2012 Fiscal Year Research-status Report
被災地産農産物の安全性に対する消費者評価の回復過程の解明
Project/Area Number |
24580330
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
竹下 広宣 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (00434100)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 被災地産農産物需要 / 放射性物質汚染 / 放射性物質防護関連措置 / 福島第一原発事故 / 政策評価 / 風評被害 |
Research Abstract |
本研究の目的は、被験者を固定して調査を継続的に実施し、放射性物質汚染関連の政策が被災地産農産物に対する消費者評価の回復に及ぼす影響を評価することである。 この目的のもと、日本で取り得る政策を検討するために、チェルノブイリ原発事故後の欧州の放射性物質防護関連措置の把握に努めた。具体的には、IAEAにてヒアリングを行った。調査の結果、汚染食品と非汚染食品の混合や肥育時期に応じた家畜の肥育場所の移動、野生動物狩猟への補助金制度など、欧州のこれまでの措置の把握に至った。これらはいずれも平成25年度調査で消費者に提示する政策案の基礎となる情報である。また、Web調査を実施し、被災地産農産物に対する消費者評価の定量把握に取り組んだ。被験者は、被災地である岩手県、福島県、千葉県、被災地近郊の東京都、神奈川県、被災地遠方の京都府、大阪府に在住の20代から50代の既婚女性で、計4751名である。調査では被災地産農産物へのWTPの回答を求めた。被災地産地として岩手県、福島県、千葉県をとりあげた。WTPの平均値から次のことが明らかになった。①被災地近郊の被験者は、岩手県産、千葉県産、福島県産の順に高いWTP平均値を持つ。②被災地遠方の被験者は岩手県産と千葉県産をほぼ同等に評価し、福島県産を明らかに低く評価している。③被災地のうち岩手県、千葉県の被験者は自身の居住県産を高く評価し、福島県産をもっとも低く評価している。④福島県の被験者は被災地近郊の被験者同様に自身の県産をもっとも低く評価している。しかし、他の都府県被験者よりも福島県産を高く評価している。以上の結果は、被災地産農産物に対する評価が単純に放射性物質汚染の実態と一致しないこと、また、政策効果も消費者の居住地域によって大きく異なる可能性が示唆し、次年度の仮想政策の検討に重要な知見を提供することから意義深いものと位置づけられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本調査ではWeb調査を活用し、被験者を固定した長期的、継続的調査を計画し、平成24年度に500人規模の被験者を対象として4回程度の調査の実施を当初予定していた。しかしながら、Web調査で被験者となるモニターは半年で半減することが通常であることが本研究の開始後に判明した。そのため、本研究の目的を三年間の研究期間において十分に達成するために、初回の調査の被験者を4000人超とし、2014年度下半期に最終調査の時点で500人程度の被験者の継続回答の可能性を高めるために、初年度の調査の実施時期を出来る限り遅い時期に設定するという選択をした。このような事情により、初年度は被災地産農産物に対する消費者評価の回復過程の解明の初期点を明らかにするのみにとどまった。この点を踏まえて現在までの達成度の区分を標記の通り判断する次第である。しかしながら、4000人超の調査を余儀なくされたことで、当初予定していた以上の地域を対象とした調査の実施が可能となった。このため、予算の都合上当初断念していた分析結果を得、新知見を得るに至ったことは計画に示した達成度の遅れを補うものととらえている。 また、国外のヒアリング調査では、IAEAだけではなく行政機関へのインタビューを予定していたが、調査中の不慮の事故により実施できなかった。この調査の未実施により海外の施策の把握ならびに教訓の把握は十分になされたとは言えないことも標記区分を下す理由である。 最後に、平成24年度は学会発表に至らなかったが、平成24年度に実施した調査データの分析結果を、6月のフードシステム学会での発表に向けて準備中であることを付け加えておく。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度のWeb調査と同様の調査を2回ないし3回の実施を計画し、被災地産農産物に対する消費者評価の定量把握を試みる。調査回数は継続調査可能な被験者数とそれに応じる形での研究費の配分に依存する。なお、最終回の調査では、仮想政策を提示し、その下での消費者評価の把握に取り組む予定である。 平成24年度調査データに各回のデータを積み重ね、パネルデータ分析に取り組む。計測モデルの構築に際しては、Foster and Just(1989)が開発したモデルを体系モデルに応用したMazzochi, Stefani and Henson(2004)をベースとし、ベイジアンモデルの開発を計画している。なお、Gianluca Stefani教授(Universita Degli Studi di Firenze)にはモデルの開発で無償協力の承諾を得ている。 以上を通じて、平成24年度から平成25年度にかけての被災地産農産物の消費者評価の回復過程の解明に努める。 なお、Web調査の1回目と2回目の間の期間となる8月末から9月にかけてイタリアを訪問し、計測モデルの洗練化をはかるため、Gianluca Stefani教授と、そしてならびに政策案の効果の適切な評価を可能とするために、リスク研究での実証研究実績豊富な行動経済学者Matteo Motterlini教授(Universita Vita-Salute San Raffaele)と議論する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
3年間にわたって分析に耐えうる数の被験者への継続的調査を実現する上で、平成24年度の調査を当初予定の500人を大幅に上回る4000人超を対象として実施せざるを得ず、かつ平成25年度も当初予定を上回る2000人程度を対象とした調査を実施する必要が生じた。この規模の調査を平成25年度に複数回実施するためには、当該研究費を平成25年度に使用することを決断した。なお、平成25年度は、当初予定されている1,400,000円と当該研究費359,283円の合計1,759,283円を次のように配分する計画である。Web調査費用に120,000円(=40,000円/回×3回)と海外調査旅費に500,000円、そして残りを国内旅費とする。
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