2012 Fiscal Year Research-status Report
酸素ストレスを応用した高機能性根菜類生産のための新規環境調節に関する研究
Project/Area Number |
24580371
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
江口 壽彦 九州大学, 生物環境利用推進センター, 助教 (40213540)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 根菜類 / 環境制御 / 酸素ストレス / 抗酸化物質 / 機能性強化 |
Research Abstract |
本研究は,酸素欠乏下では活性酸素種(Reactive Oxygen Species, ROS)が生じて抗酸化物質の生成が促進されるという植物生理学的根拠を基に,高機能性根菜類の効率的生産技術の開発に資する基礎研究を行うことを目的としている.平成24年度は実験システムの準備を含め以下のことを実施した. 研究初年度として,実験に不可欠な固形培地式養液栽培システム(温度,水分,酸素濃度等の地下部環境要因のモニターが可能)を作製した.続いて,栽培システムを気温・湿度が一定に維持されたファイトトロンに設置し,再現性の高い実験条件下で低酸素状態をもたらす処理が根菜類貯蔵器官の生長および抗酸化物質含量に及ぼす影響を調べた.本研究では実用面を重視しており,養液栽培において容易かつ保安上の問題なく貯蔵器官に低酸素状態を創出可能な通気阻害(冠水)処理を採用し,抗酸化物質(アスコルビン酸,α-トコフェロール,β-カロテン)の定量は現有の高速液体クロマトグラフ分析装置により行った. まず,2種の潅水法でサツマイモ塊根の表面が定期的に濡れる条件と濡れない条件を創出して栽培実験を行った.その結果,定期的な培地上面からの潅水は,底面から養液を供給した場合と比べて,塊根の肥大や木化程度には違いを生じないが,塊根に含まれるα-トコフェロール量を有意に増加させることを示した.これは,培地上面から潅水する度に塊根表面に一時的に水の膜が生じて塊根内部への酸素の供給が阻害されるためと考えた.そこで,確実に塊根表面を濡らすことができる極短時間の冠水処理を採用し,単数の1分間の冠水処理を異なる時期に施した.その結果,冠水処理の有無,処理の時期が塊根肥大に及ぼす影響は認められず,また単数の処理では塊根内の抗酸化成分含量に有意な差は生じなかった.したがって,サツマイモ塊根の機能性強化には複数回の処理が必要と考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,高機能性根菜類の効率的生産技術の開発に資するため,実験システムの準備を含め以下の 【課題1】酸素ストレス誘導処理が抗酸化物質含量に及ぼす影響 【課題2】抗酸化物質の蓄積促進が酸素ストレスに起因することの検証 に取り組むこととしており,【課題1】は,品質を損なうことなく抗酸化物質含量の高い収穫物を得るのに有効な環境調節技術の開発に資するための実用的な研究である.ここでは環境調節によって低酸素状態を創出することによりROS発生=酸素ストレスを誘導する.【課題2】は,【課題1】で効果が認められた処理について,直に酸素ストレスを施用した場合との相違を明らかにする基礎的な調査である. 研究初年(平成24年)度は,ほぼ当初の計画通りに,実験に不可欠な固形培地式養液栽培システム(温度,水分,酸素濃度等の地下部環境要因のモニターが可能)を作製し,これを用いて【課題1】に取り組んで以下の知見を得た.サツマイモ塊根の表面が濡れることによる通気阻害が塊根内の抗酸化物質含量に及ぼす影響について,そのストレスの強度よりも回数が大きく影響しうることが示唆された.また,短時間のストレスは塊根の肥大生長に影響しないことが示された.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得た知見に基づき,複数回の冠水処理の影響を明らかにする.また,サツマイモ塊根に高温処理を施すことができる栽培装置を作製して,高温による塊根内部の呼吸活性上昇(すなわち,内部の酸素濃度の低下)を誘導した場合の塊根の肥大および抗酸化物質含量への影響を,高温処理の強度,回数を違えて調査し,これで得られた結果と通気阻害による影響とを比較して,これらの相違を明らかにするとともに,塊根内部で生じている現象を推測する.続いて,これまでの研究で機能性強化(抗酸化物質含量増加)効果が認められた処理について得られた結果と,生育中の塊根に,実際に酸素濃度低下処理あるいは ROS処理を施して直接に酸素ストレスを与えた場合の反応とを比較することで,先の処理による抗酸化物質の蓄積促進が酸素ストレスに起因することを検証する.また,サツマイモ塊根の機能性強化に効果のあった栽培環境の制御法が,サツマイモと同様に過湿な土壌中で貯蔵根肥大が強く抑制されるニンジン貯蔵根の機能性強化にも応用可能であるかを検証する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費の使用計画は以下の通り(前年度残額7,419円は物品費として使用する予定). 【物品費:40万円】1)栽培実験における環境条件モニターのためのセンサ,2)データの整理・処理・保存のためのコンピュータ用消耗品(含ソフトウェア),3)材料植物育成および生育実験のための園芸資材,4)化学分析・遺伝子発現解析等に必要な器具・試薬,5)健全な植物育成に必要な肥料・殺虫殺菌剤等の農薬,6)ニンジン種子,サツマイモ種芋等の植物材料,7)植物環境調節のためのランプおよびガス(酸素など),8)その他. 【旅費:25万円】1)本研究に関わる情報交換や研究成果の公表のための国内旅費. 【人件費・謝金:20万円】1)重量物の運搬作業を含む栽培装置のセッティング,多数のサンプルの形態調査・化学分析調査等のために栽培実験および分析実験の補助. 【その他:15万円】1)学術誌等への成果発表,2)材料準備および栽培実験の場となるファイトトロンの利用に必要な料金.
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