2013 Fiscal Year Research-status Report
麻痺性貝毒生産渦鞭毛藻のオミクス統合解析による無毒化機構の解明
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24580295
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
長 由扶子 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (60323086)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
日出間 志寿 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (30241558)
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Keywords | オミクス統合解析 / サキシトキシン / 生合成遺伝子 / 渦鞭毛藻 / 麻痺性貝毒 / Alexandrium tamarense |
Research Abstract |
【1.麻痺性貝毒推定中間体解析】LC-MS MRMカラムスイッチング法により推定初期中間体を定量する方法を確立した。渦鞭毛藻A.tamarenseの細胞中に推定初期中間体は麻痺性貝毒総量の約15分の1程度含まれており、微量な既知類縁体と同程度であることが判明した。今後麻痺性貝毒の生合成の全容解明のためにはこのように微量な成分の解析が必要であることが示唆された。UPLC-ESI-Q-Tof MSにより有毒及び無毒の姉妹株を差分解析して、有毒株にのみ検出される微量成分のピークを見出した。その精密質量から導かれる分子式から既知麻痺性貝毒成分の還元体と推定し、標品を調製し、同定した。本成分は藍藻からの単離が報告されていたが、渦鞭毛藻からは初めての報告であった。本成分が特殊な毒組成ではない渦鞭毛藻から検出されたことから普遍性などに興味が持たれ、今後の展開が期待される成果であった。 【2.代謝阻害剤による毒生産制御】推定生合成酵素sxtBと相同性のあるシチジンデアミナーゼの阻害活性を有する化合物(Zebularine)で濃度依存的に増殖及び毒生産が抑制されることが示唆される結果が得られた。 【3.麻痺性貝毒3群一斉一細胞分析法の開発】麻痺性貝毒Cトキシン群及びゴニオトキシン(GTX)群の2群一斉分析で渦鞭毛藻A.tamarenseの1細胞抽出液よりC2及びGTX4の検出に成功した。本条件がA.tamarense以外の有毒種に応用できるかどうかを検討するため、低毒のGymnodinium catenatumの抽出液を予試験的に分析し、8個分の細胞抽出液からC1/C2と一致するピークが明瞭に得られた。さらに3群一斉分析条件を検討し、標品でC1/C2, GTX1-4, STXの分離する条件を見出した。本微量分析法により生合成系の全容解明がより容易になるものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
以下の理由で二項目について方針を変更したが他の項目については発展の期待できる成果が得られているため、やや遅れていると判断した。 【1.推定Sxt遺伝子解析及びリコンビナント蛋白の調製】当初クローニングを予定していた遺伝子sxtBから生じる酵素の触媒する反応で基質(ビスグアニジノケトン化合物)となる推定中間体が化学的に不安定であり、リコンビナント酵素が調製できても反応の検証が困難と予想されることがわかったため、sxtBのクローニングを行わなかった。 【2.網羅的タンパク発現量解析】有毒、無毒株のタンパク抽出液をiTRAQによる網羅的タンパク発現量解析に供することを予定したが、実験の遂行前に他の研究者に麻痺性貝毒生産藍藻の毒生産期と非生産期の比較実験の報告がなされ、本法によるサキシトキシン生合成タンパク同定の可能性が低かったため実施を見送った。 【3.中間体の同定と標識化合物調製】有毒、無毒株間で差のある微量な麻痺性貝毒類縁体をHILIC-ESI-Q-TofMS及び高感度蛍光検出器を用いたポストカラム蛍光化HPLCを用いて標品と比較することにより、その同定に成功した。さらに標品を用いて標識体を調製した。生合成に関与する化合物である可能性が示唆されたため、今後さらに変換実験により確認する。 【4.麻痺性貝毒3群一斉一細胞分析法の開発】麻痺性貝毒Cトキシン群、ゴニオトキシン群の2群一斉分析ではA.tamarenseの一細胞分析により本株の主成分であるC2及びGTX4の検出に成功した。3群一斉分析条件の検討ではneoSTX及びdcSTXはグラジエントによるベースラインの乱れの影響により検出困難であったが、標品のSTXは分離して検出可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
【1.推定中間体の変換実験】微量な麻痺性貝毒類縁体が有毒株において同定できたことから本化合物を基質として変換実験を実施する。培養液に添加、あるいはタンパク抽出液に添加、あるいはマイクロインジェクションにより細胞内に直接注入し、一定時間インキュベート後に麻痺性貝毒成分の生成を確認する。取り込み方法確立後、実験規模を拡大しLC-MSMS分析により確認する。 【2.他の麻痺性貝毒生産種における微量類縁体の探索】微量麻痺性貝毒類縁体が他の生産種にも存在するかどうかを分析し、その毒組成との関連を考察する。 【3.有毒、無毒株発現遺伝子の網羅的解析】網羅的タンパク発現解析に代わって、次世代シークエンサーによる網羅的遺伝子発現解析することにした。これまでの研究によりサキシトキシン生合成が日周性を示すことが示唆されており、遺伝子も時期特異的に発現していることが予想される。そこで予め有毒株の培養時期の異なる収穫細胞中のRNAを抽出し、既知推定生合成遺伝子のRT-PCRによって発現時期を特定する。特定した時期の細胞からRNAを抽出し、発現している遺伝子を網羅的に解析する。A.tamarenseのESTデータや藍藻の推定サキシトキシン生合成遺伝子と相同性のある遺伝子を探索する。同時に無毒株でも同様に収穫し、有毒株の発現遺伝子と比較する。差のある遺伝子断片が得られたら、その配列を元にプライマーを設計し完全長の配列をクローニングする。また長い配列でRT-PCRにより有毒、無毒株間での発現量の差や配列の相違を確認する。 【4.麻痺性貝一細胞毒量及び遺伝子の一斉分析】推定サキシトキシン生合成遺伝子sxtA4は培養株内で多くの変異がみつかっている。これらが細胞毎に異なるのか、毒量との関連があるのかを調べるため1個の細胞から毒量と遺伝子解析の両方を一斉に解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
基質として使用する計画であった化合物が化学的に不安定であることが判明し、交付申請時に予定していた遺伝子クローニングを実施しなかったこと及び他の研究者の報告でiTRAQによる網羅的タンパク発現解析では麻痺性貝毒生合成関連の目的酵素タンパク同定の可能性が低いことが予想され、別のアプローチに変更する必要が生じ次年度にまわすこととした。 【物品費】麻痺性貝毒及び中間体の定量分析にカラムやHPLC及びMSの部品、試薬類などの消耗品、渦鞭毛藻の維持、変換実験のための培養器具、試薬類が必要不可欠である。さらに分子生物学的研究用の試薬、受託合成プライマー、RNA及びゲノム抽出キットやチューブ類などの消耗品が必要である。【旅費】第28回海洋生物活性談話会(福岡)、The 16th International conference on Harmful Algae(ニュージーランド)、平成27年度日本水産学会春季大会などに成果発表及び情報収集のための参加予定として計上する。 【その他】塩基配列解析の受託費用、次世代シークエンサーによる網羅的遺伝子発現解析の受託費用及び投稿論文の英文校正費用として計上する。
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