2012 Fiscal Year Research-status Report
タイヘイヨウサケ属サクラマスの降海回遊期の若齢化とその要因の解明
Project/Area Number |
24580257
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Miyagi University of Education |
Principal Investigator |
棟方 有宗 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (10361213)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | サクラマス / 広瀬川 / 回遊 / 降河 / 遡上 / 気候変動 / masu salmon / migration |
Research Abstract |
(1)東北地方南部、宮城県広瀬川中流域における定点採集調査により、本来は1歳半の春に川から海へ降海するとされるサケ類であるサクラマスの稚魚が、本河川では半年早い0歳の秋(10~11月)にも降河行動を起こしていることが明らかとなった。また、これらの稚魚を研究室に移送し、Sea water Challenge testを行った結果、これらの稚魚は春に降河する稚魚と同様、海水適応脳が備わっていることも判明した。 (2)また6月、広瀬川の中流域においては、オホーツク海まで回遊するとされる降海群(体長約50~60cm)よりも小型のサクラマス(体長約25~45cm)が現れることが確認された。そこでこれらの小型のサクラマスの12個体を採捕して音波発信器(Vemco社、V6)を腹腔内装着し、移動を観察したところ、受信が確認された全実験魚が広瀬川を下流域から上流域に向けて遡上したことが明らかとなった。 以上の結果から、東北地方南部の広瀬川においては、(1)従来の降海期よりも半年早く川から海に降海する群、および従来よりも小型の体サイズで海から川に遡上すると考えられる群が見られることが明らかとなった。上記の2群の存在から、広瀬川のサクラマスの一部は、0歳の秋に川から海に降り、河口~海で約半年間を過ごし、1歳半となったタイミングで川に遡上する群が存在する可能性が考えられた。 サクラマスの近縁種であり、南~西日本に分布するサツキマスは、上記の広瀬川のサクラマスのように、やはり0歳の秋に川から海に降り、1歳半の春に川に遡上することが知られている。以上の結果から、広瀬川の一部のサクラマスの回遊パターンは、より南方に分布するサツキマス型に近づいている可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、東北地方南部の一部の河川において、サクラマスの降海年齢の若齢化と、降海期間の短縮が起こっているか否かを明らかにすることを目的としている。これはすなわち、サクラマスの生息域の南部に相当する広瀬川のサクラマスの降海パターンが、本種のより南方に分布する同属近縁種であるサツキマスの降海回遊パターンに近づいているか否かを明らかにすることである。 本年度は、宮城県広瀬川において、一部のサクラマスがサツキマスに類似する回遊生活史を示す可能性があることが判明した。すなわち、一部のサクラマスがサツキマス同様、0歳の秋に川から海に下ること、またこれらの魚が1歳半の春に降河するサクラマスと同様に海水適応能を備えていること、すなわち銀化変態を行っていることも明らかとなった。サクラマスが0歳の秋に銀化変態を行うことは、一部の養殖・研究施設における選抜育種によって確認されていたが、自然河川でこのような現象が確認されたことははじめてであり、意義深いと考えられる。また、本研究では、広瀬川のサクラマスの一部が従来よりも小型の体サイズで春に海から川に遡上していることが判明した。これは、これらのサクラマスの降海期間が従来知られている約1年間よりも短くなっている可能性を示唆する。 仮に今後の研究によって広瀬川のサクラマスの一部が0歳の秋に川から海に降河し、半年後の春に海から川に遡上していることが明らかとなれば、サクラマスの生息域の南部にあたる東北地方の南部の河川では本種の降海パターンが本種より南部に棲息するサツキマス型に変異していることを示唆しており、その要因の解析が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、本研究では広瀬川のサクラマスの一部が、0歳の秋に川から海に降り、半年後の翌年の春に海から川に遡上する可能性が示された。そこで今後は、これらの可能性をより明確にするための研究を行うことが必要である。 今後の本研究では、昨年度までの研究によって明らかになった広瀬川のサクラマスの回遊変異の研究を続けるために以下の調査・実験を行う。まず重要となるのが、0歳で降河行動を行った魚が、実際に海にまで降りたのか、あるいは河口付近で停滞するのかを明らかにすることであり、これは引き続き、音波発信器を装着した個体の追跡調査により明らかにする計画である。 また次に、春に海から川に遡上すると考えられる体長約25~45cmの魚の降海期間を明らかにする。これらの魚は、0歳の秋に川から海に降り、半年間の降海生活の後に遡上行動を起こした可能性が高いと考えられるが、別の可能性としては、従来の通り1歳半時に海に降り、1年間を海で過ごしたが、何らかの理由で成長が停滞した小型個体である可能性も考えられる。またそもそもこれらの魚が海に降りていない可能性も考えられる。これらの変異個体の降海の有無、降海のタイミング、降海期間については、耳石のストロンチウム含有量の解析により明らかにする計画である。 また、次に重要となるのが、これらサクラマスの回遊行動の変異に及ぼす環境要因が何であるかを明らかにすることである。本研究の結果は、サクラマスの一部の回遊行動が、より南方に分布するサツキマス型に近づいていることを示していることから、これは、東北地方南部の河川環境要因が温暖化しつつあることと関係する可能性が考えられる。今後は、水温や降雪、気圧といった環境要因をサツキマスの生息域である西南日本、今も1歳の春に降河行動が起こる北海道以北の河川と比較考察することで、サクラマスの回遊行動の変異の要因を考察する計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)サクラマスの稚魚が0歳の秋に川から海に降るか、あるいは海にまでは降らないか否かを、耳石中のストロンチウム含量解析により明らかにするための経費が必要である。また、サクラマスの稚魚の降海行動の様子を明らかにするため、稚魚の一部(約10個体程度)に音波式または電波式小型発信器を装着し、バイオテレメトリー実験を行う。また、稚魚の海水適応能と淡水―塩水間の移動の様子を明らかにするため、行動観察用の観察水槽を一基作成する。この行動観察水槽は、上層に淡水、下層に塩水を張り、稚魚の淡水―塩水間の移動を動画により記録するものである。 (2)東北地方の南部の河川において、サクラマスの稚魚の降海時期、降海期間の変異にいかなる外部環境要因が影響を及ぼしているかを明らかにするための、フィールド観察調査ならびに行動観察実験を行う。まず、広瀬川、西南日本のサツキマス、北海道以北のサクラマスの生息域において、広瀬川と同様に各時期に降海稚魚のサンプリング調査を行い、これらの河川の降河、遡上行動のタイミングを検討するとともに、採捕個体の体サイズ組成、年齢構成、銀化変態の有無等を形態、生理的に検証する。これらの採集のための用具と旅費、ホルモン測定のための消耗品費が必要である。 また、降河行動に及ぼす環境要因の影響を明らかにするため、実験室内に回流型の水槽を設置し、広瀬川で秋に0歳魚の降河個体を採捕し収容する。これらの水槽に河川内で起こると想定される水温変化や濁度の変化を再現し、いかなる環境要因がこれらの魚の降河行動の発現を誘起するかを観察する。なお、サクラマスにおける行動発現機構を多角的に検討するため、本種以外のタイヘイヨウサケ属を用いた行動実験も、オレゴン州立大学等において実施する計画である。 (3)さらに、以上の研究成果を公表するための学会参加費ならびに論文投稿料も必要である。
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