顕在化している。一方で,国家財政が逼迫する中,森林整備や再造林の費用負担の在り方やその担い手について,国民共通の理解が求められている。そうした中,今日では世界の森林経営が第三者に経営信託されている実態がある。そこで,本研究では,主要国の森林経営信託の事例について信託法理等を重ねて類型化すること,育林投資について,誰が,どのような資金で,どのように実行しているかを明らかにすること,森林財産の性格分析を行うこと,その延長上に我が国における森林経営の信託化の可能性を考えることを目的とした。 本研究課題の先行研究にみる到達点と課題の現状についてみると,外国資本による森林取得,森林・林業関連法制度の改正,海外における機関投資家による森林投資の活発化等を契機として,森林投資や森林信託研究が再燃しているものの,森林科学の専門領域においても実態把握と仮説の段階にあり,まだ充分にその性格の検証がなされていない。しかし,地球規模の環境問題への対応,我が国における縮小社会段階への移行や財政事情を前に,森林整備の担い手と費用負担のあり方は,森林経営に内在する公共的性格と私的性格を紐解く重要な課題である。 本研究期間は3ヶ年とし,課題を明らかにする上で,(1)関連文献収集整理,周辺論文レビュー,(2)欧米日の比較による日本の特殊性の抽出,(3)我が国における経営信託化の可能性の検討,の3つの枠組みを設定した。初年度は,研究分担者・連携者と,本研究課題に関する日本の到達点を現地調査ならびに信託会計の勉強会の開催によって確認するとともに,海外では,アメリカ北西部地域の調査を実施した。当年度は,(1)初年度の調査の整理・分析,(2)最新の資料・論文等の入手・分析,(3)欧州の動きに関する勉強会を開催し,欧米日の違いと共通性をメンバーで共有した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は,研究メンバーが集まり,まず,本研究課題に関する日本と機関投資家による森林投資や森林投資信託が活発化する契機となったアメリカを対象として,その比較分析を行った。国内の調査では,信託的な動きをしている事業体や,新たな育林経営を展開している事業体を選定し,主に,①信託や新たな長期施業受委託に関する所有者との契約内容,②育林技術革新とその経営上の意味,③計画的・持続的生産を可能にする上での鍵,④経営安定化のために最も重要だと思われること,アメリカの調査では,①近年の森林管理・造林の政策・制度,②税の優遇措置や助成制度,③人工林経営の内部収益率,④社会経済の指標となる統計資料など関連情報を収集した。その上で,森林組合信託制度に詳しい会計士を招き信託会計について勉強会を実施した。以上から,初年度は,国内の森林信託は財産信託の性格を持つこと,アメリカの信託は,金融市場における投資の性格を持つ信託であることを明らかにした。 当年度は,これまで,アメリカ・ニュージーランドで顕著に展開していた森林投資信託が急速に世界で拡大していることを踏まえ, ①これまでの現地調査,既入手資料や最新の資料・論文等の整理・分析,②日本における事例調査の継続,③欧州の動きに関する勉強会を開催し,欧米日の動向から,各国の相違性と共通性をメンバーで共有した。 現在の到達点として,①持続可能な森林経営に向け,公的セクターや民間セクターのいずれも世界の育林経営を見据えた育林の技術革新が生起していること,②一方で,施業規制等育林経営の法制度上の課題と改善方向が明らかになってきたこと,③信託の技術面では,所有形態,経営形態の違いが分類に影響していたが,持続可能な林業経営では形態の違いはさして問題にならないこと等,日本と世界の動向には,共通項が見いだせ,信託の条件が浮き彫りになりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで,機関投資家による森林投資は,アメリカ,ニュージーランドにおいて高い成果をあげている一方で,小規模森林所有や公有林を中心とした所有形態から成る欧州での展開は困難とされてきた。だが,当研究初年度に公表されたFAOのレポートでは,その困難とされてきた欧州においても機関投資家による森林投資が拡大傾向にあるという。さらに,新興国の今後の動きにも注目している。 本研究課題では,欧米日比較によって,「信託」というキーワードに惹きつけて日本における世代間衡平に寄与する森林経営を検討することが目的である。当初,2年目に海外での本調査を予定していたが,機関投資家による育林投資は,非常に早いスピードで世界的に展開したことから,2年目は,初年度に実施した調査結果や新たな情報の分析を掘り下げ,欧米日の比較から,各国独自の信託的取組における共通性と相違性を仮定した。欧州では,木材流通の中間セクターを森林組合が担うことが特徴的で,いわば財産信託に相応する。他方,アメリカでは,機関投資家による投資信託の持続性が他の所有形態よりも高いことが確認された。そこで,最終年度は,その仮定の検証を目的とした欧米を中心とする現地調査を実施する。訪問国は,森林組合型のドイツ・フィンランドに加え,機関投資家の育林投資が活発なハンガリー,ならびに,初年度調査を実施したアメリカ北西部とは,資源,所有形態を異にするアメリカ南部地域(アラバマ州,ジョージア州)を予定している。国別調査内容は,平成26年3月に開催した研究チームによる研究会において確認されている。 以上から,最終年度は,海外調査後,3回程度の研究会を開催し,日本における森林経営の世代間衡平に寄与する信託形態・技術とその課題について纏める。また,平成27年3月には,関連学会でテーマ別セッション(公開研究会)を開催する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究メンバー(研究代表・分担・連携共)は,林政分野では各担当国の専門家であり,それなりに資料・知見の集積があったが,初年度の調査において,当研究の開始年から急速に世界における森林投資信託が拡大し,公表データも増えたことから予想以上の資料や知見を得ることになった。このため,当該年度は,それらの翻訳,分析を深め,その上で,海外調査を実施することとしたため,当該年度に予定していた海外調査を次年度予算として確保した。 主な研究費の使用は,①年3回程度の研究会への研究メンバー全員の旅費(30万円),③資料等購入(50万円),④欧米調査旅費(150万円),⑤CP解析ソフト等備品(10万円)を予定している。
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Research Products
(9 results)