2013 Fiscal Year Research-status Report
植物工場におけるワサビ種子周年生産のための効率的花成誘導法の確立
Project/Area Number |
24580367
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
野末 雅之 信州大学, 繊維学部, 教授 (30135165)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久保 浩義 信州大学, 理学部, 教授 (60205127)
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Keywords | ワサビ / 花成 / FT |
Research Abstract |
1 花成誘導と低温および日長条件:ワサビ需要増とは逆に国内生産量が減少し加工用ワサビ原料不足が深刻化している。生産農家の減少と温暖化が拍車をかけ、実生苗生産に必要なワサビ種子生産が危機的状況に陥っている。この現状を打破するために、植物工場等でのワサビ種子の効率的な周年採種システムを開発することが有効である。そのために、本研究では「ワサビ花成を人工環境下で効率よく誘導する方法」の確立を目指している。現地調査とこれまでの研究から、長野県安曇野市のワサビ田では平均気温が10℃を下回る11月からの2-3ヶ月間の低温と長日条件が花芽形成に重要と思われる。実験室内では8℃、14時間以上の日長で花成制御のトリガー遺伝子であるFTの顕著な発現と花芽形成が確認された。 2 ワサビ花成誘導に対する光質の影響:上記の条件下で花成誘導に対する光質の影響を調査した。同時に同じアブラナ科長日植物のシロイヌナズでも調査した。 (1)青色光(B)および遠赤色光(FR):シロイヌナズナでは顕著なFT発現と花成誘導が促進されたが、ワサビではこれらの光質に促進効果は認められなかった。(2)赤色光(R):シロイヌナズナではRにより顕著に花成誘導が抑制されるが、ワサビではFT発現と花成誘導に対する抑制効果は認められなかった。(3)シロイヌナズナとワサビにおけるFT発現の違い:シロイヌナズナではCOおよびFTの発現は日周性を示すが、ワサビのFTは明暗期に関係なく常時発現している。FT発現に必須なCOタンパク質の安定性がワサビとシロイヌナズナとで異なり、ワサビでは長日条件下では明暗期に関係なく常にCOタンパク質が存在しているために光質に関係なく花成が常に誘導される可能性が示された。 3 総括:ワサビは気温5~8℃、14時間以上の日長(白色光)に2月間処理することで確実に花成が誘導されることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書で示した「研究の目的」は、(1)ワサビ花成の現地環境調査、(2)閉鎖環境下でのワサビ花成誘導条件、(3)花成誘導後のワサビ種子生産の最適栽培条件を明らかにすることである。 (1)に関しては、ワサビ田の気温をデータロガで測定また気象庁データを参考にした。現地(経度136.54,緯度36.17)の日長は計算により求めた(http://keisan.casio.jp/exec/system/1236677229)。 (2)に関しては、光質の影響をシロイヌナズナと比較し、花成誘導条件の確立に有益な知見が得られたことは大きな進展であった。また、貧栄養ストレスの花成誘導に対する影響を調べたがワサビでは有用な結果は得られなかった。FT発現を直接制御しているCOの発現を調査する計画であったが、ワサビCO遺伝子のクローニング後プライマーを作製に時間を要し、CO遺伝子の発現調査は今回実施できなかった。しかし、FT遺伝子の日周性発現を調査しシロイヌナズナとは異なる新たな知見を得ることができた。 (3)に関しては、ワサビ花成誘導の主要な条件がほぼ明らかにされたので、より効率的な誘導法の確立を目指して現在検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
交付申請書で示した「研究の目的」に即して、平成25年度の研究実績を踏まえて、最終年の研究を推進する。 具体的には以下の通りである。 (1)CO発現とFTタンパク質蓄積の日周性を調べ、ワサビ花成の特性を明らかにし、より効率的な花成誘導法を確立する。 (2)光周性花成以外の花成誘導要因として、SOC1タンパク質の発現について調査する。 (3)花成誘導期間と誘導後の種子生産のための栽培条件を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「ワサビ光周性花成に対する光質の影響に関する研究」が当初計画で見込んだよりも安価に完了した。また、当該年度の研究でワサビ光周性花成誘導に光質は顕著な影響を示さないことが新たに明らかになりその原因調査を次年度に継続した。そのために当初予定した論文作成を次年度に移行したために次年度使用額が生じた。 次年度使用額と平成26年度分助成金と合わせた使用計画は以下の通りである。平成26年度の研究目的は、(1)ワサビ光周性花成誘導に光質が影響しない理由を明らかにし効率的な花成誘導における光環境条件を確立すること、(2)花成誘導後の栽培環境条件を確立することである。そのため、FTタンパク質の恒常的な発現(イムノブロット解析)、FT遺伝子発現のトリガーであるCOの日周性発現を調査(定量的PCR解析)しCOタンパク質の安定性について考察することである。 上記研究を遂行するためにイムノブロット解析用抗体とその試薬、定量的PCR用試薬、プライマー作成などの消耗品購入経費、および英文校閲費用を含む論文投稿と学会発表など成果を公表するための経費に助成金を使用する計画である。
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