2013 Fiscal Year Research-status Report
被災地産農産物の安全性に対する消費者評価の回復過程の解明
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24580330
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
竹下 広宣 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (00434100)
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Keywords | 被災地産農産物需要 / 放射性物質汚染 / 放射性物質防護関連措置 / 福島第一原発事故 / 政策評価 / 風評被害 / リスクコミュニケーション |
Research Abstract |
本研究の目的は、被験者を固定して調査を継続的に実施し、放射性物質汚染関連の政策が被災地産農産物に対する消費者評価の回復に及ぼす影響を評価することである。 この目的のもと、本年度、チェルノブイリ原発事故後、欧州において、消費者評価の回復に資した取組みの把握に努めた。具体的には、IAEAにてヒアリングを行った。調査の結果、英国においては、食品の放射能検査実態を消費者に公開したことで、各コミュニティー単位で消費者の安心の伝播が発生したとの見解を得た。また、事故と産地を容易に結合させる言葉の使用の回避も有効であるとの見解を得た。 これらの見解を踏まえ、Web調査では、食品摂取を通じた被曝実態と健康への影響の情報と福島県産農産物回避の実態の情報の周知が、消費者評価の回復に及ぼす影響の定量把握に取り組んだ。Web調査被験者は、被災地である岩手県、福島県、千葉県、被災地近郊の東京都、神奈川県、被災地遠方の京都府、大阪府に在住の20代から50代の既婚女性であり、昨年度から継続して回答を得られた被験者数は2835(昨年度の約60%相当)であった。 調査では被災地産農産物へのWTPの回答を求めた。WTPの平均値から次のことが明らかになった。1.検査で汚染濃度が高いと示されている農産物に対するWTPは前年度より低下している。2.被曝実態と健康への影響に関する情報の提供により、福島県、岩手県在住被験者のWTPを高める可能性を持つが、同様のことは、その他の都府県在住被験者にはあてはまらない。3.被験者の福島産農産物完全回避の程度の情報提供は、WTPを低下させる。以上の結果は、被災地産農産物に対する評価は放射性物質汚染の実態と一致する傾向を示し始めていることを示す一方で、単に実態の情報を提供するのみでは、消費者評価回復につながるどころか、消費者評価は逆の方向にシフトする可能性を示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本調査ではWeb調査を活用し、被験者を固定した長期的、継続的調査を計画しており、2回実施予定であった。しかし、IAEAへのヒアリング調査結果を踏まえ、評価する政策(情報)の再考の必要性が生じたため、調査回数を前年度と同時期の1回とした。この変更により、継続回答の十分な数の確保が不安視された。予定では詳細分析に耐えうる1000人弱程度の被験者の継続回答の回答を期待していたが、予想を大幅に超える2835人の回答を得ることができた。そのため、今後取り組む詳細な計量分析から、当初予定以上の多くの知見を得る可能性が高まった。この点においては、当初の計画以上の進展をしていると言える。また、Web調査において、消費者評価回復に有効な政策案の模索を図ったが、調査結果からは、確固たる政策案の特定にまでは至っていない。しかしながら、消費者は放射性物質汚染実態に即した評価をするようになり始めていることが明らかになったことから、今回の調査で想定した政策案については、次年度の調査で再度検討するに値すると考えられる。これを踏まえると、研究はおおむね予定通り進展していると言える。 また、国外のヒアリング調査では、海外の施策の把握ならびに教訓の把握は前年度調査不足分を補えるものであった。しかしながら、施策と消費者評価回復との関係性を証明する情報まで得るには至らなかったことから、標記区分を下す次第である。 最後に、平成24年度、25年度に実施した調査データの分析結果を、6月のフードシステム学会において発表することを付け加えておく。
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Strategy for Future Research Activity |
過年度調査データのパネルデータ分析に取り組む。計測モデルは、Foster and Just(1989)が開発したモデルを体系モデルに応用したMazzochi, Stefani and Henson(2004)をベースとし、ベイジアンモデルの採用を予定している。分析で明らかにする課題は、1.消費者評価の経時的推移、2.消費者評価の収束の可能性、3.消費者評価収束への政策(情報)または集団規範の寄与、以上3点を明らかにすることである。 また、平成26年度調査では、まず、Web調査を実施し、消費者評価回復の点から政策評価と集団規範の有無の確認に取り組む。この結果を踏まえ、評価回復に至らない被験者のみを対象として、行動経済学的実験を伴う対面式調査を実施する。申請時の予定では、対面式調査のみを予定していたが、よりターゲットを絞った調査実施をはかることで、評価回復が容易でない被験者への有効な政策の特定の可能性が高まると考えている。 以上を踏まえ、平成26年度調査では、1,200,000円の予算を、Web調査費用と対面式調査にそれぞれ600,000円を配分する予定とする。
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