2013 Fiscal Year Research-status Report
東南アジアにおける米多期作化に向けた末端灌漑システムの評価
Project/Area Number |
24580351
|
Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
後藤 章 宇都宮大学, 農学部, 教授 (80162139)
|
Keywords | 灌漑排水 / 東南アジア / 灌漑効率 |
Research Abstract |
タイ・チャオプラヤデルタにおいては、1960年代からの大規模灌漑事業によって灌漑システムの整備が図られ、近年全面的に米の二期作・三期作が展開している。この多期作化の現状は、当初の計画である1.5作(乾季は半分の面積のみ作付)を大きく上回るものであることから、こうした計画を上回る多期作化の進展の要因を探るため、現地調査を実施してきた。デルタ内の灌漑事業地区3箇所を調査対象とし、灌漑用水量データの収集、末端圃場地区での作付・灌漑実態と水収支の把握をもとに分析した。その結果、当地で多期作が大きく展開した要因として、次の諸点があげられることを明らかにした。(1)必ずしも十分でない乾季の灌漑用水供給に対して、末端圃場での高効率の灌漑用水利用が広範囲の乾季稲作を可能にしている。(2)圃場水路網の整備による水アクセスの改善とポンプを活用した反復的水利用が、末端灌漑効率の向上に貢献している。(3)乾季作に適した非感光性で高収量・高品質の品種が開発され普及したことが農民の栽培意欲を向上させた。また、(1)に関連して、灌漑効率の評価方法として、システム全体の灌漑効率を送水効率と末端灌漑効率の積として表示する方法を提示し、灌漑システム評価におけるその有効性を示した。 熱帯地域において米の多期作化が農業生産の向上に大きな位置を占めるのは言うまでもない。その際キーポイントとなるのは、乾季における限られた水供給のもとでの効率的な灌漑用水利用である。今後他地域で期待される米多期作の展開において、タイで得られた上述の知見が有用なものになると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の調査対象3か国のうち、タイ(チャオプラヤデルタ)については調査を完了し、新たな灌漑効率表示法による灌漑システム評価と、米多期作化の要因について結論を得ることができた。これについては、現在学術雑誌への投稿論文を作成中である。 次の対象地ベトナムに関しては、すでに多期作が進行しているベトナム・メコンデルタにおいて、タイでの仮説を検証することを考え、12月~1月にメコンデルタでの概要調査を実施したが、検証のための詳細な調査を実施するには時間的に困難であると考えられた。したがって、今後は、これから多期作の展開が見込まれるカンボジアを対象に、タイでの仮説の適用を中心に据えて研究を進めたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
タイ・チャオプラヤデルタで得られた多期作化実現の要因に関する結論(仮説)をもとに、カンボジア(メコンデルタ)において、米多期作化の実態と進展方向に関する現地調査を実施する。筆者が別件の調査を行っていた2005年当時、当地ではほとんど多期作は普及していなかったが、その後現在ではある程度の進展がみられると聞いている。現地調査では、まず多期作普及の実態を調べるとともに、多期作実現の要因と課題について解明する。その過程で、タイでの調査結果からの仮説を検証するとともに、仮説の適用によって今後の多期作進展への方策について考察したいと考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
学術誌への投稿料を見込んでいたが、論文作成が遅れて次年度に繰り越しとなった。 学術誌への投稿料として使用予定。
|