2013 Fiscal Year Research-status Report
遺伝資源多様性維持の価値評価と保全メカニズムの解明
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24580311
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
齋藤 陽子 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 特任講師 (30520796)
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Keywords | 遺伝資源 / 小麦 / 探索モデル / 多様性 / 表現型 |
Research Abstract |
昨年度から継続していた小麦ジーンバンクデータの分析結果について、小麦育種関連の国際学会および国内の農業経済関連の学会にて報告した。その中で、とりわけ育種や遺伝資源管理の専門家から様々な意見をえることができた。報告内容とおもなコメントは以下の通りである。 1. ジーンバンクデータの収量性や稈長、耐病性といった表現型データを対象に、導入年別に4期に分けて整理し、各期別の分布を確率密度関数で推定した。 2. 短稈化による多収化を追求した1980年代から90年代は、ジーンバンクで保管される遺伝資源も短稈化していた。育種の基盤となる遺伝資源の充実が、新品種への半矮性遺伝子導入に貢献し、生産現場における多収化につながったといえる。 3. また収量性指標のひとつである穂長は長くなる傾向に、早生化の指標となる登熟期間も短縮化していることが示された。 1970年代に提示されたSearch Model(探索モデル)によれば、育種成果の前進には、遺伝資源の拡充が不可欠で、そのためには遺伝資源プールの分布が理想的な方向へシフトすると同時に、分布が拡大すると予想されている。稈長を例にすれば、稈長の平均値は短稈化を反映し短い方へシフトすると同時に、遺伝資源が多様化することからデータのカバー範囲も広範になり、分布が拡大すると予想される。分析の結果、すべての項目で分布の拡大とシフトが生じ、探索モデルを支持する結果となった。ただし、ジーンバンクデータの蓄積状況には様々な時代背景があり、それらを丁寧に吟味しデータの精度向上が必要となる点、専門家から指摘を受けた。この点については、学会発表の後、個別に訪問して議論し、新たな資料をすでに入手しているので、次年度の分析につなげたい。また、今回の分析は表現型データを対象としている点について、現時点で問題はないものの、今後は遺伝子レベルでの多様性も考慮するよう勧められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題の初年度から継続してきたジーンバンクデータの分析については、一定の成果を得ることができ、育種関連学会での報告につながった。育種担当者や遺伝資源管理の専門家から様々なコメントを得ることができ、より精度の高いデータの構築を進めるところである。また、経済分析への移行に向けては、既存研究の整理が進み、1970年代に提唱された探索モデルをつかった実証分析へと進む過程である。 次年度の早い段階でデータ整理を確定させ、探索モデルの実証分析に進むことが重要であると考えている。ジーンバンクデータの蓄積経過や時代背景に詳しい各専門家とは、密に連絡を取り合っており、意見を反映させながら、早い段階で利用データを確定する。経済分析に必要な育種機関のデータもほぼ揃っており、ジーンバンクデータの確定と同時に、経済分析に入ることができる段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
課題開始から2年が経過し、データ整理と既存研究の整理はほぼ終了している。その上で最終年度は、遺伝資源データと育種データ、とりわけscientist yearといわれる研究員述べ人数や、普及品種となるまでの経過年数、各品種への投資金額など、経済分析に必要なデータと合わせ、探索モデルの実証分析に入る。具体的な推計モデルには、距離関数を応用し、遺伝資源の蓄積効果を推計する。育種におけるジーンバンクの効果を明らかにするには、蓄積によって、削減されたであろう研究員述べ人数を機会費用として推計することで可能と考えている。分析結果は、育種学会などで報告するとともに、国内の農業経済関連学会で報告する。同時に、Research Policyなど、研究開発に関する経済分析結果が多く掲載される雑誌に投稿したい。 遺伝資源の価値については、環境経済学からのアプローチによりオプション価値が推計される事例が多い。すなわち、いつか使用するであろう価値である。しかし本課題では、ひとつの普及品種に隠された多くの廃棄された交配組み合わせや遺伝資源を、ジーンバンクデータから推計することで、ジーンバンクや遺伝資源保全の価値を、育種という実際のデータから明示的に示す試みである。よって、分析結果の解釈は環境経済学のアプローチとは異なるものの、遺伝資源の価値を評価するという点から、環境経済学関連の学会で報告するか、専門家と議論する機会を持つことで、課題の成果を一般化して解釈できるようにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究計画は予定通り経過しているものの、年度途中での異動が生じ、予定していたヒアリング計画や調査計画が変更となった。具体的には、ヒアリング先が異動後の研究機関と近くなるなど、旅費が抑えられた。また、異動に伴う時間的制約があり、予定していたヒアリングを実施できず、電話やメールでの調査に切り替えた、といった事象が発生した。 今年度は研究計画を予定通り推進するとともに、研究成果の報告機会を増やし、育種や遺伝資源、農業経済学など、様々な専門家のコメントを得ることで、投稿論文を充実させていきたい。そのためには、各種学会に参加するとともに、報告後に個別に訪問し、議論の機会をつくるなど、未使用額と合わせ、多くを旅費として執行する予定である。また、海外雑誌への投稿に向け、海外の研究者の協力を得ることも想定しており、海外旅費も含まれている。
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