2013 Fiscal Year Research-status Report
酸化ストレス応答を介した肥育牛のアディポジェネシス制御機構の解明
Project/Area Number |
24580399
|
Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
山田 知哉 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産草地研究所家畜飼養技術研究領域, 主任研究員 (80343987)
|
Keywords | 栄養・飼養 / 肥育牛 |
Research Abstract |
最近の研究において、肥満のヒトや実験動物における脂肪組織は慢性炎症状態にあり、この原因として脂肪細胞の肥大化によって脂肪細胞に酸化ストレスが生じていることが明らかとなった。さらにヒトや実験動物では、酸化ストレスに応答し酸化ストレス応答因子を発現することによって脂肪組織における血管新生を促進していることが判明した。そこで本年度は、給与飼料条件の違いが酸化ストレス応答を介した肉牛のアディポジェネシス制御に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 供試牛として、黒毛和種去勢肥育牛を用い、粗飼料多給或いは濃厚飼料多給条件で肥育し、脂肪組織中の酸化ストレス応答因子の発現量を検討した。その結果、内臓脂肪組織におけるMMP9遺伝子の発現は、濃厚飼料多給区と比較し、粗飼料多給区における発現量が有意に高い結果となった。さらに、黒毛和種去勢肥育牛における飼料中抗酸化ビタミン含量の違いが酸化ストレスに及ぼす影響を検討した結果、血中酸化ストレスマーカーである血中イソプラスタン濃度は、高ビタミン区が対照区より有意に低い値となった。さらに高ビタミン区の内臓脂肪では、酸化ストレスの亢進に伴い発現が上昇するVEGFやレプチン等のアディポカイン遺伝子発現が対照区より有意に低かった。一方、皮下脂肪ではアディポカイン遺伝子発現に区による差は無かった。以上より、体脂肪含量の多い肥育牛は酸化ストレス状態にあること、さらに酸化ストレスの影響は脂肪蓄積部位によって異なっており、皮下脂肪と比較し内臓脂肪が酸化ストレスの影響を受けやすいと考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究によって、脂肪蓄積部位並びに給与飼料条件がウシ脂肪細胞の酸化ストレス応答因子発現に影響を及ぼすこと、特に給与飼料条件の違いは内臓脂肪における酸化ストレスに大きく影響していることが明らかになった。これらの結果は、ウシ脂肪組織における酸化ストレス応答を明らかにした初めての知見である。さらにこれらの研究結果をとりまとめ、国際学術誌に論文発表を行った。以上より、研究目標は順調に達成されていると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究計画では、肥育牛脂肪組織における酸化ストレス応答とアディポジェネシスとの関連を明らかにするため、アディポジェネシスに大きく影響する「1.脂肪部位」、「2.栄養条件」、「3.ウシ品種」という3つの要因からのアプローチを行うことを目的としている 給与飼料条件の違いが各脂肪組織における酸化ストレス応答因子発現に影響を及ぼすことを明らかにした本年度の結果を受けて、平成26年度においては、「3.ウシ品種」が肥育牛脂肪細胞の酸化ストレス応答因子発現並びにアディポジェネシスに及ぼす影響について検討を行う。供試牛として体脂肪蓄積能力の大きく異なる黒毛和種及びホルスタイン種去勢肥育牛を用い、慣行の濃厚飼料多給により肥育を行う。24年度及び25年度と同様に、生理機能が大きく異なる各脂肪部位のサンプルを採取し、脂肪組織における酸化ストレス応答因子の発現を検討することにより、ウシ品種の違いが各脂肪組織における酸化ストレス状態に及ぼす影響を明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題の遂行のため、次年度の研究費は、交付申請時の計画通り使用する。なお、繰越額738,042円は、研究費を効率的に使用して発生した残額であり、次年度に請求する研究費とあわせて平成26年度における研究計画遂行のために使用する。 本研究計画では、研究経費の内訳において消耗品費、特にPCR関連試薬及び電気泳動関連試薬の占める割合が高くなっている。これは、脂肪細胞における酸化ストレス関連因子の発現をリアルタイムPCR法等で検出することに加え、皮下、内臓、筋間、筋肉内、腎周囲脂肪という多数の部位にわたるサンプルを測定するためである。特に26年度においては、牛品種の違いが酸化ストレス応答に及ぼす影響を検討する計画であるが、26年度は品種差を検討するという研究目的上、前年度より多くの頭数の肥育牛を用いた脂肪組織サンプルの測定が必要となる。したがって本年度においては、品種差が各脂肪組織における酸化ストレス応答因子遺伝子の発現を測定するため、RNA抽出、cDNAへの逆転写、並びにリアルタイムPCR測定等に用いる試薬、キット類および関連消耗品に係る経費に該当予算を使用する予定である。
|