2013 Fiscal Year Research-status Report
川上側林業ビジネスモデルの定式化とそれに向けた政策のあり方に関する研究
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24580238
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Research Institution | Forest Economic Research Institute |
Principal Investigator |
餅田 治之 (財)林業経済研究所, その他部局等, 名誉教授 (80282317)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大塚 生美 (財)林業経済研究所, その他部局等, 研究員 (00470112)
藤掛 一郎 宮崎大学, 農学部, 教授 (90243071)
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Keywords | 育林経営 / 育林コスト / 長期施業受委託 / ビジネス / 林地集積 / 地域森林管理 |
Research Abstract |
今日,わが国の木材市場では国産材が見直され,川下側の加工・流通システムについては,工場の大型化を背景として,外材と競争をしても引けを取らない生産・供給システムが形成されつつある。これに対して原木を供給する川上側は,森林資源の充実は目を見張るものがあるにもかかわらず,木材を供給する森林所有とそれに基づく経営は依然として小規模・分散的で非効率のまま変わりなく,素材生産も間伐を主体とした消極的な生産形態が維持されている。 さらに,立木価格の低迷から,森林所有者の家産保持的側面は打破できず,木材価格の乱高下に反応し,安定供給の障害になっている。こうした中,森林所有者が素材生産業者に立木を販売するにあたって,土地まで購入してもらう動きも加速している。近年では,素材生産事業体,商社・市場等の素材流通事業体,製材工場等の林産加工会社の中には,急速に林地を取得し集積している例が見られる。 以上にみるように,川下側のビジネスモデルと川上側の林業生産構造との乖離はますます大きくなり,両者の均衡ある発展は阻害されている。言い換えると,川下側の構造的変革により国産材に明るい光が見えるようになってきたのに対し,川上側は相変わらず未来への展望を提示することができないままなのである。 本研究は,大型化を背景に定着しつつある川下側のビジネスモデルに対して,川上側についてはどのようなビジネスモデルを描くことができるか,あるいは描くべきか,その姿を提示することを目的としている。研究期間内に解明する具体的課題である,(1)新流通・新生産で示された川下側林業ビジネスモデルの特徴と課題の解明,(2)川上側林業ビジネスモデルの定式化,(3)「森林・林業再生プラン」等川上側政策の評価と政策提案に向けて,現地調査と研究チームによる意見交換を重ねている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の成果報告研究会において課題に関する意見交換を行うともに,次年度にあたる当該年度の研究計画を確認し,調査地の選定を行った。2ヶ年を通じて,北海道,東北,関東,近畿,四国,中国,九州でモデルとなり得る事業体の調査を終了した。主なヒアリング項目は,①新たな育林技術の特徴と経営における意味,②立木価格を上昇させるための方策,③経営安定化のために最も重要だと思われること,等になる。調査には出来るだけメンバー全員が集まり,現地において課題に関わる意見交換を重ねた。併せて,関連情報を収集した。 調査では,①森林組合を核とした信託的長期施業受委託契約による森林管理の例,②素材生産事業体等林業を本業とするものが自ら林地を集積・集約化しながら育林経営に参入する例,③自社有林を持つ商社等森林所有者自らが育林コストの低下に取組む例,④公有林では分収契約の新たな精算方法で収入を確実にする例等が確認された。また,初年度は,森林信託に類似する事例があったことから,森林組合信託制度に詳しい会計士を招き,信託会計について勉強会を実施した。当該年度は,世界では木質バイオマス資源の造成を目的とした育林経営が急成長していたことから,当該事例に詳しい専門家を招き勉強会を開催した。 現在の到達点は,①植栽本数調整等育林経営の初期投資コストの低減,②林業経営を目的とする管理組織による経営受委託規模の拡大と受委託期間の長期化,③育林と販路をセットで考えることで立木の利用歩留まりを高めることができること等,林業ビジネスモデルの定式化の重要な要素が明らかになりつつある。他方,単年度会計による再造林費用を含む収支に基づく経営が重要課題として浮き彫りになってきたことから,定式化の検討では,新たな育林技術を採用した場合のリターンが期待できる林地の抽出や,林業会計のあり方も検討に含める必要があることを確認した段階にある。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,研究チームによる研究会を開催するとともに,当該年度に検討した川上ビジネスモデルの定式に関する仮説の検証を目的として,モデル地で補足調査を実施する。具体的には次のとおりである。 (1)平成26年2月,3月に研究メンバーが集まり,当該年度までの成果に関する意見交換を行い,川上ビジネスモデルの定式化の条件と課題の抽出,および最終年度の研究計画を確認し,メンバー各自の今後の成果目標を共有するとともに,補足調査の担当を決定した。現地調査は,典型的事例であった北海道,九州(宮崎県),関東(栃木県),東北(秋田・宮城県)で,当該年度に仮定した林業のビジネスモデルに関する評価を中心とする補足調査を実施する。 (2)併せて,関連資料収集・分析,研究チームが集まる3回程度の勉強会の開催,9~10月には勉強会を兼ねた中間報告会,平成27年3月には関連学会でのテーマ別セッションを予定している。 (3)川上ビジネスモデルの定式を仮定する上で販路が重要な要素であることは,研究の到達点の項でふれたとおりである。とくに,木質バイオマス利用は,今後,大きな要となることが予測される中,世界では木質バイオマス資源の造成を目的とする育林経営が急速に拡大しているが,日本では事例が無いため,海外調査を含めた情報収集を行う。 (4)以上の成果から,川上ビジネスモデルの定式を仮定する。併せて,その仮定を前提とした新たな育林技術による収支の見合う再造林(皆伐)可能な林地のマップを作成し,ビジネスモデルのシミュレーションを行う。その上で,今日の政策に対する評価と提言を整理する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究がスタートした平成24年度は,改正森林法(平成23年)の施行年とも重なり,多様な事例・事象が新たに展開し,申請時の計画を超える数の事例の情報を得ることができた。このため,①当該年度は,多くの事例収集を目的とし,現地調査は代表・分担・連携・協力研究者が,近隣の調査地を担当することで調査費用を縮減し,最終年度に定式化の評価を目的とした補足調査を実施するための予算として確保したこと,②併せて,当該年度に予定していた収支計算に基づく再造林(皆伐)適地の抽出作業も,事例数が多様化したため,定式化の条件がすべて整う最終年度に実施することとしたこと,③定式の条件には,今後の育林経営で重要要素となる木質バイオマス資源の造成を目的とした育林経営が,当研究が開始されて以降,世界で急速に拡大していることが確認できたが,日本には事例がないため,情報収集を目的とした海外調査費用を予定したことによる。 ①5ケ所の国内現地調査旅費(50万円),②年3回程度の勉強会を兼ねた打合せの講師謝金・旅費,研究メンバーの旅費(50万円),③海外調査旅費(50万円),④資料購入(70万円),④PCソフト等備品購入(10万円),⑤学会等(公開研究会)への参加(30万)を予定している。
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