2012 Fiscal Year Research-status Report
遺伝資源多様性維持の価値評価と保全メカニズムの解明
Project/Area Number |
24580311
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
齋藤 陽子 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 学術研究員 (30520796)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 遺伝資源多様性 / 多様性指標 / 小麦 / 表現型 |
Research Abstract |
本研究の目的は、栽培品種の画一化によって遺伝的多様性の喪失または遺伝資源プールの狭隘化が進展しつつあることに鑑み、遺伝的多様性を維持・拡大する意義について、品種改良の効率性・生産性に及ぼす影響から明らかにすることである。 1年目は、育種学や植物病理分野も含め、既存研究を整理するとともに、多様性指標の作成に着手することであった。遺伝的多様性については、生物多様性の一形態としてその重要性が指摘され、保全遺伝学分野において絶滅危惧種など、希少生物の保全を目的とした多くの事例が存在する。多くは昆虫、爬虫類、哺乳類などの動物を対象とし、限定された地域や特定の生息域を対象としたものが多いが、使われている指標については、本研究においても参考になると考えている。 研究の過程で、ジーンバンクやゲノム情報を利用したゲノム育種の最先端を説明するセミナーに参加する機会があり、植物の遺伝的多様性指標についても、意見交換することができた。その中で複数の研究者から、遺伝学や遺伝子工学が進んだ現在であっても、各品種の表現型が個体差を示す重要な手がかりであることに今後も変わりはない、といった意見があり、遺伝的多様性指標の作成に当たり、非常に有用な意見となった。そこで、本研究においても、各品種特性の表現型(収量性や稈長、出穂期、耐病性の強弱など)を用いて多様性指標作成に取り組むこととし、予備的分析を開始したところである。データは、ジーンバンクのものを分析中で、育種分野の専門家の意見を取り入れながら、遺伝的多様性を示すのに適切な指標について、試行錯誤している段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画において、1年目は多様性指標の作成とデータ収集、既存研究の整理を実施する予定であった。指標作成とデータ収集については、育種機関やジーンバンクを訪問し、育種関係者と議論することで、多くのヒントをえた。また、データについても、ジーンバンクや北海道遺伝資源センターの協力の下、吟味を重ねており、ほぼ順調に進展しているといえる。 既存研究の整理については、保全遺伝学や植物病理などを網羅的にサーベイしている。保全遺伝学は、おもに希少動物や絶滅危惧種を対象としており、栽培種を対象とする本研究とは必ずしもその目的や対処法で一致はしないが、指標作成の段階では非常に有意義であり、今後も、具体的な指標作成にあたり、参考にしていく予定である。また、指標作成のためのデータも入手しており、育種学やジーンバンクの関係者と意見交換しながら、指標作成に取り組んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の2年目である平成25年度は、昨年度から継続している遺伝資源多様性指標について、育種関係者とも吟味を重ね、同時に育種学関連の学会においてもその結果を発表し、様々な意見を反映し、より汎用性の高い指標としていきたい。 また、遺伝資源多様性指標を作成するとともに、わが国の植物遺伝資源が品種改良に果たした役割についても、順次評価していきたい。具体的には、生態地理学的に小麦遺伝資源に乏しいと考えられる北海道は、在来種の多様性が低いため積極的に海外や道外の遺伝資源を導入してきたと考えられる一方、府県では、相対的に多様性が高いことから、域外からの遺伝資源導入には積極的ではなかったと予想される。したがって、在来種と育成種の遺伝資源多様性を比較すれば、北海道は、在来種<育成種、となり府県は、在来種>育成種、となると予想でき、実際に指標を作成して確認する。このように、地域別に遺伝資源多様性を比較することで、各地域における遺伝資源の重要性を明らかにするとともに、海外の遺伝資源多様性とも比較することで、潜在的な遺伝資源プールの余地と、わが国が今後目指すべき遺伝資源アクセスへの課題を明らかにしていく。 さらに、時系列で遺伝資源多様性の各指標を評価することで、各年代において、人為的に選抜されてきた形質と、育種へ取り込むスピードなど、遺伝資源アクセスの重要性を実証的に明らかにしていく。こうした分析には、作成する多様性指標に加え、計量経済学的にアプローチしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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