2013 Fiscal Year Research-status Report
酸素ストレスを応用した高機能性根菜類生産のための新規環境調節に関する研究
Project/Area Number |
24580371
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
江口 壽彦 九州大学, 生物環境利用推進センター, 准教授 (40213540)
|
Keywords | 根菜類 / 環境制御 / 冠水処理 / 酸素ストレス / 抗酸化物質 / 機能性強化 |
Research Abstract |
本研究は,軽度の酸素欠乏下では活性酸素種(Reactive Oxygen Species, ROS)が生じて抗酸化物質の生成が促進されるという植物生理学的根拠を基に,高機能性根菜類の効率的生産技術の開発に資する基礎研究を行うことを目的としている.平成25年度は以下のことを実施した. 研究初年度(平成24年度)に作製した固形培地式養液栽培システム(温度,水分,酸素濃度等の地下部環境要因のモニターが可能)を気温・湿度が一定に維持されたファイトトロンガラス室内に設置し,再現性の高い実験条件下で根菜類貯蔵器官の生長および抗酸化物質含量に及ぼす冠水処理の影響を調べた.昨年度は,培地表面からの定期的かつ頻繁な灌水が塊根内部の抗酸化成分含量を上昇させることを示したが,今回は,確実に塊根表面を濡らすことができる極短時間の冠水処理を採用し,貯蔵器官表面のガス交換阻害が貯蔵器官の発達と機能性に及ぼす影響を調査した.栽培期間中に,単数回,2回,あるいは3回の1分間の冠水処理を異なる時期に施した.その結果,冠水処理の有無,処理の回数・時期が塊根肥大に及ぼす影響は認められず,今回施した短時間の冠水処理は塊根の発達に影響しないことが明らかになった.また,抗酸化成分含量は,収穫直前の3日間隔の3回処理においてのみ有意な増加を示した.短時間の冠水処理によって塊根内部にストレスが生じているかを電解質漏出により評価したところ,軽度ながらも同処理が確実にストレスをもたらしていることが明らかになった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度(平成25年度)は,根菜類貯蔵器官の発達および機能性に及ぼす貯蔵器官表面のガス交換阻害の影響を調べるために,様々な冠水処理回数,時期を設定して,準備期間も含めると1回に約2ヶ月を要する栽培実験を5回以上行ったためデータを蓄積するのに時間がかかった.しかし,得られたデータは,短時間の冠水処理が貯蔵器官の発達に影響せずに機能性を向上させる可能性,および短時間の冠水処理により貯蔵器官内部で軽度のストレスが生じていることを明確に示した.
|
Strategy for Future Research Activity |
サツマイモ塊根のみに高温処理を施すことができる栽培装置を作製して,高温による塊根内部の呼吸活性上昇(すなわち,内部の酸素濃度の低下)を誘導した場合の塊根の肥大および抗酸化物質含量への影響を,高温処理の継続時間,回数等を違えて調査し,これで得られた結果とガス交換阻害による影響とを比較して,これらの相違を明らかにするとともに,塊根内部で生じている現象を推測する.続いて,これまでの研究で機能性強化(抗酸化物質含量増加)効果が認められた処理について得られた結果と,生育中の塊根に,実際に酸素濃度低下処理あるいは ROS処理を施して直接に酸素ストレスを与えた場合の反応とを比較することで,先の処理による抗酸化物質の蓄積促進が酸素ストレスに起因することを検証する.また,サツマイモ塊根の機能性強化に効果のあった栽培環境の制御法が,サツマイモと同様に過湿下での貯蔵根肥大が強く抑制されるニンジン貯蔵根の機能性強化にも応用可能であるかを検証する.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の進展がやや遅れたために,予定していた実験の補助に要する人件費(アルバイト代)が消化されなかった. 平成26年度の研究費の使用計画は以下の通り(前年度残額5,127円は物品費として使用する予定). 【物品費:40万円】栽培実験における環境条件モニターのためのセンサ,データの整理・処理・保存のためのコンピュータ用消耗品,材料植物育成および生育実験のための園芸資材,化学分析等に必要な器具・試薬,健全な植物育成に必要な肥料・殺虫殺菌剤等の農薬,ニンジン種子,サツマイモ種芋等の植物材料,植物環境調節のためのランプ・ガス,その他.【旅費:25万円】本研究に関わる情報交換や研究成果の公表のための国内旅費.【人件費・謝金:20万円】重量物の運搬作業を含む栽培装置のセッティング,多数のサンプルの形態調査・化学分析調査等のために栽培実験および分析実験の補助.【その他:25万円】学術誌等への成果発表,材料準備および栽培実験の場となるファイトトロンの利用に必要な料金,本研究を総括する報告書作成に関わる費用.
|