2013 Fiscal Year Research-status Report
価格を大きく左右するナマコ疣足(イボアシ)形質の選抜育種に関する研究
Project/Area Number |
24580280
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
奥村 誠一 北里大学, 水産学部, 准教授 (60224169)
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Keywords | ナマコ / 疣足 / 選抜育種 / DNAマーカー / マイクロサテライトDNA / 種苗生産 / 養殖 / 遺伝的集団構造 |
Research Abstract |
交付申請書に記載のとおり、マナマコの疣足形質は市場価値を左右し、その数が多く長いものの経済価値が高い。したがって本形質の選抜育種に資するため、その生物学的特徴を調べることは重要である。 津波被害からの復旧が遅れているため、種苗生産施設での交配実験が困難であったことから、24年度の実施状況報告書に記載のとおり、1.本形質に対する優良育種素材の探索に資する野生集団の遺伝的集団構造の解析、および2.成長段階における疣足数の変化等、本形質の生物学的特徴の検討を行った。 1.昨年度入手した長崎県産も含めて検討したところ、産地の緯度が高くなるほど疣足数が多くなる結果(クライン)が得られていたが、今年度、各産地の遺伝的集団構造を調べるため、この長崎県産の標本を加えて、マイクロサテライト(ms)DNAのデータを増加したところ、これらのアリル頻度においてもクラインを示した。このことは、24年度の結果を強く支持するものであり、優良育種素材の探索に貢献するものである。 2.成長段階における疣足数・長の変化について、昨年度と異なる2産地の野生集団(体重80~250g)を用いて検討した。今年度は、疣足の形状を保ちつつ詳細に検討するため、麻酔を施し観察した。長さ2mm以下の極小の疣足(疣状の突起)では、体重の増加に伴い数も増加したが、4mmを超える疣足では、顕著な傾向は見られなかった。本結果について、昨年度の結果も含めて考察したところ、経済価値に関わる大きな疣足の数は、成長に伴い正比例して増えるとは考えにくく、その数は稚・幼ナマコ時代にほぼ決定されている可能性が考えられた。このことは、本形質を選抜育種する上で重要な情報である。組織学的な観察の結果、大きな疣足の中は空洞であり、その空洞は体腔に開口することがわかった。上記の極小疣状突起が通常の疣足と同じ構造であるか否か等、今後詳細に検討する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
成長段階における疣足数の変化等、本形質の生物学的な特徴に関する研究については、上述したように、昨年度まで不明確であった点がほぼ解決しつつあり、また、組織学的な検討も加えることができたことからも、相応の結果が得られたものと考えられる。しかしながら、各産地野生集団のms分析については、新たに得ることができた標本数が予定より少なく、不十分な点もあったことから、上記のように判定した。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度においても、前述したように種苗生産施設を用いた交配実験については充分に行えない可能性が高い。したがって、以下に示すように25年度からの研究を継続して行う。 1.国内各産地野生集団の疣足形質およびmsDNAを指標とした遺伝的集団構造の解析を行い、本形質に対する遺伝的特性の解明および優良育種素材の探索を行う。26年度は最終年度であるため、これまで入手・分析した標本のうち、分析が不充分であった部分について、個体数・および解析するms座数を増加するとともに、新規の産地(愛知県産については既に入手済み)についても分析を行い、研究を完成させる。 2.25年度において、経済価値に関わる比較的大きな疣足については、成長とともにその数が比例的に増加する形質ではない可能性が示唆されたが、このことについて、検討する産地等を増やして再現性を確認しつつ、結果を確実なものとする。また、体重の増加とともに数が増加することが示唆された上述の極小疣状突起が、通常の大きさの疣足と同様の構造を有するものであるか否か(通常の疣足と同じ組織であるか否か)について、上述した25年度の結果と照らし合わせつつ主に組織学的手法を用いて検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度直接経費のうちの約3分の1にあたる445,930円を26年度に持ち越すこととなった。これは、上述したように25年度において、入手できた野生集団の数が予定より少なく、msDNA分析に必要な試薬類の消費が少なかったことに起因する。その分、上記した疣足形質の生物学的特性について予定以上に実験を遂行したが、この実験に必要な経費は、msDNA分析よりも比較的少なかったことも理由の一つである。 上述したように、現段階で入手している新たな標本(愛知県産)、これまで入手した産地の増加分、および他の新規入手予定の標本のmsDNA分析に対して使用する予定である。また、疣足形質の生物学的特徴を調べるための組織標本作製に必要な試薬・器具類の購入にも使用する予定である。
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