2012 Fiscal Year Research-status Report
価格を大きく左右するナマコ疣足(イボアシ)形質の選抜育種に関する研究
Project/Area Number |
24580280
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
奥村 誠一 北里大学, 水産学部, 准教授 (60224169)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ナマコ / 疣足 / 選抜育種 / DNAマーカー / マイクロサテライトDNA / 種苗生産 / 養殖 / 遺伝的集団構造 |
Research Abstract |
疣足形質は市場価格を大きく左右する有用形質である。疣足が多く長いものほど高値で取引される。したがって、本形質の選抜育種に期待が寄せられており、その遺伝学・生物学的特性を調べることは重要である。 本年度は、申請書に記載の通り、これまでに入手した標本・データも含めて、分析数を増加し、北海道から香川県に及ぶ国内10産地野生集団の遺伝的集団構造をマイクロサテライト(ms)DNAを指標として検討した。また更に長崎県産を加え、11産地における体重、疣足数および疣足長を測定し、集団間で比較検討した。 何れの産地もハーディー・ワインベルグの平衡状態にある集団であることが分かった。さらに、中立であるこれらのms座において、太平洋および日本海側毎に産地の緯度とアリル頻度との間に相関(地理的勾配、クライン)が見られた。このことは、本種が近隣へ分布を広げて段階的な生殖隔離を起こし、遺伝的に異なる集団となったことを強く示唆する。このような遺伝的背景のもと、平均疣足数と緯度との間にも有意な正の相関が見られ、北方産地の疣足数が多いという、これまで漠然としていた傾向をクライン現象として初めて明確にした。疣足形質と生息水温等の環境要因との関係は不明であるが、これらのことは、疣足数が中立変異である場合においても、msDNA変異と同様にクラインを形成し得たことを示唆する。以上の知見は、今年度行った詳細な集団構造解析をベースとして、疣足形質の変異を考察したのもであり、選抜育種する際の優良育種素材の探索に貢献し得るものである。 また、環境要因や個体サイズに起因した疣足形質の変化の有無を把握することは、実用化に対して重要である。本年度は、同一産卵群種苗を用いて異なる年齢群間で疣足数を比較した。その結果、大きな差は見られず、少なくとも同胞群内においては、個体サイズに関わらず、疣足数がほとんど変化しない可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
msDNAマーカーを用いた各産地野生集団における遺伝的集団構造解析、およびそれら集団の疣足形質の測定については、ほぼ予定通り順調に進行し、相応の結果を得たと言える。しかしながら、疣足形質の経時変化については、個体の飼育実験が必ずしも順調ではなかったため、同一産卵群内における年級群間で形質を比較して上記のような結果を得るに至った。この点については若干の遅れが見られており、上記のように判定した。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は、当初計画では、養殖場内での疣足形質の親子関係について、新たに種苗生産を行うことで実施する予定であった。実施予定場所だった北日本水産㈱の種苗生産施設は、東日本大震災の津波で壊滅したが、当初の予定では24年度中に復旧することになっていた。しかしながら、避けようのない諸事情により現時点では復旧が遅れている状況である。また、他のナマコ種苗生産施設も生産が軌道に乗っているわけではなく、新たに種苗を生産することで研究を実施するには、もう少し時間を要する。そこで、それまでの間、以下のことを実施する。 1.24年度に引き続いて、国内各地の野生集団におけるmsDNAを指標とした遺伝的集団構造の解析および疣足形質の検討を行い、選抜育種に対する優良育種素材の探索に資する。 2.24年度の研究において、これまでの見解を覆す可能性のある結果、即ち同胞群内においては、年齢や体重が増加しても疣足数はほとんど変化しない可能性が示された。このことは、本形質の選抜育種を実用化する際に極めて重要となる事象である。しかしながら、その真偽を検証するには更に詳細な検討が必要である。また、疣足が作られる発生機序等についても成長段階を追いながら詳細に検討する必要がある。そこで本研究では、疣足の外観的・組織学的な観察を詳細に行うことで、疣足の生物学的な特性を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(2 results)