2013 Fiscal Year Research-status Report
黒ボク土に蓄積した未利用リン資源の量的評価とリン資源の循環型活用システムの構築
Project/Area Number |
24580345
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
立石 貴浩 岩手大学, 農学部, 准教授 (00359499)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前田 武己 岩手大学, 農学部, 准教授 (40333760)
颯田 尚哉 岩手大学, 農学部, 教授 (20196207)
築城 幹典 岩手大学, 農学部, 教授 (10292179)
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Keywords | 黒ボク土 / 未利用リン資源 / 物質循環 / 土壌微生物 / 有機態リン |
Research Abstract |
作物生産で必須の養分であるリンは、過去の化成肥料の過剰投与の結果として、国内農耕地の土壌に蓄積されている。本研究は、黒ボク土に蓄積されているリンのうち、土壌微生物や一部の植物に限って吸収できる潜在的に利用可能なリン画分(以下PAPと略す)の新たな定量法を確立し、生態系のリン循環の観点からこれらリン画分の回収と有効利用の方策をさぐることを目的としている。本年度は、土壌微生物の呼吸活性測定法である基質誘導呼吸法を応用することで、黒ボク土中のPAPの定量方法を検討し、さらに黒ボク土中のPAPおよびその他の各種リン画分の含有量と植物によるリン吸収量との間の関係性について検討した。 施肥管理の異なる数種の黒ボク土に過剰に炭素源および窒素源を添加することで、土壌をリン律速の状態に置き、その土壌に異なる量の有機態リンを添加して基質誘導呼吸の特徴を評価した。その結果、有機態リンの添加量と土壌からのCO2発生速度との間にいくつかのパターンが認められた。そのうち可給態リンを含まない黒ボク土では、両者の間で有意な正の相関が認められたことから、リン律速にある黒ボク土の基質誘導呼吸は、土壌微生物に利用可能な潜在的なリン画分の量、すなわちPAPを反映していると考えられた。以上の分析により、基質誘導呼吸に基づくPAPの定量法は、可給態リンをほとんど含まない黒ボク土において有効であることがわかった。PAPの植物へのリン供給源としての寄与について評価するため、可給態リンの含有量が異なる黒ボク土を用いて、コマツナを供試植物として栽培試験を行った。可給態リンを含まない黒ボク土ではPAPと植物のリン吸収量との間に正の相関が認められたが、可給態リンを含む黒ボク土での栽培に比べて、成長量は圧倒的に小さかった。このことは、PAPはコマツナに対してリンの供給源ではあるものの、その利用性は低いことを示していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
基質誘導呼吸法を応用した黒ボク土中のPAPの定量法は、可給態リンをほとんど含まない黒ボク土に対して適用できることが明らかになった。しかし、可給態リンを多く含む畑地の黒ボク土、可給態リンをほとんど含まない森林土壌などでは、それぞれ異なる基質誘導呼吸のパターンを示しており、これらの黒ボク土では必ずしもPAPの量的評価には至らなかった。そのため、次年度でPAPの定量法の改善について継続して検討を行う必要がある。 本研究では、PAPという新たな土壌リン画分を提唱している。PAPの植物へのリン供給源としての妥当性を検証するため、平成25年度ではコマツナを供試植物としたポット栽培試験を行ったが、コマツナによるPAPのリン源としての利用性は低いことがわかった。しかし、その他の植物種を用いた栽培試験を実施しておらず、黒ボク土中のPAPをリン源として有効利用できる植物種のスクリーニングの検討が必要である。 PAPの定量法の確立や植物によるPAPのリン源としての利用性について一定の成果は得られたが、次年度に向けた課題もあるため、「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度中にPAPの量的評価には至らなかった黒ボク土(可給態リンを多く含む畑地の黒ボク土、可給態リンをほとんど含まない森林土壌など)に対して、PAP定量法の適用性を継続して検討する。さらに、可給態リンを含まない黒ボク土でも、管理法や植生が異なると、基質誘導呼吸の特性が異なることが、平成25年度の予備実験で明らかになったため、各々の黒ボク土について基質誘導呼吸の特徴を評価した上で、PAP測定のための至適条件を検討する。 PAPの植物へのリン供給源としての妥当性を検証するため、コマツナ以外の植物種、特に共生微生物であるアーバスキュラー菌根菌が感染した草本植物を用いた栽培試験を実施し、黒ボク土における栽培植物のPAPの利用効率とリン供給源としてのPAPの有効性を検討する。さらに、PAP由来のバイオマス資源の堆肥化や緑肥化への応用を検討し、LCAによる環境影響評価を考慮したリン資源の循環的活用システムについて検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
基質誘導呼吸法を応用した黒ボク土中のPAPの定量法の検討において、可給態リンをほとんど含まない黒ボク土に対して適用できることが明らかになったが、可給態リンを多く含む畑地の黒ボク土、可給態リンをほとんど含まない森林土壌などでは、必ずしも妥当なPAP値を得ることはできなかった。そのため、このような黒ボク土に対してPAPの定量的評価を行うため、次年度でPAPの定量法の改善について継続して検討を行う必要がある。この検討のための分析に消耗品費を要するため、次年度に一部の予算を繰り越した。 黒ボク土中のPAPの分析を継続して実施するため、土壌の化学分析に必要な試薬、ガラス器具、ガスクロ用交換部品などを購入する。また、PAPの植物へのリン供給源としての妥当性を検証するため、草本植物を用いた栽培試験を実施するが、これに必要な栽培資材などを購入する。以上の購入に対して消耗品費を使用する。学会での成果発表、実験やデータの統計的解析の実施に必要な謝金、機器使用料、成果公表に必要な論文投稿料などに対して、旅費および人件費・謝金などを使用する。
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